情報とモノが溢れかえった現代社会で、消費者は簡単に私達の商品やサービスを選択してくれません。これでもかと並べたいずれの差別化要因も消費者の心には残りません。なぜなら、消費者の記憶には最低の経験か最高の体験しかインパクトを持って残らないからです。ならば、商品・サービスで最高の体験(ピーク)を伸ばしてアピールすれば良いのです。ディズニーパラドックスはそれを教える理論です。
差別化要因をあれこれ並べても誰も振り向いてはくれない
かつて時代を切り開いた偉人たちはこのように発言しました。
シンプルさは究極の洗練である。〜レオナルド・ダ・ビンチ〜
設計士が完璧さを確信するのは、それ以上付け加えるものがなくなったときではなく、それ以上取り去るものがなくなった時だ。〜サンテクジュペリ〜
一方、現代社会には様々な情報とモノが溢れかえっており、消費者は簡単に私達の商品やサービスを選択してくれません。
◯◯といえば、△社。と言われるような商品やサービスを作るために、多くの人は差別化要因をこれでもかと並べ、消費者に向けて提示するのですが、どの差別化要因も消費者の心には残りません。
なぜか?
偉人たちの格言が示すように、良い特徴はシンプルにわかりやすく伝えられ、心に残るものでなければ、人の心を動かせないからです。
ディズニーランドの体験評価はピークで決まる
読者の皆さんの多くも、家族でディズニーランドへ行かれた経験があるかと思います。
たとえば、以下のような行程で一日を過ごした時、あなたの気分を1(悪い)〜10(最高)で格付けしたとしたらどうなるでしょうか?
筆者も自身の経験をもとに独自レーティングを入れてみますが、皆さんも行程別にどんな格付けをするか考えてみてください。
- AM6時:子どもたちにグズられながらもいそいそと家を出る⇒5
- AM8時:入場前の行列待ちで子どもたちが小競り合いをはじめて喧嘩に。やっと園内に入る⇒3
- AM10時:家族の意向でイッツ・ア・スモールワールドに乗る⇒6
- AM11時:ビッグサンダーマウンテンに乗り、やっと楽しい気分になる⇒8
- 正午:パーク内の広場でお弁当⇒7
- AM3時:スペースマウンテンで二時間待ち。子供が泣く⇒3
- AM4時:スペースマウンテンに乗る。乗ってる最中、少しドーパミンが出る。⇒7
- AM7時:エレクトリカルパレード開始。家族の笑顔に花が咲く⇒10
格付けの仕方は大げさかもしれませんが、こんな日程を経た父親は、ディズニーランドの評価点をどのように決めると思いますか?
ちなみに、私の格付けは平均すると6.1点ですが、これまでの心理学実験で、人は自分の体験について平均点で評価を下さないことがわかっています。
消費者は、自分の体験のピーク(楽しかったこと)、もしくはピット(悪かったこと)のどちらかで、自分の体験が良かったか悪かったかを決めているのです。
私の場合であれば、この日の体験評価はエレクトリカルパレードで見た家族の笑顔の10、これがあったから他に色々あっても、それはそれでまた良し。
家族にせがまれれば、またディズニーに行こうと、そう考える体験でした。
ディズニーランドパラドックスの教訓「経営者の仕事は自社商品・サービスのピークを最大限に伸ばすこと」
さて、実は上記の事例、スタンフォード大学教授のチップ・ヒースが提示する、「ディズニーパラドックス」という理論を説明するものです。
この理論の教訓は、「経営者の仕事は、自社の商品・サービスを消費者にパッと受け入れてもらいたい、消費者に自社のファンになってもらいたいなら、ピークを最大限に伸ばして、ピットは少しずつ修正・緩和すべき」というものです。
多くの経営者は自社商品・サービスに関する消費者の体験について、どうしても全行程の平均点を上げようとしがちになります。
結果として、冒頭で述べたように、あれもこれも差別化要因として提示することになり、消費者にとって「何が売りなのか?」「商品サービスのピークはどこにあるのか?」理解できない商品やサービスとなってしまいがちです。
対して、チップが提案するのは、ピークを最大限に伸ばすことです。
ディズニーであれば、エレクトリカルパレードは誰もが行列に並ばず見られて、多くの人にとって「行く理由」となるイベントです。ですから、運営側も季節ごとに手を変え品を変え、エレクトリカルパレードに最高潮の盛り上がりを作ります。
オリエンタルランドのCMも、ビッグサンダーマウンテン云々ではなく、その季節ごとにどんなエレクトリカルパレードがやっているかを必ず前面に打ち出して宣伝します。ピークを最大限わかりやすく消費者に訴えているのです。
一方で、休日のビッグサンダーマウンテンやスペースマウンテンの2時間待ちの苦痛(ピット)は、運営側がどう頑張っても完璧に解消することなどできません。
行列をアトラクションと感じさせる通路体験は、待ち時間の行程で消費者が感じる苦痛を緩和するためにあります。
ファンが出来る商品やサービスは、ピークを最大限に伸ばすことに力を入れて作られていきます。
参考本:
Simon & Schuster (2017-10-03)
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