ガリバーに学ぶ「やらない」で最大の価値を生む戦略の立て方

企業分析

 戦略とは、文字通り「戦いを略した」もの、つまり「戦い方を決めること」に他なりません。言うなれば戦う場所を決めると共に、「やらないこと」を決めることが戦略を策定する上で最も重要なことと言えます。中古車買取の超大手企業ガリバーは「やらないこと」を決める上で、私達にとって非常にお手本となる会社です。ガリバーが大胆に「やらない」と決めたこととは?ショーンが解説してくれます。

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戦略とは戦いを省略するための決め事である

 本屋に行ってビジネス書のコーナーに行けば、「戦略」という言葉がタイトルや帯に書かれている本が数多置いてあります。

 ダイヤモンドやプレジデントなどの雑誌にもかなりの頻度で「戦略」に関する特集が組まれています。

 世の中の多くの経営者が「いい戦略」というものを求めて情報収集をしているのです。

 もっとも「いい戦略」なんてものが本を読むだけで再現できれば、の話ですが。

 戦略とは、文字通り「戦いを略した」もの、つまり「戦い方を決めること」に他なりません。

 どの戦場で敵とぶつかり、どの戦場では敵と戦わないか。どこで勝負を仕掛け、どうなれば撤退するのか。

 簡単に言えばこれらを決めることが経営者の最も重要な仕事であり、他の仕事はそれに付随するものでしかありません。

 勝負はやってみないと分からないとは言いますが、戦略の優劣で戦う前からすでに勝負が決まっているような例も世の中には溢れています。

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いかに”やらないこと”を決めるかが最も重要

 優れた戦略は色々なところで取り上げられ、MBAの講義の題材である「ケース」になっていることも少なくありません。

 ソニーのウォークマンやAppleのiPhone、トヨタのレクサスなど優れた製品には優れた戦略があります。逆の言い方をすれば、これらは優れた戦略があったため優れた製品として大ヒットしたと言えます。

 では、優れた戦略とは何でしょうか。本や雑誌では取り上げられることは少ないのですが、私はいかに”やらないこと”を決めるかが、優れた戦略であるための大きなポイントだといつも説明しています。

 戦略を語った本や記事を読むとどうしても、「あれをやってみよう」と考えてしまいがちですが、それを真似てそのままうまくいくことは皆無でしょう。

 その背景にある”やらなかったこと”にも目を向け、自社の戦略のなかに”やらないこと”をしっかりと組み込むことが最も重要なのです。

 ”やらないこと”を決めることの重要性をガリバーインターナショナル(以下「ガリバー」)の戦略を使って解説していきます。

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ガリバーはやらないことを決めて成功した企業

 ガリバーはご存知の通り中古車買取の超大手企業で、「買取専門」を掲げて中古車業界を席巻し、瞬く間に売上を拡大していきました。

 実はこの「買取専門」という言葉こそがガリバーの戦略の要であり、”やらないこと”を見事に体現した戦略と言えます。

 ガリバーの戦略を解説する前に、まずは一般的な中古車販売のビジネスについて説明しておきましょう。

 中古車販売というビジネスは、個人から中古車を仕入れて、それをメンテナンスして値付けをして、また個人に販売するというモデルです。

 儲けるためには「安く仕入れて」「高く売る」が鉄則ですので、いかに個人から安く買いたたくか、そしていかに個人に高く売りつけるかが勝負を決めるのです。

 そうなると重要なのは販売力ということになります。

 しかし、どんなにすごい販売力があったとしても仕入れた(買い取った)車をすべて売り切ることなどできませんし、店舗で販売する以上は、一定数の在庫は常に抱えなければなりません。

 また、売れ残った車を値引き販売することも、考えておかなければなりません。

 仕入れ値(買取価格)に対して単純に利益を上乗せするだけではなく、在庫リスクや値引きのバッファーなども加味された上で中古車の販売価格は決定されています。

 中古車販売というのは消費者から”買い取った”価格よりも、遥かに高い価格で消費者に”売る”ことでなりたっているビジネスなのです。

 商品を仕入れて販売するというビジネスをされている方なら、在庫リスクや値引きバッファーを売価にあらじめ組み込んでおく、ということは当たり前のこととしてご理解していただけるかと思います。

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ガリバーの「売らない」はなぜ成り立つのか?

 中古車販売が、特にあくどいビジネスであるわけでもなんでもありません。

 しかし、ここに「買取専門」を掲げて切り込んだのがガリバーでした。

 ガリバーのビジネスモデルは文字通り「買取専門」、つまり従来の”買い取って・売る”という中古車販売ビジネスから”売る”ということをやらないことを戦略的に決定したのです。

 とはいえ、本当に買い取るだけでは、ガリバーの売上はゼロです。

 実はここに、この戦略を成り立たせるための、中古車販売業界の仕組みがもう1つ隠れています。それは、各中古車販売店が買い取った中古車を売りさばくための「オークション」、という方法が業界内にあるということです。

 ガリバーのビジネスモデルを理解してもらうために、この部分をもう少し詳しく解説します。

 一般消費者から見れば、中古車販売店は”買い取った”車だけを売っているように見えるのですが、実はそうではありません。

 各販売店は、在庫を増やしたり、また売れない在庫をさばいたりするために、中古車業者だけが参加できる「オークション」を活用しているのです。

 この「オークション」にはもちろん一般消費者は参加できません。

 つまり、中古車販売のビジネスモデルは、オークションという仕組みを介して業界内で在庫を流通させる、という構造を元々持っているということです。

 自店舗で売れるものはもちろんそのまま展示して販売しますが、売れないと判断した中古車はオークションにまわされ、そこで別の業者が買い取っていくということです。

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ガリバーのモデルが消費者の支持を得たワケ

 ガリバーはここに目をつけました。

 「消費者から”買い取った”中古車をすべてオークションでさばくことに注力すればいいのではないか」と考え、実行したのが「買取専門」です。

 ガリバーは一般消費者から中古車は買い取りますが、一般消費者に対しては販売しないのです。

 だから「買取専門」と標榜しているわけなのですが、ビジネスとしてはオークションで売りさばくことで売上をあげ、利益をあげていくというモデルなのです。

 このビジネスモデルのメリットは、「オークション」というその時点での”売価”がある程度分かる仕組みがあるので、買取時に買い叩く必要がないということです。

 つまり消費者にとって、「ガリバーの方が高く買ってくれる」という状態が作り出せるということです。

 ガリバーは買い取ったらすぐにオークションに出品して、売上を確定させていきますので、他の中古車販売店のように在庫リスクや値引きバッファーを考える必要がありませんし、いくらで売れるかが分かった上で買い取るので、ほぼ確実に利益が出るのです。

 また、「ガリバーの方が高く買ってくれる」ので消費者はどんどんガリバーに中古車を持ち込み、ガリバーの売上はどんどん増えていくことになります。

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大事なのは付け足すことではなく差し引くこと

 自店舗で買い取った車を、そのまま自店舗で販売することが出来れば大きな利益を上げることができますが、売れ残るリスクなどを考えればなるべく低い価格で買い取らざるを得ない、というのが従来の中古車販売店の考え方です。

 それに対して、ガリバーは自店舗で販売することをやめたことで、売れ残るリスクを排除し、その分買取価格を高くし、消費者から支持され、瞬く間に店舗を拡大していったのです。

 ビジネスモデルや戦略といった文脈の中で、ガリバーの”売ることをやめる”という戦略的な意思決定は非常に優れたものであると言えます。

 これは羽鳥社長が中古車業界に精通していたからこそ思いついた戦略ですが、ここで理解して欲しいのは、業界構造を深く知ることが大事なのではなく、「引き算」の発想の重要性です。

 大ヒットした商品の戦略というのは後からみれば非常にシンプルなことが多いものですが、同時にその商品が登場するまでは誰もやらなかったような業界の常識をぶちこわすようなものが殆どです。

 つまり、優れた戦略とは、「何を付け足すか」ではなく、「何を差し引くか」が重要であるということです。

 「なんでもかんでもやめればいい」というわけでは決してありませんが、色んなものを盛り込んだ複雑な戦略などほぼ間違いなくうまくいきません。

 新しい基軸を打ち出そうとするときは、何か新しい要素を追加しようとするのではなく、何かを削ることで決定的な違いを生み出すことができないかどうか、という観点で考えるべきなのです。

 もちろん、その業界やビジネスの構造を深く理解して上で。

 この観点は、近年では「フルーガル・イノベーション(質素・倹約的な改革)」とも呼ばれています。

 昔から続けてきたビジネスモデルや業界の慣習を変革するというのは大変だとは思いますが、新しいものを生み出すときには「常識を疑え」が鉄則です。

 いつもと違う目線で、自社のビジネスをもう一度見直してみましょう。

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ショーン

某ビジネススクールのMBAホルダーで、税理士資格保有者。
税理士資格は持っていますが、最近ではほとんどそちら側のお仕事はしておりません。

金融機関、会計事務所、CFOなど経験から会計・財務・税務分野はもちろんのこと、法務や社内システムの構築、戦略策定、プロジェクトマネジメントなどを得意としております。また、「効率化マニア」なので、タスク管理や読んだ本のデータ蓄積などを通じて、限られた時間で最大のパフォーマンスを出す方法をいつも追求しています。

コンフィデンシャルなお仕事も多いため匿名でのニュース投稿になりますが、私の経験や知識が少しでも多くの中小企業経営者のみなさまのお役に立てれば思い、精力的に投稿していきます。

なお、ニックネームおよびプロフィール写真は、私の大好きなプロスノーボーダーである「ショーン・ホワイト」から拝借しました。

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