勤務環境とストレスの密接な相関関係〜高ストレスでも元気な職場の作り方

労務

 経営者が深刻な人手不足に苦しむ一方で、従業員達も残業をこなしながらストレスの高い環境で仕事をしています。経営者としてこれらの問題を何とか軽減しようと取り組んでも、完全に消滅させるのは難しいことです。そこで重要になるのが、できるだけ従業員の自己裁量度を高めるような施策や手順を導入することです。

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残業やストレスを全て取り除くことは現実的に考え難い

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 このところ、ヤマト運輸をはじめとする宅配事業者が深刻な人手不足に苦しんでおり、一方で近年、荷物量が増大していることから、病気になっても休みづらい、また長時間労働を余儀なくされているといった問題をメディアが盛んに取り上げていますね。

 少子高齢化が進む今、「人手不足」は運送業界に限った話ではなく、ほとんどの業界の問題となっています。

 増え続ける業務量に対して、スタッフが足りないため、長時間労働でしのぐしかないというのが現状でしょう。

 経営サイドとしてはもちろん、この状況を放置しているわけではありません。

 なんとかして人手を確保するために多様な雇用形態を編み出したり、ITを導入して業務効率化を図り、少しでも勤務時間を短縮しようと様々な努力を続けています。(倒れるまで働かせることをなんとも思わないブラック企業の経営者は別ですが)

 とはいえ、人手不足は構造的な問題であり、短期的に解決するものではありません。業務効率化にも限界があります。

 そこで、少なくとも、月間の残業時間が「過労死ライン」と呼ばれる80時間を超えないようにする、また、勤務間インターバル制度を採用して最低限の休息時間を取れるようにする、といった対応が必須になります。

 ただ、それでもかなりの残業は避けがたく、ストレスの高い勤務状況が続く状況はそれほど改善しません。

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勤務環境と従業員の仕事に臨む姿勢には相関関係が生じる

 そんな状況でも、なんとかモチベーションを維持してもらい、元気に働いてもらうためにヒントとなる考え方があります。

 それは、

「コントロール(自己裁量度)-デマンド(仕事要求度)-サポート(社会的支援)モデル」

 と呼ばれる、メンタルヘルス管理に関わる医学モデルです。

 これは、従業員の仕事に対する「積極性」や「ストレスの度合い」は、業務における「自己裁量度」、そして業務の量や困難度=「要求度」、そして上司や同僚からの「サポート」の3つの要因によって決まるというモデルです。

節約社長

 以下、この表を使って、勤務環境(自己裁量度・要求度・サポート)と、従業員の仕事に臨む姿勢に生じる相関関係をご紹介しましょう。

1)自己裁量度も要求度も低い環境にいる人⇒ストレスは無いが「言われたことをやるだけ」になる

 過去の研究によれば、業務の自己裁量度も要求度も低い人(図の左下象限)は、「言われたことをやるだけ」という状態になることがわかっています。

節約社長

 業務において自分で決める余地が少ないが、仕事も暇、楽という状況でしょう。仕事のストレスはないのですが、退屈な毎日と感じる人にとっては、別の意味でのストレスが高まるかもしれません。

2)自己裁量度が高く要求度は低い環境にいる人⇒従業員満足度は高いが生産性は低くなる

 業務の自己裁量度は高いのに、しかしその要求度は低いという人(図の左上象限)は、仕事が嫌いな人にとっては天国のような職場かもしれません。

節約社長

 例えば、納期のない仕事を自分の好きなスケジュールでたらたらやれるとしたらほんと楽ですね。

 天下り先で、ひがな一日、自分のデスクで新聞など読んで過ごし、定時に上がる元官僚さんをイメージすればわかりやすいでしょう。

 こんな職場・職務についている従業員の場合、純粋な意味での「従業員満足度」は高いでしょう。しかしながら、ろくに仕事をしておらず、企業の業績向上には当然ながらつながりません。

3)自己裁量度が低く要求度も高い環境にいる人⇒極めて高いストレスにさらされる

 一方、業務の自己裁量度が低いにも関わらず、仕事の量や困難度が高い人(図の右下象限)は、極めて高いストレスにさらされます。

節約社長

 上から「黙って言われたとおりやれ」と言われて仕事はどんどん降ってくる。残業も日常化していることでしょう。いわゆる「ブラック企業」の職場です。

 こうした企業では燃え尽きた人の離職が相次ぎ、また従業員に「メンタルヘルス」の大きな問題を抱えた人も増えやすくなります。

 ブラック企業とは言えないまでも、今、多くの従業員が結果的に置かれているのがこの右下の象限ではないでしょうか。

4)自己裁量度が高く要求度も高い環境にいる人⇒ストレスはあるが仕事に対して積極的に取り組む傾向を持つ

 さて、業務の自己裁量度、そして仕事の要求度も高い人(図の右上象限)は、仕事に対して積極的に取り組む傾向があることがわかっています。

節約社長

 仕事の量が多かったり、難易度が高いとしても、自分の創意工夫の余地があり自己裁量を利かせられる。ですから、辛いながらも仕事を楽しいと感じることもできるでしょうし、またとない成長の機会でもあるわけです。

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難易度が高いストレスフルな職場は従業員の自己裁量度を高めるべき

 以上、このモデルの4象限の解説から言えることは明快です。

 業務量が過大だったり、難易度が高いストレスフルな現場を抱える企業として、今やるべきことは、できるだけ従業員の自己裁量度を高めるような施策や手順を導入することです。

 さらに、上司によるモチベーション維持のための適切なコミュニケーションや、同僚とのチームワーク力向上を通じた「サポート」があれば、厳しい業務環境も乗り越えていくことが可能となります。

 「自己裁量度を高めましょう」、「周囲がしっかりサポートしましょう」と口で言うのは簡単だと思われるかもしれません。

 しかし、残業を減らすために、サービス品質を大きく下げることはできない相談ですから、会社として、職場としてできることに注力するしかありません。

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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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