「良い人材を獲得できた。もしかすると将来、彼(彼女)は社を背負って立つ逸材かもしれない。」と考えていたはずが、その従業員と後になって労使トラブルに発展する…なぜこのようなことが起こるのか?根本的な原因は雇用時に企業がある手順を疎かにしていることから生じます。対策はあるのでしょうか?
労使トラブルの元凶は労働条件通知書の未交付
労働トラブルの最たる原因の一つに、労働条件通知書の未交付があります。
会社は労働者と雇用契約を結ぶに当たり、労働時間、就業場所、賃金等についての労働条件を、書面で労働者に通知することを労働基準法で定められています。
ところが、これをあまりに多くの中小零細企業が行っていません。
私自身もこれまで多くの労使トラブルに関わってきましたが、会社が労働条件通知書を交付していれば、労働トラブルを防ぐ事ができた事例が7割近くに上ります。
労動基準監督官の方の講演を聞いたことがあるのですが、その方も労働トラブルの一番の原因は、労働条件通知書を交付しない事と言っていました。
労働条件通知書を企業が疎かにしてしまう理由
このようなことが起ってしまう理由は、雇用時に経営者と従業員がお互いに抱く心理状態が、大きく影響しています。
従業員を雇用する際、経営者の方は、「新たに雇う従業員がトラブルを起こすとは無い」と考えがちです。
むしろ「良い人材を獲得できた。もしかすると将来、彼(彼女)は社を背負って立つ逸材かもしれない。」と考えることでしょう。
同じように、従業員もトラブルを起こすつもりで入社することはありません。
「未来の明るい会社に就職できた。条件も以前より良いし、経営者も理解のある人だ。」と。
ところが現実は厳しく、労使トラブルがいつの間にか発生し、経営者と従業員の軋轢は、相互に歩み寄れないものとなっていきます。
双方にとって、最初の期待が大きければ大きいほど、状態は酷くなっていきます。
そしてトラブルの殆どが、労働条件を要因にしているのが実情です。
書面での労働条件の通知を行っていないために、後になって「言った」「言わない」の世界となるのです。
結局、解決する根拠がないため、水掛け論が続いてしまい、ついには解決困難な労働トラブルの完成と相成ります。
従業員を雇用する際には、必ず書面で労働条件を通知するようにして下さい。
労働条件通知書より雇用契約書の方が盤石です
冒頭で述べましたように、労働基準法では、一定の労働条件を書面で通知する事が定められています。
つまり、法律では労働条件の通知でよく、雇用契約書の締結まで求めていません。
しかしこの際、労働トラブル防止の観点から考えれば、一方的な労働条件通知書よりも、雇用契約書の締結を私はお勧めしたいと思います。
契約書という形を取れば、使用者及び労働者の署名・捺印が必要となります。
この「署名・捺印」が、万が一、トラブルが発生してしまった時に、大きな役割を果たします。
雇用契約に限らず、契約書に署名・捺印をすれば、契約書に書かれている内容を承諾した事となるからです。
後になって「知らなかった」「聞いてない」という事は基本的には言えなくなります。
労使トラブルの温床から会社を守るため、ぜひ労働条件通知書・雇用契約書を大切にしてください。