「モノを単に消費するだけでなく世界観やストーリーも楽しみたい。」消費者はコト消費をより重視するようになりました。私達、商品やサービスの提供者には、よりいっそう、顧客に優れた顧客体験を提供することが求められています。撮影した画像が3日後にしか見えない、一見面倒くさいカメラアプリ「グダック」の大ヒットは、これら時代の流れを汲んだ優れたマーケティング事例と言えます。
コト消費の楽しみに重きを置く現代の消費者
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
近年のビジネスの大きなトレンドのひとつは、「モノからコトへ」ですね。
すなわち、以前のようにモノ=製品を提供する発想では消費者は受け入れてくれない、製品を含む、大きな世界観やストーリー、固有の体験=コトを提供しなければ、消費者の財布は開かないということです。
現代の人は、「モノ」を単に消費することだけでは飽き足らず、「コト」(=体験)を楽しみたいのです。このトレンドにおける最重要キーワードが「顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)」です。
企業がいかに優れた顧客体験を生み出すか、より具体的に言うと、どれだけ「わくわく」したり、「どきどき」したり、心地よかったりする体験を与えられるかが重要なのです。
不便だから楽しい?撮影した画像が3日後にしか見えない大ヒットカメラアプリ「グダック」
ここで覚えておきたいのは、優れた顧客体験を生み出そうとするとき、モノ発想でありがちな、便利とか、早いとか、楽になるといった「効率」寄りの視点にこだわらないことです。
最近、世界でヒットしているカメラアプリ、「グダック(GUDAK)」はご存知ですか?
同アプリは、今年2017年7月の発売開始後、わずか2カ月あまりで130万のユーザーを獲得。33カ国・地域において、写真アプリカテゴリー1位の座を取ったグダックは、今や懐かしき「フィルムカメラ」を模した機能を備えています。
具体的には、撮影できる枚数は24枚に設定されており、使い切ると次のフィルムが使えるようになるまで1時間待たなければなりません。デジカメのようにバシャバシャと撮れないのです。
また、撮影した写真はすぐに見ることができません!「現像」が終わった3日後にようやく見ることができます。その時まで、写真がうまく撮れているのかわからないのです。「撮り直し」がきかないわけですね。
効率優先になりがちな「モノ」発想だと、グダックは、便利なデジカメと真反対の不便なアプリです。当初、「誰がそんなアプリを使うのか」という声もあったようですが、蓋を開けてみると大ヒットです。
貴方の製品は「わくわく」「どきどき」の顧客体験を与えているか?
実は、グダックがヒットする可能性は十分ありました。最近、「写ルンです」が若年層に人気なのをご存じの方も多いと思います。実際、私の20代前半の長女も、旅行にはスマホと一緒に「写ルンです」を持参しています。
「写ルンです」は、フィルムカメラならではの風合いがレトロっぽいと評価されていることに加えて、限られたフィルム枚数を大切に使わなければならないこと、仕上がりは現像・プリントされてくるまでわからないことが、逆に「ワクワク感」を高めることにつながっているのです。
グダックも同様に、撮影する行為自体、そして仕上がりを待つ時間を、「優れた顧客体験」として提供しているアプリであり、撮影したらすぐに画像が確認でき、何度でも撮り直しができるデジカメの利便性とは異なる価値を求めるユーザーに受けているといえます。
さて、貴社の製品は、優れた顧客体験を提供できているでしょうか?