LOHACOは法人向け通販ASKULが運営するECサイトですが、その規模はAMAZONや楽天に比べれば小規模。そこで彼らが行ったのは、オリジナルデザインの商品を開発し、販売の独自性を追求することでした。とはいえ、差別化を徹底し、具現化し、消費者の支持を得るのは至難の業。彼らは明確な1つの基本コンセプトを設定することで、これを実現しました。
小売店はリアルにせよECにせよ不毛な価格勝負に陥りやすい
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
今年(2017年)2月に起きたLOHACOの物流センターの火災は、鎮火までに2週間近くを要したこともあり記憶に新しいですね。この火災のため、2017年5月期の売上は約390億円に留まったものの、それでも前年比およそ2割増とASKULが展開するLOHACO事業は順調な成長を続けています。
ご存知のように、LOHACOは個人向けのネット通販であり日用雑貨品中心の品ぞろえ。家電、書籍、DVD等も購入できますので、ヨーカドー、ダイエーに代表される量販店のようなネットショップ(ECサイト)だと言えます。
さて、メーカーから商品を仕入れて売る、いわゆる「小売店」の場合、リアルにしろオンラインにしろ価格勝負になってしまい、AMAZONや楽天のような大手にはなかなか勝てないのが現実です。
LOHACOの場合、法人向けネット通販最大手、ASUKULのブランド力や資金力があるとはいえ、上記のような大手ECサイトとの単純なガチンコ勝負は避けたいところでしょう。
EC大手と一線を画し、暮らしになじむデザインで独自性を追求するLOHACO
そこで、LOHACOが力を入れているのが、同社オリジナル商品の開発です。オリジナル商品といっても、中味だけでなく、とりわけ見た目、つまり「パッケージデザイン」での差別化に力を入れています。
同社が取り組む商品開発の基本コンセプトは、
「家事に育児に仕事にと、毎日多忙な女性の暮らしを軽くしたい」
というもの。
男性以上にエモーショナル、すなわち「情緒的」な商品価値に敏感な女性をメインターゲットにした同社オリジナル商品は、
“購買者の暮らしの中でなじむ、気持ちのいいデザイン”(ASKUL代表取締役社長、岩田彰一郎氏)
を狙っているのです。
実際、どんなデザインなのかは、「暮らしになじむLOHACO展2017」のコーナーを見ていただければわかりますね。
参考リンク:「暮らしになじむLOHACO展2017」
通常、街中のリアル店の棚に並ぶ商品は、来店客に目を留めてもらう(注目=アテンションを得る)ため、また商品の特徴やメリットをぱっと理解してもらい、購買意欲を喚起するために、派手派手で、大きな文字が躍るパッケージデザインが施されているものです。
しかし、店頭を通らず、消費者にダイレクトに販売する通信販売なら、購買後の利用・消費段階における心地よさを追求した、派手すぎない、おしゃれなデザインも可能だというわけです。
「暮らしになじむ」デザインでヒットした健康麦茶「moogy(ムーギー)」
これらの商品開発コンセプトをもとに、LOHACOのオリジナル商品から始まったヒット商品をひとつご紹介しましょう。
キリンが2016年にLOHACOからの要望を受けて開発した健康麦茶「moogy(ムーギー)」の見た目は、従来のソフトドリンクとは全く異次元です。
パステル調の色合い、幾何学模様が施されたデザインは、「とにかく持ってもらえるもの」「持つことで小さな幸せを感じられるもの」を基本コンセプトに仕上げられています。「kIRIN」のロゴさえあえて外されています。結果として、2016年のグッドデザイン賞も受賞しています。
参考リンク:「生姜とハーブのぬくもり麦茶 moogy(ムーギー)」が「2016年度グッドデザイン賞」受賞
2016年2月にLOHACOでの販売が始まった同商品は、今秋から他のネットショップでも販売されるようになっていますが、口コミでの広がりも背景に、2017年秋冬の売り上げは前年実績の2倍を超えたとのこと。
インターネットの普及によって、企業の主戦場はオンラインに移りつつありますが、メーカーにしろ、小売店にしろ、厳しい競争に勝ち抜くための戦略として、LOHACOの取り組みは大きなヒントを与えてくれますね。