
「明るくて気が利く人がほしい」。求人を出す前に社長が書くメモは、たいていこうなります。
ところが、このメモのままでは面接で何を聞けばよいのかが決まりません。結局、会ったときの印象で採ることになり、入社してから「思っていた人と違った」となりがちです。
この記事では、架空のリフォーム会社の社長のメモをAIに渡し、1年後にしてほしい仕事から、採用の条件と面接の質問を作った例を紹介します。AIの答えのどこを直したか、なぜ直したかもあわせて載せます。
採用基準は「1年後の仕事」から作る
採用基準というと、「明るい」「素直」「協調性がある」のような人柄の言葉が並びがちです。でも、人柄の言葉は、面接官によって受け取り方が違います。同じ応募者でも、社長は「明るい」と感じ、別の社員は「落ち着きがない」と感じることがあります。
そこで順番を変えます。
役割を書く
この人に任せる仕事の範囲です。
1年後の成果を書く
その仕事で、1年後にできていてほしいことです。数えられる形にします。
必須条件を決める
それがないと、1年後の成果が出ないものだけにします。入社後に教えられることは入れません。
面接の質問を決める
必須条件ごとに、前の仕事でどう動いたかを聞く質問を1つ用意します。
厚生労働省も「公正な採用選考の基本」で、面接は職務に必要な適性・能力を見る観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておくよう求めています。役割から作ると、この形に自然となります。
社長のメモをAIに渡す
ここからは架空の例です。社員12人の住宅リフォーム会社の社長が、事務の人を1人採ろうとしています。社長のメモは次のとおりです。
事務の人を1人採りたい。明るくて気が利く人。電話や来客の対応、見積書や請求書の作成、職人さんとお客さんの日程の調整をしてもらう。パソコンが得意な人。長く働いてくれる人がいい。
このメモと一緒に、次の指示をAIに渡しました。
社員12人の住宅リフォーム会社の社長です。事務の人を1人採用したいので、求人と面接の準備を手伝ってください。 (ここに社長のメモを貼る) 1. この仕事で、入社して1年後に出してほしい成果を3つ書いてください。 2. 成果ごとに、採用の必須条件を書いてください。 3. 必須条件ごとに、面接で聞く質問を書いてください。 4. 求人票に載せる「仕事内容」と「求める人物像」の文を作ってください。
AIの答えの一部です。
成果①:電話・来客・日程調整の「一次窓口」が完全に定着している
電話・来客対応、職人さんとお客様の日程調整をすべて任せられる状態になり、社長や職人が現場作業に集中できている。ダブルブッキングや調整漏れによる工期トラブルがゼロ。
成果①に対する必須条件(4つのうち2つ)
・明るくハキハキした対応ができる(第一印象・電話口の声のトーン)
・「気が利く」=指示を待たず、次に必要なことに気づいて動いた経験がある
成果③に対する必須条件(3つのうち1つ)
・過去の職場で1〜2年以上、腰を据えて働いた実績がある(短期離職の繰り返しがない)
面接の質問(明るさ・気が利くかどうかについて)
・「指示されていないのに、気づいて自分から動いた経験を教えてください」
・(面接全体の受け答えの声のトーン・表情・相槌の様子も評価材料にする)
求人票の仕事内容(末尾)
最初は先輩社員がフォローしますので、未経験の作業も少しずつ覚えていただければ大丈夫です。
成果から条件、条件から質問へと、頼んだ形にきちんと分けてくれました。「指示されていないのに、気づいて自分から動いた経験」のように、前の仕事での行動を聞く質問も入っています。
ただ、このまま求人に使うと困るところがいくつかありました。
AIの答えを直したところ
AIの答えと直した理由
| AIの答え | 直した後 | 直した理由 |
|---|---|---|
| 必須条件が11個 | 3つにした。残りは「歓迎」か「入社後に教える」へ | 11個すべてを満たす人は、めったにいない。必須は、ないと1年後の成果が出ないものだけ |
| トラブル・ミスが「ゼロ」 | 「見積書を、頼まれてから2営業日以内に出す」のように数えられる形に | ゼロは1回のミスで達成できなくなる。何をがんばればよいかも伝わらない |
| 声のトーン・表情も評価する | 電話の取り次ぎを1件、実際にやってもらう | 第一印象は、面接官によっても、応募者の緊張によっても変わる。仕事の場面を見る方が確か |
| 前の職場で1〜2年以上 | 必須から外し、勤務時間や通勤が希望と合うかを確かめる | 前の職場を短く辞めた理由は、本人ではなく職場の事情のこともある |
| 先輩社員がフォロー | 削除 | 事務は1人だけで、先輩はいない。AIはメモにない事実を書き足すことがある |
| 未経験でも大丈夫 | 必須条件と同じ言葉にそろえた | 必須条件では「実務経験がある」としていて、求人票と食い違っていた |
一番気をつけたいのは、「先輩社員がフォロー」のような書き足しです。求人票に事実と違うことを書くと、入社した人は「話が違う」と感じます。AIの文は、会社の事実と1行ずつ突き合わせてから使います。
「長く働いてくれる人」も、AIは「前の職場で1〜2年以上」という条件に置き換えました。社長のメモの言葉を、そのまま条件にしようとしたわけです。けれど、面接で長く働く人かどうかを見抜くのは難しいです。面接で確かめられるのは、仕事の中身や働き方が本人の希望と合っているかどうかまでです。
直した後の採用基準
役割から作った採用基準(架空のリフォーム会社の事務)
役割:事務(電話・来客、見積書・請求書、日程の調整)社長のメモ「明るくて気が利く人」を、1年後の成果から作り直した
必須条件は3つだけです。リフォーム業界での経験や、見積書を作った経験は「歓迎」に回しました。あれば早く慣れますが、なくても教えられるからです。
「明るくて気が利く人」という社長の言葉は消えていません。担当者のいない電話をどうつないだか、予定が変わったときに誰に連絡したか。その答えの中に、気が利くかどうかが出てきます。
AIに任せてはいけないこと
- 合否を決めること:AIに応募書類を読ませて点数を付けさせ、その点数で落とす、という使い方はしません。AIの答えには、この記事で見たような書き足しや思い込みが混じります。
- 聞いてはいけない質問の見落とし:厚生労働省は、本籍や出生地、家族のこと、住まいのこと、宗教や支持政党、尊敬する人物や愛読書などを、応募書類や面接で聞かないよう求めています。AIが作った質問も、この一覧と照らして一度見直します。
- 応募者の個人情報をそのまま入れること:履歴書をAIに読ませるなら、名前や住所などを消してから渡します。会社で使うなら、入力した内容を学習に使わない法人向けのプランを選びます。
よくある質問
採用基準は、新卒と中途で分けるべきですか?
役割と1年後の成果から作れば、自然に分かれます。新卒は経験を必須にできないので、「入社後に教える」の項目が多くなります。そのぶん、教える人と時間を会社の側で用意しておきます。
面接の評価は、どう付ければよいですか?
質問ごとに、応募者の答えに出てきた行動を書き留めます。面接が終わったらすぐに、必須条件に照らして記録します。2人以上で面接するときは、同じ質問と同じ表を使います。
採用基準は一度作れば終わりですか?
採った人が1年後にどうなったかを見て、直します。採用基準や質問に加え、入社後の教育・仕事の任せ方・働く環境も振り返ります。成果だけで採用基準の正誤を決めないようにします。
参考資料
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」(2026年9月27日確認)
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