「とにかく今は人がいないんだ!人がいないことには仕事が回らない!」という状況にあるがゆえに、100点満点ではない人材採用を行って、結果として、更に負の連鎖が続いている企業は多々あります。中小企業が人材採用で決して妥協してはならない理由を解説いたします。
人が足りない悩みを解決するのはとても難しい
中小企業共通の悩みに「人が足りない」というものがあります。
「もっと人がいればこの商品を拡販できるのに!」
「もっと人がいればトラブルが起こらないのに!」
という話は至るところで耳にされます。
さて、これら人的問題は「単に頭数がいれば解決する問題なのでしょうか?
確かに、高速道路の料金所のように、来たものをひたすらさばくだけの仕事(というよりも作業)であれば、頭数が増えることにより、生産量も増えるのかもしれませんが、今の時代にはそんな仕事の方が少ないでしょう。
今は人的資源で賄われている単純作業も、今話題のAIなどの台頭により、今後はコンピューターの自動処理に置き換えられていくことが、そう遠くない未来に起こります。
「営業」と一口に言ったとしても、製品をひたすら売り込むだけの営業など、今の時代には無用の長物であり、求められるのは顧客の課題を発見し、その解決策を提案することができるコンサルティング型の営業です。
なんせ、カタログを見せながら、製品のスペックを説明することしかできない営業は、アスクルがやってくれる時代です。
困っても雇用する人材の質だけは妥協するな
とはいえ、「とにかく今は人がいないんだ!人がいないことには仕事が回らない!」という状況であることも重々承知した上で、人材を雇用する上で、絶対に妥協してはならないことがあります。
それは、「人材の”質”」です。
あなたの求める”質”に達していない人材は、頭数になるどころか会社のリソースを奪う「マイナス人材」にすらなり得るのです。
もう少し詳しく説明しましょう。
例えば、100点満点中50点ぐらいしか取れない人材を、「妥協して」採用したとしましょう。
多くの社長が「やる気はあるから、きっと成長してくれる」と期待(というよりも自分に対する言い訳)をして採用するケースです。
しかし、そもそもキャパシティも能力も追いついていないので、頑張っても50点、むしろほとんどの場合は、それ以下の結果しか出せません。
しかし、せっかく採用したのですし、早く戦力になってもらいたくて、一生懸命その人物を育てようとします。
営業のロールプレイングや提案書の書き方の指導、毎週の振り返りミーティングなど、指導担当者も多くのリソースを割いて一人前に育て上げようとします。
しかし、どんなに磨いても石炭はダイヤモンドになることはありません。石炭は石炭のままなのです。
人材の質で妥協すると結局マイナスになるだけ
その能力が追いつかない人材は結果としてすぐに会社を去ることにはなるのですが、その人材は会社に一体何をもたらしたのでしょうか。
冷静に考えてみれば、もたらしたものよりも、指導担当者や周囲の人々が使ったリソースの方が、圧倒的に多いのではないでしょうか。
人が足りないから採用したはずなのに、会社全体のリソースで見ればむしろマイナスになっている、これが「マイナス人材」です。つまり、採用しない方が良かった、という結論になります。
「人材が欲しい」、「人が足りない」という言葉は正しくはありません。
正確には「いい人材が欲しい」、「優秀な人が足りない」になるはずであり、頭数がとにかくいればいいわけではないはずです。
そして、どんなに事業の状況が苦しかったとしても、人材の”質”を妥協してしまうと、結局は全体のリソースがマイナスになってしまいます。
いい人材が見つからなければ、そこはグッと耐えるしかないのです。
ビジョナリーカンパニーが伝える人材の重要性
ここで少し長いですが、『ビジョナリー・カンパニー2』の人材に関する部分を引用します。
「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」より
偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は、まずはじめにバスの目的地を決め、つぎに目的地までの旅をともにする人びとをバスに乗せる方法をとったわけではない。
まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。要するに、こう言ったのである。「このバスでどこに行くべきかは分からない。しかし、分かっていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ」
飛躍を導いた指導者は、三つの単純な真実を理解している。
第一に、「何をすべきか」ではなく「だれを選ぶか」からはじめれば、環境の変化に適応しやすくなる。人びとがバスに乗ったのは目的地が気に入ったからであれば、十キロほど走ったところで行く先を変えなければならなくなったとき、どうなるだろうか。当然、問題が起こる。だが、人びとがバスに乗ったのは同乗者が気に入ったからであれば、行く先を変えるのははるかに簡単だ。「このバスに乗ったのは、素晴らしい人たちが乗っているからだ。行く先を変える方がうまくいくんだったら、そうしよう」。
第二に、適切な人たちがバスに乗っているのであれば、動機付けの問題や管理の問題はほぼなくなる。適切な人材なら厳しく管理する必要はないし、やる気を引き出す必要もない。最高の実績を生み出そうとし、偉大なものを築き上げる動きにくわわろうとする意欲を各人がもっている。
第三に、不適切な人たちばかりであれば、正しい方向が分かり、正しい方針が分かっても、偉大な企業にはなれない。偉大な人材が揃っていなければ、偉大なビジョンがあっても意味はない。
マイナス人材の雇用は会社を傾かせる場合も
ビジョナリー・カンパニーのシリーズでは、大企業ばかりが取り上げられていますが、その内容は中小企業にも共通するものばかりです。
特にこの人材の”質”(適切な人材)に関しては、大企業も中小企業も関係ありません。
中小企業は人材に余裕がない分だけ、不適切な人材を採用してしまった場合の、マイナスの影響が大きいとも言えます。マイナスの影響度合いによっては会社が傾きかねないのです。
やや逆説的な言い方をすれば、適切な人材を採用することに注力すれば、事業は必ず上向きになるとも言えます。
採用時点で「う〜ん」と首をかしげるような人物が入社してから、その企業が圧倒的に成長するなどということはまず起こりません。
自社の事業を飛躍させるためには、とにかく人材の”質”には妥協してはいけないのです。
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