トヨタ自動車の2015年3月期の連結決算は最終利益2兆円を超えていますが、トヨタはなんと2009年から2013年まで日本国内の法人税等を払っていません。この節税対策は不正でもなんでもなく「外国子会社からの受取配当の益金不算入」制度の活用によって合法的に行われています。世の中の潮流を読み取り、彼らが必死になって組み立てる節税対策を自らも活かそうとする姿勢を持ちたいものです。
利益が出ているのに法人税払わぬトヨタ自動車
「大企業が納税していない」「日本で儲けた後シンガポールなど税金の安い外国へ会社を移転」という内容のニュースを見て、憤りを覚える方は非常に多くいらっしゃいます。
「大企業の癖に納税しないとはけしからん」「日本で受けた恩を忘れて、海外へ行くなんて祖国を売ったようなものだ」という意見について、感情的な部分は確かに理解できます。
しかし大事なのは「事実として」彼らが本当に悪どいことをしているのか?という問いに対する答えです。
さて、日本の企業で「儲かっている企業」の代表例と言えば、皆さんご存知のトヨタ自動車(以下:トヨタ)があげられます。
トヨタは2015年3月期の連結決算(国内外の子会社の金額を含めた数字)で最終利益がなんと2兆円を超えています。
ところがトヨタ、2009年から2013年まで日本国内の法人税等を払っていません。
そしてこの節税行為は悪どいものでもなんでもなく、極めて合法的に行われているのです。
トヨタの節税対策は国が合法的に認めたもの
なぜトヨタが4期に渡って日本国内で法人税を支払わないでいられたのか?その理由は非常に簡単です。
日本の税制に「外国子会社からの受取配当の益金不算入」という制度があるからです。
その内容は簡潔に言いますと、「外国の子会社から配当を受け取った場合は、その額について95%を課税対象外とすることが可能」というもので、日本企業の海外進出を推奨し、海外で儲けた資金を国内に還流させることを目的として、2009年に創立されました。
この制度を利用すれば、例えばトヨタ自動車が、アメリカの子会社から100億円の配当を受けた場合に、この100億円の配当のうち95億円には日本の法人税を課税しなくとも良いようになっているのです。
トヨタの利益の大半は海外で計上されたものであるため、日本での課税対象にはならないということなのです。
グローバル企業は更に技を凝らし節税している
さて、私はこの記事でトヨタ自動車の糾弾をしたいのではありません。
トヨタと比較するとアップル、グーグル、アマゾン、スターバックス、イケアなど海外の大企業は、皆さんが想像しているよりも納税額が少額となっているからです。
例えばグーグルは、アイルランドに会社(のようなもの)を2社つくり、さらにオランダにも1社つくっています。
そして、お金をアイルランド→オランダ→アイルランドという流れで迂回させることにより巧妙に納税を回避しています。
俗に言う「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドウィッチ」スキームというものです。
税金は、各国で独自の法律(国内法)に基づいて課税を行います。
しかし、グローバル企業に対する課税は一つの国だけでは課税が完結しませんので、国際間のルール(租税条約)というものを各国間で締結してルール作りを進められています。
このルール作りには基本的なテンプレート(OECDモデル条約)というものがあるのですが、グーグルの例にもあるオランダは特にやんちゃな国でして、テンプレートを無視した形で一定の取引を非課税としてしまうことがしばしばあります。
オランダは独自の非課税戦略を取ることによって、多額の資金が国内に循環するという経済メリットを享受する事ができるからです。
貿易で立国し、世界初の株式会社(オランダ東インド会社)も設立された国として、極めて合理的な(あくまでオランダから見て)判断と言えるでしょう。
経営者として持ち合わせていただきたい感覚
日本国内のみでビジネスを展開しているのであれば、国際的な税金についてそこまで詳しくなる必要はないでしょう。
ただし、あなたが今後グローバルにビジネスを展開していく事を考えているのであれば、税負担について真剣に考えることは避けては通れない道です。
世界にはタックスヘイブンと言われる、税率の低い国や地域が存在します。
どの国や地域でビジネスを展開するのかによって、全く同じ利益を計上したとしても社内に留保できる金額が変わってきてしまうのです。
また海外の税政策について勉強する事により、何故日本がしきりに法人税を下げようとしているのかも見えてくると思います。
大企業を批判するのは簡単ですが、世の中の潮流を読み取り、彼らが必死になって組み立てる節税対策を、自らも活かそうとする経営者の方にチャンスがあるかもしれません。