43%の仕事が赤字必至の小口案件にも関わらず、18年連続で黒字経営を続ける横浜のリフォーム会社「さくら住宅」。ちょっとした修繕でもお客様の元へ喜んで向かい、自社に隣接するスペースを地元の人々へ無料で開放する「先義後利」の経営は、揺るぎない信頼の元で企業繁栄を支えます。CRMのプロフェッショナルからの紹介です。
既存客へのサービスがないがしろになりがちなリフォーム業界
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
先週は、新聞業界におけるCRM施策、すなわち、既存のお客様に奉仕することによって業績を伸ばしている事例をご紹介しました。
既存客を大切にし売上を10倍に伸ばした新聞販売店による真心のCRM施策
今回は、リフォーム業界においても徹底した既存客重視の経営で、18年連続黒字経営の会社、「株式会社さくら住宅」の取り組みをご紹介しましょう。
さて、リフォームも含む不動産業界もまた、新規獲得が最優先され、既存客へのサービスは「ないがしろにされている」というイメージの強い業界でしょう。
実際その通りです。
私自身、戸建て物件を購入した際、営業担当者からは「十年保証ですし、ご購入後もきっちりフォローするのが当社の特徴です」などと言われたものの、購入後のサービスは実質ないに等しいものでした。
また、リフォーム業界では、ずさんな手抜き工事や、床下をチェックさせてもらい、「土台の柱が腐っている、このままでは倒壊しますよ」などと、他の家の写真を見せて高額な工事受注を狙うなど、詐欺まがいの行為が後を絶たないのが現実です。
そんなリフォーム業界において、お客様から「100%信頼しています」と言われ、リピート率7割、18年連続黒字経営を続けているリフォーム会社があります。
「株式会社さくら住宅」です。
さくら住宅は「先義後利」経営で18年連続黒字
さくら住宅は、神奈川県に5店舗を展開。従業員数は40人ほど。地元密着、誠実で丁寧な仕事が評判のリフォーム会社です。
当社の特徴は、電球交換、障子張り替えなど、出張費込みで1,000円~30,000円くらいの「小口の修繕」を積極的に引き受けている点です。
顧客からの依頼を受けると自宅まで即座に出向いて対応し、電気関連の修理は、改めて電気工事会社の担当と訪問するなど手間を惜しみません。
実は、他のリフォーム会社、とりわけ大手リフォーム会社は、こうした小口の案件はほとんど引き受けてくれません。単体では赤字だからです。
ちょっとした修繕だけど自分ではできなくて困っている。そんな人たちにとって、さくら住宅はとてもありがたい存在なのです。
さくら住宅の担当者が、そんな修繕のために顧客宅に出向いたときは、絶好のセールス機会です。しかし、決してこちらからはセールスしないという方針を守っています。「押し売り」になってしまうからです。
しかし、この誠実な対応が顧客の心をつかみます。そして、1,000万円、1,500万円といった大口のリフォームの受注につながっているのです。
さくら住宅では年間1,900件ほどの案件を受けています。そのうち、3万円以下の小口案件は43%を占めています。
ところが、売上ベースでみると小口案件はわずか2%。残りの98%は、儲からない小口の案件に誠実に対応した結果からつながった大口の案件から得ているのです。
さくら住宅社長、二宮生憲氏は、大口の案件を取るために、赤字の仕事を受けているのではないと言います。他ではやってくれなくて困っている家の修理を積極的に受けることは「人助け」なのです。
これはまさに「先議後利」が、結果的に自らの繁栄にもつながる良い実例ではないでしょうか。
見かけは不採算でも心理学的には商売を助ける取り組み
さくら住宅はさらにユニークな取り組みも行っています。
ひとつは横浜本社に隣接するスペースを「さくらラウンジ」と名付け、地元の方に無料で開放しているのです。しかもコーヒーや紅茶も無料です。
自治会や同好会の集まりはじめ、さまざまな催し物に利用されているさくらラウンジは地域コミュニティにとって貴重な存在となっており、「さくら住宅」に対する信頼や愛着を高めることにおおいに貢献しています。
また、「お客様株主制度」も他に類をみないもの。同社の株主のなんと75%はリフォーム工事をやってくれたお客様たち。
さくら住宅の経営理念に共感し、信頼を寄せているからこそ株主となっているのでしょう。
さて、小口案件を積極的に受注することの意義を、心理学的に解説しておきましょう。
これはまず「返報性の原理」で説明できます。
「返報性の原理」とは、人は「恩」「借りができた」と感じる扱いを受けた場合に、「お返しをしなくては」と考えてしまうことです。
3,000円そこらの手間賃で対応することは赤字の仕事、というのはお客様側もわかっています。
それを誠実に喜んでやるさくら住宅に対しては「恩義」を感じざるを得ないでしょう。「大規模リフォームの際には、さくら住宅さんにお願いしなければ悪い」と感じるのではないかと思われます。
また、大規模リフォームはせいぜい数年に1回あるかないかですが、小口の修繕は年に何回とお客様のところに足を運ぶことになります。
頻繁に顔を合わせて、言葉を交わせば親しみがわくようになるものです。これは「親近効果」です。人は、接触回数が多い人に対して自然に好意を持つようになることが実験でも証明されています。
さくら住宅が、小口案件をきっかけに大口の案件獲得につなげている背景には、こんな心理学的効果があるのです。
長期的な顧客との関係維持による繁栄は経営者の心構え次第で実現する
私はこうした事例を見聞きするたびに思うのです。
他の会社でも、目先の利益を追うのではなく、長期的な顧客の関係確立・維持を目的として、お客様が困っていることを解決するために誠心誠意、サービスすべきだと。
これこそがまさに「CRMの神髄」なのです。
現実には、目先の利益を優先するがゆえに顧客の信頼を得ることができず、値引きしか受注の方策がなく、まるで儲からず、更に押し売りを繰り返して、顧客の離反と営業担当者の疲弊・退職を招く会社が一向に減ることがありません。
もちろん、問題は明白ですね。経営者の「心構え」が間違っているのです。CRMの実践で最も重要なのは、経営者の心構えなのです。