貴方の会社に、年収600万円のサラリーマンAがいました。
彼は営業として伸び盛りで、今年は年間1200万円の粗利を上げるようになりました。
ところが貴方は彼からいきなり、「1000万円もらえないと会社を辞める!」と宣告されます。
さて、どのようなことを彼に理解してもらい、交渉する必要があるでしょうか?
従業員がいきなり大幅な年収アップを訴える時
貴方の会社に、年収600万円の営業担当サラリーマンAがいました。彼は営業として伸び盛りで、今年は年間1200万円の粗利をやっと上げるようになりました。
粗利ベースで1200万円ですから、年収600万を渡すと労働分配率は彼だけで50%(通常は全体で40%前後)に達し、経営者にしてみればかなりの大盤振る舞いです。
自分の報酬は、他の会社の利益から出してでも、サラリーマンAを鍛えようとしています。
ところがある時、サラリーマンAが、「1000万円もらえないと会社を辞める!」と言い始めました。入用なのかもしれませんが、あまりにも唐突に彼がそう言い始めたので、貴方もかなり困惑します。
「いやいや、利益1200万円で年収1000万円あげたら、会社は潰れるでしょ」
心のなかでつぶやいたところで、彼は営業は出来ますけれど、会社の経営は理解できていないのです。
ですから、アバウトな説明で穏便に収めようとしても「なんで搾取されなければいけないんだよ。」という感じで抗ってくるのです。
経営者は、彼らの要求をどのように判断し、交渉を進めればよいのでしょうか?
社員に説明しておくべき利益と利益配分の方法
まず経営者は、会社の利益や人件費がどのように捻出されるのかを、年収アップを訴えるサラリーマンAに対して、説明する必要がありそうです。
利益に対する認識の乖離を考えてもらう
利益とは単純にいうと「売上‐経費」によって算出されるものです。
ところが、サラリーマン個人が把握できるのは、大抵の場合、
- 自らあげた売上
- それに直接的にかかる経費(仕入れ、外注など)
- 自分の給与
に限られます。
これにより計算できるのは、いわる粗利益です。
要求どおり1000万円に給与を上げた場合、自分の人件費を差し引いた粗利益は、200万円しか残りません。
しかしながら、サラリーマンAは「いや!200万円残せば良いじゃないか!」と言ってきます。
その他の経費について考えてもらう
そう来ましたか、ということで残りの200万円がどう使われるかを、次に説明する必要があります。
会社を動かすには、皆様も御存知の通り、様々な経費がかかります。
役員報酬や、事務・総務等の従業員の給与、社会保険料、広告宣伝費、地代家賃、光熱費etc.etc…
それらいわゆる販売費/一般管理費は、粗利益の中から賄わなければなりません。
役員報酬をここから出さなかったとしても、事務・総務の従業員給与を、ここから支払った時点でアウトです。
「じゃあ、どうしたら年収1000万円になるのよ。」と、半ば逆ギレ状態で、サラリーマンAは、なおも食い下がってきます。
損益分岐点からコミットしてもらう額を明示する
費用や経費は売上高に比例して動くもの、売上高とは無関係に固定的に動くものがあります。
これらを、ある程度正確に把握することで、会社の損益分岐点を計算することができます。
仮にこの会社では、売上高に比例する経費の割合が60%(人件費がうち50%と如何に高いことか・・・)、固定費用が5000万円だったとします。
すると、5000万円÷(1−60%)=1億2500万円の売上を上げた時に、ちょうど会社の損益が0円になるということ意味します。
もし、これ以上の売上をあげれば会社に利益が出て、下回れば会社に損失が出てしまいます。
サラリーマンAの場合は、労働分配率を今までと同じ50%に設定したとして、1000万円の年収をもらうためには、最低でも2000万円の利益を持ってくる必要があります。
従って、今までの年間売上が2000万円だったのに対して、年間売上3300万円に最低限コミットしてもらう必要があります。
「ぐぬぅ・・・」サラリーマンAは押し黙ります。ここから彼との交渉が始まります。
主体的に会社の数字を上げねば給与も上がらぬ
ここまで貴方は説明してきたのですが、サラリーマンAはやはりどうしても、年収1000万円が欲しいようです。
じゃあどうするの?ということですが、以下の様なやりとりが考えられるでしょう。
年収アップを拒否
会社に余裕が無いのであれば、上記のように数字の根拠を示したうえで、要求を拒否もしくは減額させることが必要です。
今回のケースであれば、彼だけの労働分配率で50%超えですから、なおさらかもしれません。
歩合制の提示
モチベーション維持を考えるなら、歩合制による給料アップの可能性を提示します。
年収は600万円を固定とした上の歩合制か、完全歩合制かで、歩合率を変えた提示を行えばよいでしょう。
年収は1000万円になるかもしれませんし、ならないかもしれません。
決算賞与の提示
決算時などに、一定額の利益をサラリーマンAが叩きだした際に、賞与として還元する方法を取ることも考えられるでしょう。
この場合も、年収は1000万円になるかもしれませんし、ならないかもしれません。
決算賞与 についての詳しい記事はこちら
このような感じで、大体の会社では、社員と給与に関するやりとりが決着します。
営業以外の職種、例えばバックオフィスを担っているのであれば、資金調達やコスト削減、バックオフィスの効率化による人件費の削減などの数字で、年収アップにコミットしてもらう手はずがあるかもしれません。
納得せずに、「会社に搾取された」と言いながら、社員が会社を辞めることもあるでしょう。
しかし、怯んではなりません。中小企業では、人件費の支払いがのしかかり、多くの会社が赤字に転落し、倒産しています。
経営者にとっては、人を雇うことがどれだけ重大なイベントかを人件費から学べますし、社員であれば、主体的に会社の数字を盛り上げない限り、給与は簡単に上がらないことが理解できるはずです。