決算賞与とは、会社で定められている賞与、たとえば、夏・冬の2回とは別に、決算月に支給する賞与のことを言います。決算賞与は、要件をきちんと満たせば全額が損金となり節税効果が高く、利益を従業員に還元することでモチベーションを上げる効果を持ちます。ただし、決算賞与を出す時には3つの要件を満たす必要があり、更にデメリットがあることを理解することが大切です。
決算賞与の大きなメリット
決算賞与というのは支出ではありますが、会社にとって大きなメリットがあるのも事実です。
節税対策に有効
決算日も近くなり、かなり利益が出そうという会社では、決算対策に頭を痛めることも多いかと思います。
そんな時の、有効な決算対策の一つとして必ず上がるのが決算賞与です。
決算賞与とは、会社で定められている賞与、たとえば、夏・冬の2回とは別に、決算月に従業員に対して支給する賞与のことを言います。
決算賞与は、要件をきちんと満たせば全額が損金となり節税効果が高く、法事税額を抑えることができます。
従業員のモチベーションアップに効果的
決算賞与を支給することで節税対策が可能なだけでなく、従業員のモチベーションアップにも効果的というメリットがあります。
多くの従業員は月給に満足していない場合が多く、少しでも多くの金額を会社から支給して貰いたいと考えています。
従業員にとって普段のボーナスが嬉しいのは当然ですが、決算賞与があればさらに会社に対する満足度が向上します。
利益をしっかりと還元することで、従業員は「自分が頑張ればもっとたくさんのボーナスをもらえる」とモチベーションが上がり、仕事に対する意欲が高まる効果も期待できます。
その結果、会社の業績アップに貢献するという好循環になります。
決算賞与を支給することは、従業員だけでなく会社にとっても大きなメリットがあるのです。
決算賞与を支給するために必要な3つの要件
ただし、業績が良いからと言って、闇雲に決算賞与を支給することはできません。
そこで本稿は、決算賞与を社員に支給するために必要な要件をご紹介しようと思います。
通常、賞与は支給した日に費用計上されるのが原則ですが、一定の要件を満たせば支給をする前に費用計上が可能になります。
- ①その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること(=賞与の個別額、全体支給額が決算日までに確定・通知している)
- ②①の通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること(=決算日から1月以内に未払や支給額の増減なく全額が支払われている)
- ③その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること(=会計上費用計上されている。申告調整不可)
この3つを全て満たせば、支払日ではなく通知日に費用計上が可能となります。
決算日は会社によって違いますが、3月、6月、9月、12月などが一般的です。特に多いのが3月決算の会社で、4月末までに支払われることが多いです。
またこの際に特に注意が必要なのは①の要件です。
例えば、通知日から支給日までに退職者が出てその退職者に支給しなかった場合や、あらかじめ支給日に在職している人にしか支給しないと決められている場合には、たとえ費用計上してもその“全額”が否認されてしまいます。
また、支給日が決算日後1月以内から1日でもずれた場合、支給額が変更された場合でもやはりその“全額”が否認されます。
確実に経費計上するには、節税を重視しすぎて多く決算賞与を出すより、資金繰りに困らない程度の支給にしておくべきだと考えることができます。
決算賞与の相場
普通のボーナスは給料の3カ月分などが一般的かと思いますが、決算賞与の場合それほど金額が高いわけではありません。
具体的な金額は決められていませんが、多くの企業は10万円前後で支給する場合が多いようです。
特に決算賞与は法律や会社規則に沿う必要がないので、金額については従業員の貢献度や業績などにも影響されるためばらつきがあります。
といっても、夏と冬にあるボーナスと違い、従業員にとっては臨時的な収入になるので非常にありがたい存在です。
安易な決算賞与支給の大きなデメリットとは?
また、安易な決算賞与の支給が会社に大きなデメリットを生む場合もあります。
資金繰りが厳しくなる可能性がある
仮に会社の利益が2,000万円とします。税率を40%と仮定すると、税金は800万円で手元には1,200万円が残ります。
もし、1,000万円を決算賞与として支払うとすると、税金は半分の400万円になりますが、キャッシュフローで見ると1,000万+400万、社会保険料等まで含めればさらに約150万円、合わせると1,550万円がキャッシュアウトする計算となります。
すると、手元には450万円しか残りません。
それならば、決算賞与という手段を使わず、会社の手元に現金を残しておいたほうが良いケースも多々あります。
翌期以降の不確実性に備えたり、更なる収益を得るための投資にこれらの現金を充てることができるからです。
安易な節税に走ると、かえって資金繰りが苦しくなるということが往々にしてありますので、本当に決算賞与を出すべきか否かは、慎重に検討する必要があります。
社員のモチベーションダウンになる
決算賞与は社員のモチベーションを上げるのに効果的と先ほど解説しましたが、逆にデメリットになるケースも考えられます。
一回従業員が決算賞与を貰うと、普通ならば来年も決算賞与を貰えるものと思うでしょう。
しかし会社は毎年安定して利益を出せるとは限らないため、もしかしたら来年以降は業績の悪化により決算賞与を支給することができない可能性もあります。
その場合、従業員は「去年は決算賞与が支給されたのにも関わらず、今年は貰えない」という状況に対して不満を抱き、仕事のモチベーションが下がります。
従業員の勤労意欲は企業にとって非常に大切な要素なので、モチベーションの低下は大きなデメリットとなります。
このような問題が発生する可能性やデメリットを把握して、経営に支障がない金額で決算賞与を支給するようにしましょう。
決算賞与をうまく利用するためには
決算賞与の要件やメリット・デメリットなどは理解できたのではないでしょうか。当然のことですが、決算賞与を出すことで、会社にとってメリットが大きいならば支給したほうがいいです。
ここで決算賞与を従業員に支払う際にいくつかポイントを押さえれば、より効果的にメリットを享受することができます。
ではどのように決算賞与を支給するのが効果的なのでしょうか?
従業員に対して決算賞与の特別感を伝える
前提として従業員に「決算賞与を特別なものであると認識させる」ということが重要です。これは、決算賞与が当たり前のものであると従業員が勘違いしないために徹底するようにしましょう。
また従業員の中には、決算賞与が支給される仕組みをわかっていない人も多くいるということを理解しましょう。会社が決算賞与を従業員に支給する仕組みを説明し、あくまで特別であるということを伝えましょう。
決算賞与を毎年のようにもらっていると、「毎年決算が近くなるとボーナスを貰える」と従業員が期待してしまいます。
特別だということを伝えないと、逆に業績悪化などで決算賞与が支給されなくなったときに、会社にマイナスな印象を抱き、モチベーション低下の原因になります。何度も言いますが、決算賞与は、業績が良かったことに対する従業員への感謝の気持ちであるため特別だということをしっかり伝えましょう。
決算賞与を支給する際にはその背景を具体的に説明しましょう。会社にとっても非常に喜ばしいということ、従業員の努力のおかげで業績が好調になったなどと、明確に理由を伝えてあげると、従業員も決算賞与が特別だということを理解できるのではないでしょうか。
従業員は会社にとって大切な存在だということをアピール
会社の業績アップは、従業員の働きがあってこそ成し遂げられるものです。従業員をないがしろに扱うような企業では、絶対に成果を出すことができません。従業員に対して会社から感謝の気持ちを伝えてモチベーションを上げることは、利益を出していく上で欠かせません。
また会社が従業員の生活などをしっかりと考えていることをアピールすることで、「自分は会社にとって大切な存在だ」と従業員は実感を抱きます。少しでも豊かな生活を送って欲しいという意味で決算賞与を支給すれば、従業員も会社に愛着を持ちながら働くことができるようになります。
決算賞与の有無は、従業員にとって非常に大きなポイントです。欲しいものが買えたり、旅行に行けたり、充実した生活に直結します。報酬は「お金」という目に見える感謝の形であり、従業員もそれを理解できるように支給することが大切です。
決算賞与で業績の好調を伝え従業員の連帯感を強める
大企業の場合など仕事全体がどのように成り立っているのか、従業員の立場からはわかりづらいことが多いです。自分が行っている仕事がどのような部分で役に立っており、利益につながっているのか把握できていません。そのため会社全体での連帯感というものは欠如しやすいです。
しかし、決算賞与を支給できるようになった理由、つまり業績が好調であることや、従業員が業績アップに大きく貢献したことを伝えることで、会社としての連帯感が強まります。従業員一人一人が連帯感を持って働くようになると、会社の業績に非常に大きな影響を与えます。
決算賞与が支給される理由を明確に伝えれば、従業員は翌年も決算賞与がもらえるように仕事に対するモチベーションが上昇し、業務に対して積極的になる可能性が高くなります。
決算賞与として利益を従業員に還元する意味は、単なる節税対策のみではなく、感謝の気持ちを伝えることと、今後も会社のために頑張って働こうという気持ちを持ってもらうために非常に効果的です。従業員にはモチベーション向上のために業績が順調であることを明確伝え、改めてやる気が沸くような気持ちを持ってもらえるようにするとよいでしょう。
決算賞与を支給することがベストかしっかり検討する
会社の決算時に当期の利益が予想以上に大きかった場合は、その利益をどうするか考える必要があります。節税対策を兼ねた決算賞与を、従業員のために支給することが本当にベストな方法なのかどうかを検討しましょう。
先ほども説明しましたが決算賞与で節税した結果、資金繰りが苦しくなってしまったら意味がありません。むしろ来期は従業員に決算賞与を支給できない可能性も出てくるためマイナス要因にもなります。
会社としては税金を払い現金を手元に残すことの方が、ベストな選択となる場合もあります。会社の経営状態を把握し、支給すべきなのかどうかを十分に検討しましょう。
まとめ
決算賞与の要件や、メリットやデメリットなどについて細かく解説しましたが、決算賞与は会社の業績が良いという証拠になります。
これは従業員にとっても会社にとっても喜ばしい事実です。
ですので、毎年決算賞与を支給できるように会社一丸となってさらなる業績アップを目標にするのが良いのではないでしょうか?