労災事故が少ない方が良いのは当然のことですが、万が一に、労災事故が起こった場合でも慌てないよう、最低限のルールを知っておくことは、経営者にとって賢明です。労災事故が起こってしまった時に慌てず行動するための、7つのポイントをご紹介いたします。
労災保険を受けるルールを最低限知っておこう
労災事故で従業員が負傷等した場合で、労災保険から必要な給付を受けるには、いくつかのルールがありまして、そのルールに則って手続きを進めて行く必要があります。
実際のところ、労災保険を受けるためのルールは、決して難しいものではありませんが、労災事故自体の発生数自体が、決して多くはないので、
ルールを知らないのが実情という方が、殆どでしょう。
労災事故が少ない方が良いのは当然のことですが、万が一に、労災事故が起こった場合でも慌てないよう、最低限のルールを知っておくことは、経営者にとって賢明です。
そこで今回は、労災事故が起こってしまった時に慌てず行動するための、7つのポイントをご紹介します。
労災保険を受けるなら知っておくべきポイント
1)まずは、被災従業員の生命の安全確保しよう
当たり前の話ですが、万一、労災事故が発生してしまった場合には、被災従業員の生命の安全が第一です。
従業員を病院へ搬送することを最優先で行いましょう。重傷等の場合には、直ぐに救急車を呼んでください。
まずは被災労働者の安全を確保するために、とりあえずどの病院でも良いので、最も適した病院へ搬送して下さい。
これは、保険ウンヌンの前に、人として当たり前の話ですが、会社の風評を考えて、保身に走ってしまった例も実際にありますから、重々念頭に置いておきたいですね。
2)費用を気にせず病院へ駆け込め
従業員が業務中の事故等で負傷した場合には、労災保険指定医療機関であれば、無料で治療を受けることができます。
ただし、労災保険指定医療機関以外で治療を受けた場合には有料か?と言われれば、それは違います。
労災保険指定医療機関以外で治療を受けても、手続きの方法が違うだけで、結果的には治療費が無料となります。
労災保険指定医療機関以外の場合では、一旦、治療費を立替えて、後日、国に支払った治療費を請求することとなります。
戸惑うことなく、事故にあった従業員のニーズに叶った病院へ駆け込みましょう。
3)病院等へ労災事故であることを伝える
労災事故で従業員が、病院等で治療を受ける場合には、病院等へ負傷等の原因が労災事故である旨を伝える必要があります。
なぜなら、労災保険と健康保険、国民健康保険等とでは、医療費の計算方法が違うからです。
事故発生後、すぐに治療を受ける時点では、後述の書類の準備が出来ていない場合がほとんどですから、病院等へは、「後日、必ず書類を提出します。」という旨を伝えましょう。
当日の治療費は、病院の指示に従って支払って下さい。
後日、「様式第5号」を提出する旨を伝えれば、当日の治療費を支払わなくてもよい病院もありますが、書類が提出されるまで、全額又は一部金額の支払いを請求される場合もあります。
治療費の全額又は一部金額を支払っても、「様式第5号」を提出すれば、支払った治療費は全額返還してくれます。
なお、労災保険指定医療機関以外の場合には、治療を受ける間、治療費を全額(10割)支払いこととなり、後日、国に請求をすることとなります。
4)必要書類を病院等へ提出する
治療が無事に終わりました。ここでやっと、費用について考え始めることでしょう。
先程も書きましたが、労災保険指定医療機関へ「様式第5号」という書類を提出すれば、被災従業員は、治療費を支払うことなく治療を受けることができます。
ですから、事故発生後、この「様式第5号」をなるべく早く、病院等へ提出する必要があります。
「様式第5号」は、病院等でもらえる場合もありますが、必ずしも全ての病院でもらえるわけではないので、会社側で用意しなければならない場合もあります。
用紙は、労働基準監督署でもらうことができる他、厚生労働省のホームページからもダウンロードすることもできます。
「様式第5号」には、事故発生の日時、状況、被災した従業員の氏名、生年月日、住所等を記載して、会社の署名・押印をして病院等へ提出します。
提出先は、労働基準監督署ではありませんのでご注意下さい!
なお、もう一つ、「様式第5号」の提出時期について注意すべき点があります。
病院等の精算サイトは、その月の医療費の精算を翌月の初旬に行うのが通常ですから、その精算時点までに「様式第5号」を提出できないと病院では、治療費を労災扱いとして取扱ってくれない場合があります。
大病院などではこの書類提出時期に、シビアなところが多いようです。
もしそうなると、労災保険指定医療機関であっても、一旦、治療費を全額支払う必要があり、後日、国に請求する、という形を取らざる得なくなってしまいます。
月末に労災事故が発生してしまった場合は、特にご注意を。
5)病院変更時には、変更後の病院等へ書類を提出
労災事故が発生し、病院等で治療を受けた後、病院を変更しなければならないケースがあります。
例えば、症状が重傷で、事故後にかかった病院では、診療設備が不十分だった場合や、設備が充実している病院へ転院する場合、はたまた自宅近くの病院の方が、通院に便利で、被災従業員の負担も少ない場合等です。
このように病院等を変える場合には、変更後の病院へ「様式第6号」(通勤災害は、「様式第16号の4」となります。)という書類を提出します。
「様式第6号」には、「様式第5号」同様に事故発生の日時、状況、被災した従業員の氏名、生年月日、住所等を記入する他、転院前、転院後の病院名や所在地、変更理由等を記載します。
この「様式第6号」を提出すれば、転院後の病院等でも治療費を支払うことなく、治療を受けることができます。
6)労災指定病院以外の場合の取扱い
先述の通り、労災保険指定医療機関は「様式5号」の書類提出で、治療費を支払わなくともよいのですが、それ以外の病院では手続きの方法が異なります。
労災事故で負傷等して治療がを受けた病院等が、労災保険指定医療機関以外の場合は、「様式第7号」(通勤災害の場合は、「様式第16号5」
となります。)という書類に、医師等の証明をもらい必要事項を記入して、病院等に支払った領収書(原本)を添付し、労働基準監督署へ提出する必要があります。
その後、従業員に治療費が支給されることとなります。
なお、「様式第7号」の提出は、必ずしも怪我等が完治してからまとめて請求する必要はなく、治療が長引くようでしたら、1ヶ月毎に請求することも可能です。
このように、労災事故で治療を受ける場合には、労災保険指定医療機関で治療を受ける方が、圧倒的に経済面でも事務面でも従業員の負担は少なくなります。
とはいえ最初に書きましたように、従業員の生命の安全確保が最優先ですので、病院が、労災保険指定医療機関であるかどうかにあまりこだわらずに、その時点で最善の方法を選択するようにして下さい。
7)提出書類記載における注意点
最後のチェックポイントとして、提出書類記載における注意点についてご説明したいと思います。
様式第5号、様式第6号、様式第7号等の記載例につきましては、記載例及び解説がありますので、主な項目については、こちらをご参考になさって下さい。「労災書類記載例」
この中でいくつかの項目について補足説明をしたいと思います。
まず、様式第5号⑱他にある「災害発生の事実を確認した者の職名、氏名」ですが、これは、実際に事故を目撃した従業員を書いて下さい。
もし、不明な場合は、事業主又は、所属長の方を記載しておけば良いでしょう。
次に、様式第5号⑲他の「災害の原因と及び発生状況」についてですが、これは記載例の解説にもありますように、なるべくわかりやすく記載する必要があります。
例えば、荷物を落として足を怪我した場合には、
- 「どちらの足のどの部分を負傷したのか?」
- 「荷物は何をどのような姿勢で、何を運んでいたのか?」
- 「荷物の重さは?」
など、なるべく具体的な数字等を入れて記載すると良いでしょう。
様式第6号⑥の「病院等の変更理由」ですが、病院等を変更する理由を具体的に記入すれば良いわけです。
ところが、被災従業員の勝手な意思、例えば、「この病院では治りが遅いから、他の病院で治療を受けたい」等の理由で病院を変更する場合には、従業員が適正な治療を拒否していると判断されてしまい、保険給付が行われなくなってしまう場合があります。
病院を変更する場合には、必ず医師と相談して変更するように、従業員へ伝えておく必要があります。
安全確保を再優先し書類手続きは迅速に行おう
労災事故により労務不能で給料の支給がなされなくなった場合には、休業補償を請求することこととなりますが、休業補償は1ヶ月単位ごとで請求していくのが通常なので、1回目の請求は、事故後ある程度の時間的な余裕を持つことができます。
ですから、労災事故が発生した場合、まずは従業員の安全確保を重要視し、手続きとしては「様式第5号」(通勤災害の場合は、「様式第16号の3」)を提出することが、最優先となります。
今回の記事は、不幸にも労災事故が起こってしまった場合、経営者の方が、最低限知っておいていただきたい内容をわかりやすく解説してあります。
更に詳しい内容を知りたければ、労務の専門家へヒアリングしてみては如何でしょうか?