規模拡大と若手の意欲を両立させる「楽しい」という言葉

お互いに求め合ってしまう経営者と新卒社員

 新卒で入社した社員も1か月の社会人経験を積み、少しずつ会社での過ごし方に慣れ始める頃である。

 筆者はここ10年来5月になると、経営者同士が友人関係にあるITシステム企業の飲み会へ参加させていただく。

 その企業は「自己の成長や社会への志を共にするメンバーを採用すること」を新卒採用の目標としており、実際に新卒採用当初はそのような社員が集まっていた。

 当該企業の企業規模は年々拡大し続け、うらびれた3階のオフィスで1人から始まったのは遥か昔のこと、今は70人超の大所帯である。

 しかし規模拡大と共に、同社の飲み会に参加する人間には変化が生じてきた。

 初参加する新卒採用の新人や若手社員達が、ここ数年「どこか冷めた太鼓持ち」メンバーに偏っているのだ。

 彼らは優秀でうまく答える。しかし会社に対して冷静な考えや批判、キャリア上の打算を抱いており、苦労はなるべくしたくなさそうだ。しかも経営者に本音は決して伝えない。

 一方で経営者本人の規模拡大に対する意欲は衰えず、新卒社員にも「大きく失敗と苦労をしてもらい、いずれは大成してほしい」と心から願い、飲みながら説いて回る。

 若手社員達はとりあえずその場で先輩を敬い、言葉を繕うがどこか冷めている。

 勢いで乗り切って規模を拡大してきた企業内では、経営者・役員と若手や新卒の間で、往々にしてこのような意識乖離が生まれやすい。

 しかしお互いが「まずは会社に守られたい」「お前たちが成長しなければ」と互いに求め合う関係では、業績悪化など会社の歯車が合わなくなった時に、組織は脆く崩れ去ってしまう。

求め合いを作らない組織づくりに必要な視点

 もし若手が冷めた場面を見て「理念に共感できないなら何故うちの会社に入った?」「彼にはうちの会社に勤める能力がない」と口にすることがあるならば、夫婦関係を思い出してほしい。

 夫婦関係がうまく行かなかった時に前述の発言内の「会社」という言葉を「家族」に置き換えて、同じ言葉を口にしてみよう。

 「価値観が合わないなら何故家族になった?」「彼女には能力がない」うまくいかない原因を他者に求めてしまっていることがわかるだろう。

 夫婦で反りが合わないならば、別れることで関係解消することも選択肢の1つだ。

 しかし子供やローンなど負うべき責任が増えているならば、関係継続が不可欠な場合もある。この場合は、お互いの良い部分を認め、進んで自らが妥協し、現実を認める努力が必要になる。

 もし創業期から規模拡大フェーズに入り、社員が増えた時に貴方が過度な期待を社員に抱いて、それに社員が応えず本音も言わず、それに輪をかけて貴方が失望する状況にあるならば、関係改善のために「若い人達が何を感じているか」現実を知ることは重要だ。
 
 若者を冷静に見る上で興味深い意識調査が発表されている。就職情報サイトを運営しているマイナビによる、『2015年マイナビ新入社員意識調査(調査対象2,786人)』だ。

 この調査は5年連続して行われているが、今回の調査で特筆すべき質問・回答は以下の2つだ。

1)社会人生活への期待は?

  • かなり期待している:27.2%
  • どちらかといえば期待している:41.9%

 合計すると”社会人生活に期待している新卒社員”は約70%に及んだ。この数字から若者は皆いきいきしていると考える人もいるだろう。しかし回答の内訳では”かなり期待している”と答えた新卒社員は、2011年と比較すると10.1ポイントも下がっている。社会に対して冷静な若者が増えているのだ。

2)仕事とプライベートの優先順位

 プライベート優先の生活を送りたいと答えた人の割合は、53.3%に及んだ。これは過去最高の数値で「仕事を優先したい」と回答した人の割合を調査開始(5年前)以来、初めて上回った。残業してもよいと答えた人の割合77.0%、アフター5(業務終了後)は会社の人と過ごしたいと答えた人の割合20.6%は、いずれも過去最低の数値である。

 大半の若手は、このような風潮を持つ環境の中で学生生活を送っていたのだ。若手がどのような環境の中にいたかを背景として知り、行動の背景を想像することは賢明だ。

若手目線の「楽しいからやる」を尊重する

 冒頭の冷静な若手達は本質的に能力がないから、仕事に対してモチベーションがないのであろうか?

 そう考えるのは早計である。

 先ほどの調査によると、「社会人として仕事をしていく上で重要だと思うこと」について、41.4%の若者が「楽しさ(2位)」と回答している。

 この数値は「人間関係(1位)」や「挑戦(3位)」といった回答の数値が下がったのに対して、上昇している。

 会社が創業期から規模拡大のフェーズに入り社員が増えると、経営者はどうしても自分が経験してきた「苦労すらも今考えれば楽しい思い出だ」という価値観を、若手に押し付けがちになる。

 しかし今の世代は「楽しいと思ったからまずはやってみようか→苦労してもあの時の楽しさを忘れないでやる」という思考回路にある若手が多い。「成功を夢見ているから死ぬ気で苦労してもやってみる→やった結果成功してとても楽しい」という思考回路を持つ若者は稀有の存在なのだ。

 経営者やマネジメント側の目線からではなく、若者の目線から見て「楽しそうなので自分がやりたい」と期待させる取り組みを複数用意しよう。

 いずれ大きな苦労を買って出てもらう彼らには、最初に「自分が楽しいからやる」という体験が必要なのだ。

時事
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