これまでの出版業界では、販売前の本を無料で読者が読めるようにすると本が売れなくなるのでは?と考えるのが常識でした。しかし、出版デジタル機構が今年6月に発売前の書籍をオンラインで無料で読める「ネットギャリー」をローンチし、オンラインで全文無料公開した『ルビンの壺が割れた』がヒットするなど、単行本の販売促進施策の常識が変わりつつあります。
発売前の書籍をオンラインで無料で読める「ネットギャリー」
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
出版デジタル機構が今年(2017年)6月に開設したWebサイト、「ネットギャリー」をご存知でしょうか?あまり告知活動をちゃんとやってない感じで、知ってる方はまだそれほど多くないでしょうね。
参考リンク:ネットギャリー
ネットギャリーの取り組みは、出版業界においては革新的なものです。というのも、発売前の書籍をオンラインで無料で読むことができる仕組みを提供しているからです。
もちろん、無料で読めるのは出版社が許可したものだけであり、現時点で読める本の数は限られていますが。
発売前の本が無料で読めてしまったら本が売れなくなるのでは・・・という懸念がありますが、出版デジタル機構としては、逆に販売促進施策であり、売上増につながることを期待しているのです。
『ルビンの壺が割れた』も2週間オンラインで「全文無料公開」から大ヒット
ネットギャリーに登録しているユーザーの中には、本を読んだ後、その感想をツイッターやフェイスブックに投稿する人もいます。
もし、フォロワーが数千、数万単位でいて、発信力があるインフルエンサーの場合、本の感想を読んで、「この本読んでみたい」と思う人が増えることでしょう。
結果として、街の本屋さんやオンライン書店で購入する人が増えるという流れです。
この仕組み、欧米が先行しており、特に米国では一般的なマーケティング手法として定着していますが、果たして日本でうまくいくでしょうか?あなたはどう思いますか?
私は成功する可能性が高いと思います。
ネットギャリー発ではありませんが、つい最近、同じような仕組みでベストセラーになった本があるからです。
それは『ルビンの壺が割れた』(新潮社)という無名作家の本です。
一組の男女の電子メールによる往復書簡のスタイルで展開される今時の内容です。
無名作家の本はなかなか売れにくいということもあり、新潮社としては思い切った販売戦略を取りました。2週間、オンラインで「全文無料公開」という奇策です。無名作家だからこそできた大胆な手法でしょう。
読んだ人にはこの本のキャッチコピーを寄せてもらうことにしたのですが、堀江貴文氏、佐々木俊尚氏などのネットの著名人によって拡散されたおかげで、サイトのアクセス数は79万超、コピーは約6,000件に達しました。
そして、本屋に並ぶ単行本は現在、順調に売れており、初版1万部から重版を重ねています。
「無料公開したら本が売れなくなる」が常識でなくなりつつある
新潮社の社内では、やはり「無料公開したら本が売れなくなる」という反対意見も出たそうですが、結果は吉と出たのです。
オンラインで無料公開すると、いくらでもコピーを作成する方法があり、無料版が出回ってしまい、わざわざお金を出してまで買う人はいないと考えても無理はありません。
実際、漫画では違法にコピーされたものが読めるサイトがあり、売上の減少につながっているようです。
しかし、小説などでは、紙の質感が心地よい単行本で読みたいというニーズが根強いですし、電子本であったとしても、いつでも気軽に読みたいと思ったら、海賊版ではなく、正規本を購入することにさほど抵抗はないでしょう。
『ルビンの壺が割れた』の成功事例を見ると、「ネットギャリー」も大きな影響力を持つ著名人などに積極的に協力を依頼しつつ、感想をあちこちに投稿してくれる登録者を増やしていくことができれば、単行本の販売促進施策としてうまく回りだすのではないかと思います。