ジュリアス・アービングより、もしかするとマイケル・ジョーダンよりも圧倒的なゲームチェンジャーかもしれない…偉大なるNBAの偉人達が築きあげてきた歴史の中で、これまでの常識を全て覆す選手がいます。3ポイントシュートで試合を制するステフィン・カリーです。どのように彼はゲームチェンジャーとなったのか?ビジネスにも通ずる「常識を根本から覆す」思考を、ステフィン・カリーから学んでみましょう。
NBAバスケの歴史を変えたステフィン・カリー
今アメリカは、NBAファイナルで大盛り上がりです。
その中心にいるのが、カリフォルニア州を本拠地とするゴールデン・ステイト・ウォーリアーズ(以下:GSW)と、そのエースであるステフィン・カリーです。
カリーはレギュラーシーズンで、402本の3ポイント成功という、あり得ないほど素晴らしい数字を残しました。(これに続く成功数を持つのはレイ・アレンの269本だが、カリーはこれを3回自分で更新している。)
この数字は、イチロー選手がメジャーリーグで残した1シーズン262本安打と匹敵する、アメリカのスポーツ界にずっと残る偉業と言っても過言ではないでしょう。
少なくとも、今後数十年は塗り替えられることのない数字でしょうし、GSWとカリーはNBAのバスケットを変えたと言われています。
GSWは先シーズンのファイナルを制し、今シーズンは73勝9敗という最高勝利数を塗り替え、カリーも402本の3ポイント成功に加えて、得点王、MVPを獲得した今NBAでのりにのっている選手です。
バスケットボールを少しでも見たことがある方なら、こちらの動画を見ていただけば、カリーの3ポイントがどれぐらいすごいのか分かってもらえるでしょう。
カリーの3ポイントは何が凄いの?2つの理由
カリーの3ポイントには、他の選手にはない、以下2つの強みがあります。
1)3ポイントシュートの飛距離が長い
まず、カリーの3ポイントシュートは、とにかく飛距離が長いです。
3ポイントシューターの多くは、3ポイントラインのすぐ外からシュートを打つことのですが、カリーに関しては、ラインから1歩どころか2〜3歩も後ろから打つシュートが非常に多いのです。
普通これぐらい離れたところから打てば成功率が低くなるものですが、カリーの3ポイント成功率は決して低くありません。
相手チームにとっては、驚異でしかありません。
2)ドリブルが巧みでいつシュートを打つか分からない
もう1つの強みは、ドリブルから打つシュートが多いということです。
バスケットにおいて、最も成功率が高いのは、ボールをもらってからすぐに打つシュート(キャッチ&リリースと言います)だと言われています。
多くの3ポイントシューターもその形で放つシュートが多く、一番良いポジションでボールを待っている形がほとんどです。
しかし、ポイントガードであり、尋常ではないボールハンドリング技術を持つカリーは、ボールをもらうのを待たず、自分のドリブルでディフェンスを崩してから打つケースが多いため、相手チームも3ポイントを打つのを分かっていても守り切れない、という状況なのです。
カリーの3ポイントが変えたNBAの常識とは
これまでのNBAにおける3ポイントシュートというのは、決して試合を制するツールではなく、試合のリズムを変えるアクセントとしてのニュアンスが強いものでした。
ペイントエリア内でのシュートと比較して、成功率が落ちるからです。
ところが、カリーの登場により、NBAには「3ポイントをより多く成功させなければ試合には勝てない」という新常識が生まれました。
カリーの理屈は「より多くの得点を効率的に取るなら、3ポイントシュートを数多く打ち、数多くリングに沈める」というシンプルなものであり、これを着々と実行します。
カリーは3ポイントシュートを利用し、NBAの常識を大きく変えた点で、まさに70年の歴史を持つNBAにおけるゲームチェンジャーと言えるでしょう。
最初は「3ポイント頼りの戦術はあり得ない」と言っていた評論家や他チームのヘッドコーチも、ここまで結果を残されると黙るしかありません。
ビジネス業界に現れたゲームチェンジャー達
ビジネス業界でも、ここ数年はしきりに「ゲームチェンジャー」という言葉が聞かれるようになりました。
ゲームチェンジャーとは、「既存の業界の常識や慣習を根本から変えてしまうような企業」のことを言います。
走りを楽しめる電気自動車というジャンルを作ったテスラモーター
クラウド上での企業のDB管理を実現したセールスフォース・ドットコム
シェアリング・エコノミーという言葉を作り出したUberとAirbnb
彼らはカリフォルニア州発の企業であり、世界のビジネスにおいて常識を作り続けてきたニューヨークと真反対、アメリカ西海岸から生まれた企業です。
この若きゲームチェンジャー達の特徴は、次にあげる2つに集約されます。
1)ビジネスモデルとコンセプトがとことんシンプル
1つ目の特徴は、コンセプトがとことんシンプルであることです。
ビジネスモデルはとことんシンプルなのですが、それがこれまでの常識を壊してしまうようなアプローチであるため、最初は誰も真似しようとせず、むしろ批判されることも少なくありません。
そして、既存企業が真似しようと思ったときには、もはや追いつけない状況になっているということがほとんどです。
2)既存業界のプレイヤーと比較し顧客の不満を圧倒的に解消している
もう1つの特徴は、既存企業や業界に対する不満を、圧倒的に解消するコンセプトを持っていることです。
先日Uberに対する記事で、「サンフランシスコのタクシーに、住民は皆不満を持っていた」ことを書きました。
不満があってもその代替手段がなければ、顧客はタクシーを使い続けるしかなかったため、タクシー業界はこれまで安泰でした。
しかし、Uberという思わぬところから出てきた代替手段に、業界がひっくり返るほどのダメージを受けているのです。
これまでこうだったから
この業界ではこうすることが常識だから
日本でも古い業界ほどそんな言葉をよく耳にしますが、顧客あってのビジネスであるということを忘れてはいけません。
顧客に支持されないビジネスは、遅かれ早かれいずれは廃れます。
ゲームチェンジャーは、これらのことをよく理解し、消費者のニーズに対応することで、知らぬ間に既存業界から市場を奪う、ディスラプター(横入りするもの)となるのです。
不満を見逃さずに最適な解決策で行動を起こす
ビジネスの多くは「問題解決」の1面を持っています。
社会全体が成長している局面で問題は明確であり、それをどう解決するか?どれぐらいのスピードで解決するか?が勝負を分けます。
しかし、成熟化した社会においては、そもそも問題をどう定義するか?何を問題の本質だと考えるか?という「問題発見」こそが、ビジネスの勝負を分けます。
答えを見れば「な〜んだ、そんなこと俺だって前から思っていたよ」ということだとしても、それを発見して実行に移すことこそが、ゲームチェンジャーの本質です。
更に、コンセプトがシンプルになるからこそ、顧客の不満は圧倒的に解消されます。
- 3ポイントラインの近くから打った方が成功率が高い
- キャッチ&リリースの方が良いシュートが打てる
というのはバスケットボールの常識でした。
対してカリーは、
- 3ポイントラインより更に遠くから打ったほうが成功率が高い
- ドリブルしながらの方が良いシュートが打てる
という、1980年に3ポイントラインがNBAで設定されて以来の常識に対して、逆説を立てたのです。
そして、これを実現するためのトレーニングを徹底的に行い、偉業を達成しました。
4分55秒からに注目を。3ポイントラインの遥か遠くから打つシュート練習は、当初多くの専門家にバカにされていた。
当たり前を疑い、そこにどんな問題を見出し、それをどうやって解決するのか。
これを突き詰めることこそが、ゲームチェンジャーの本質であり、ビジネスでもそれは変わりません。
カリーにとっての3ポイントシュートと同じく、AIやIoTといったテクノロジーは、ゲームチェンジャーにとって手段にしか過ぎません。
古くからある業界、圧倒的な大企業が支配する業界ほど、常識を疑うゲームチェンジャーにとって狙い目な市場はありません。
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