
事業計画書は、AIに頼めば数分で形になります。見出しも文章も、それらしく整います。
ただ、計画書で大事なのは文章より数字です。客数、客単価、原価率、固定費、借入の返済。ここが甘いままだと、きれいに仕上がった計画書ほど危なくなります。
この記事では、架空の飲食店の2号店の計画をAIに点検させ、数字を実績に合わせると計画がどう崩れるかを見ます。AIの答えのうち、そのまま使えなかったところも紹介します。
AIで事業計画書は作れる?
作れます。構成の案、文章の下書き、表の形は、AIに頼むとすぐにできます。
ただ、数字の根拠はAIの手元にありません。AIは、社長が渡した数字をそのまま使って計画書を仕上げます。「1日80人来る」と書けば、80人の計画になります。
事業計画の数字は、次の順につながっています。
売上=客数×客単価×営業日数
一番外れやすいのが客数です。
営業利益=売上−原価−固定費
原価は売上に原価率を掛けたもの。固定費は人件費、家賃、水道光熱費などです。
借入の返済は、営業利益から払う
元金の返済は費用ではないので、損益の表には出てきません。見落としやすいところです。
AIに向いているのは、この数字のつながりを点検することです。どこか1つが甘ければ、その先の数字はすべて甘くなります。
事業計画を点検するときの分担
社長
数字を渡す
- 計画の数字
- 今の店や前の期の実績
AI
点検する
- 実績より甘い数字を挙げる
- 入っていない費用を挙げる
- 数字を変えたときの利益を出す
聞いていないことは計算しない
社長
確かめて直す
- 返済まで払えるか
- 数字を実績に合わせる
↻ 直したら、同じ指示でもう一度点検させる
AIに渡すもの
点検させるときは、計画の数字だけでなく、比べる相手になる数字も渡します。
- 計画の数字:1か月分の売上の見込み、原価率、固定費の内訳、初期投資と借入の条件。
- 今の実績:今の店や前の期の、客数、客単価、原価率、人件費。新しい事業で実績がなければ、見積書や試しに売ったときの結果など、外から取れる数字です。
実績を渡さないと、AIは「一般的には」という話しかできません。実績と並べると、どの数字が甘いのかを具体的に指摘できるようになります。
架空の2号店の計画を点検させる
ここからは架空の例です。飲食店を1店舗経営している社長が、2号店を出す計画を作りました。借入は1,500万円です。
2号店の計画と1号店の実績(1か月)
| 項目 | 2号店の計画 | 1号店の前期の実績 |
|---|---|---|
| 営業日数 | 25日 | — |
| 客数(1日) | 80人 | 70人 |
| 客単価 | 1,800円 | 1,750円 |
| 原価率 | 30% | 34% |
| 人件費(給与) | 120万円 | — |
| 社会保険料の会社負担 | 書いていない | 給与の15% |
| 家賃 | 40万円 | — |
| その他の固定費 | 30万円 | — |
| 初期投資 | 1,800万円 | — |
| 借入 | 1,500万円(5年で返す) | — |
この数字と一緒に、次の指示をAIに渡しました。
2号店を出すための事業計画を作りました。添付の数字を点検してください。 1. 売上(客数×客単価×営業日数)、原価率、固定費、借入の返済について、根拠が弱い数字を挙げてください。 2. 1号店の実績と比べて、甘い数字があれば指摘してください。 3. 計画に入っていない費用や支払いがあれば挙げてください。 4. 数字を1つずつ変えたとき、1年の営業利益がいくらになるかを表にしてください。 5. 計算は式も書いてください。
AIの答えの一部です。
3項目すべてが1号店より良い方向にそろっている点が最大の懸念です。
| 項目 | 1号店実績 | 2号店計画 | 差 |
|---|---|---|---|
| 客数/日 | 70人 | 80人 | +14.3% |
| 客単価 | 1,750円 | 1,800円 | +2.9% |
| 原価率 | 34% | 30% | -4pt |
社会保険料の会社負担(給与の約15%):1号店の実績データとして明記されているにもかかわらず、2号店の人件費120万円は「社員2人・パート4人の給与」とだけ記載されており、会社負担分が乗っていない。→ 月18万円(120万円×15%)の追加費用が想定される。
2号店の数字は、客数も客単価も原価率も、1号店より良い方に置かれていました。新しい店が開店の月から今の店を上回る、という見込みです。社会保険料の入れ忘れも見つけています。
ほかにも、借入の利息、カードなどの決済手数料、開業前の採用費が計画に入っていない、という指摘がありました。
数字を実績に合わせると、計画はこう崩れる
AIの指摘に沿って、数字を1つずつ1号店の実績に合わせてみます。
数字を変えたときの1年の営業利益(架空の2号店、万円)
| 変えた数字 | 売上 | 営業利益 | 返済後に残る |
|---|---|---|---|
| 計画のまま | 4,320 | 744 | 444 |
| 客数を70人に | 3,780 | 366 | 66 |
| 客単価を1,750円に | 4,200 | 660 | 360 |
| 原価率を34%に | 4,320 | 571.2 | 271.2 |
| 社会保険料を入れる | 4,320 | 528 | 228 |
| 4つとも1号店に合わせる | 3,675 | −70.5 | −370.5 |
「返済後に残る」は、営業利益から1年分の元金の返済300万円(1,500万円÷5年)を引いた額です。赤茶色の数字はマイナスです。
数字を変えたときの1年の営業利益(架空の2号店、万円)
1つずつなら、どれも黒字のままです。一番大きく下がるのは客数で、10人減るだけで営業利益は半分になります。
ところが、4つとも1号店の実績に合わせると、営業利益はマイナス70.5万円になります。返済の300万円どころか、店を開けているだけで赤字です。
では、何人来れば返済まで払えるのか。1号店の客単価・原価率・社会保険料で計算すると、固定費は月208万円です。客数が1日1人増えると、月の粗利は28,875円増えます。
81人
計画の80人は、1号店の数字で見ると返済にも届きません。2号店を1号店より11人多く集まる店にできる理由がなければ、この計画は見直しが必要です。
ここでは簡単にするため、税金・減価償却・利息は入れていません。返済は税金を払った後のお金から行うので、実際はもう少し厳しくなります。
AIの答えで、そのまま使えなかったところ
AIの計算は、別のプログラムで計算し直して一致を確かめました。それでも、次の3つはそのままでは使えません。
- 利息を営業利益から引いていた:AIは「利息を加えたときの営業利益」を計算していました。利息は、営業利益を出した後に引く費用です。引く場所が違うと、店そのものがもうかっているのかが見えなくなります。
- 返済を払えるかは計算していなかった:AIは「元金の返済は損益計算書に乗らない」と正しく書いています。ところが、その返済を払えるかどうかは計算していませんでした。一番確かめたいところです。
- 金利や設備の使える年数を、仮の値で置いていた:AIは「仮置き」と自分で書き添えています。借入の本当の条件と、設備の見積書の数字に置き換えます。
AIは、聞いたことには答えます。聞いていないことは、計画に大事なことでも自分からは計算しません。「返済まで払えるか」は、社長が指示に入れておく必要があります。
関連記事No.30003AIを活用した資金繰り表の作り方 お金が足りなくなる月を事前に知る方法点検した計画を、どう直すか
客数は、今の店の実績から始める
新しい店は、開店してしばらくは客数が少ないのが普通です。最初の数か月は、実績より低く置きます。
原価率と社会保険料は、実績の数字を使う
計画だけ良い数字にする理由がなければ、今の店と同じにします。
返済と利息を入れた、お金の表を作る
損益の表とは別に、月ごとに入ってくるお金と出ていくお金の表(資金繰り表)を作り、手元のお金が足りなくなる月がないかを見ます。
下回ったときに何をするかを決めておく
「開店から半年、1日70人に届かなければ営業時間を短くする」のように、先に決めておきます。
数字を直したら、もう一度同じ指示でAIに点検させます。
関連記事No.19569補助金申請に向けた事業計画書の書き方を経営の専門家が解説よくある質問
融資や補助金の事業計画書も、AIで作ってよいですか?
下書きには使えます。ただ、審査で聞かれるのは数字の根拠です。AIで作ったかどうかより、客数や原価率をどこから出したかを説明できるかが大事です。書式や求められる項目は、申し込む金融機関や補助金の最新の要領で確かめてください。AIで作った計画書だから融資や採択に通りやすくなる、ということはありません。
新しい事業で、比べる実績がありません。
見積書、仕入れ先の価格表、試しに売ったときの結果など、外から取れる数字を渡します。AIに業界の平均を聞くと、出典のない数字を返すことがあります。使う前に、出典を開いて確かめてください。
会社の数字をAIに入れても大丈夫ですか?
社名や取引先名は消してから渡します。会社で使うなら、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けのプランを選んでください。
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