なぜゴールやノルマを設定しても達成されないのか?
なになに?でかいゴールを設定したのに失敗した?その理由を今から説明しましょう。
ということで、どうも皆さんこんにちは。脳科学教育コンサルタントのクロスです。
今回お話をする内容は、『なぜノルマは達成されにくいのか?』です。これ、多くの経営者の皆さんが悩んでいる問題なんじゃないでしょうか。
大きなゴール、ノルマを設定したのは良いけれど、いざ従業員に実践させてみたら、「うまくいかなかった」「社員達の生産性が下がった」「臨機応変な対応というのが出来なくなった」あるいは「ズルをする人間が続出した」という経験はありませんか?
また、「倫理的に良くない方法を使って企業の業績をあげようとした」「人間としての成長がなくなった」と感じたことはありませんか?
ゴールやノルマを設定する際に多くの人が根本的に抱えている問題とは?
どうやってゴールやノルマは設定すればよいのか?
ここまで読んで興味のある方はぜひ最後までお付き合いください。
高いノルマを求められたグループと低いノルマを求められたグループ
まず、ある論文の実験をご紹介しましょう。※
その実験では、全員大学生、3人ずつで構成されたグループを約64グループ用意しました。
そして、これらのグループそれぞれに課題を与えました。
32組のAグループ、32組のBグループそれぞれに課題を与えて、それぞれのゴール達成能力を比較するわけですよ。
実は課題の内容はどのチームも一緒なのですが、課題の出来に対して全く違う目的を設定しました。
Aグループには「30点ぐらいだったらいいよ」という目標を設定し、Bグループには、「少なくとも70点ぐらいは取って欲しい」という目標を設けたんです。
Aグループには割と難易度が低くて、達成出来そうな簡単なゴールを設定し、Bクループには難易度が高いゴールを設定したんですね。
すると、Bグループ、つまり高いゴールを設定させられたグループのほうは、臨機応変な対応が出来ない事態に陥りました。
逆に、Aグループは割とリラックスした感じで課題を進めることができました。
Bグループの目標設定は一体どこがまずかったのでしょうか?皆さんはどう思いますか?
ぶっとんだゴールやノルマを設定する際の争点は「誰がその目標を設定したか?」である
この設定方法には決定的にまずい点が一つあります。
それは、『ゴールの難易度』ではなく、『誰がそのゴールを設定したの?』という点です。
つまり、自分達で考えたゴールなのか、それとも押し付けられたノルマなのか?が問題だったのです。
Bグループは「70点」というハードなノルマを課されたわけですが、「ノルマ」であったり「プレッシャー」というのは、基本的には『have to』のゴールであって、『Want to』ではないわけですよね。
となると、本人達は好きでもないのに「最低でも70点以上取れ」と指示されたということになります。
結果的に、ノルマをどうにかこうにかしなきゃいけないという事で、テンパって中々臨機応変な対応が出来なかったというわけです。
一方で、この「30点でいいよ」と言われたほうは、割とのんびり「30点だったら今までも取れてたから行けるわ」と考えるわけですよね。
となると、リラックスした状態でのんびりと、マイペースに30点は少なくとも取れます。でも30点です。
この論文の問題点は何かというと、外から押し付けられたゴールである以上、それが如何に大きなゴールであろうが、現状の外のゴールであろうが、素晴らしいゴールであろうが、本人達の意思とは関係がない『have to』なゴールは、結果として生産性(パフォーマンス)を低くするということです。
これ、普通に考えたらわかる話ですが、やりたくない事を無理やりやらされて、「嬉しい!やった!パフォーマンス高まった!」というほうが珍しいじゃないですか。
よほどの事がない限り、そういう人はいないわけですよね。
つまり、目標設定のベストな方法は、チーム・個人それぞれが、自分の意思によって、自分達で自発的に考えて、ゴールやノルマを設定することです。
企業が一方的にぶっとんだゴールやノルマを設定すると従業員はマズイ方向に走る
ちなみに、この傾向は大人であっても同じことです。
企業としての結果、生産性のみにゴールを置いて、企業が一方的に目標を設定してしまうと、結果としてズルをする人間が大量発生してしまうことがわかっています。※2
企業が勝手に、「生産性を3ヶ月以内に50%確実にアップする」「売上目標絶対こんだけ」「大量に売りつけろ」「売り飛ばせ」「売って売って売って金を儲けろ」というゴールのみを設定してしまったら、その達成に向けて、従業員がどんな手を使ってでもこなそうとしてしまうことがわかっています。
人間的な成長ではなく、「どんな手を使えばそれが出来るのか」という事に重きをおいてしまうと。
本来は、従業員がバランスよく、勉強によって人間としての成長を図ったり、自分の趣味に時間を使ったり、自分の為、家族の為の時間を使ったり、色んな方向にバランスよく自らのゴールを設定し、自らのゴールと企業のゴールを重ね合わせて、行動するのが最強なんですね。
しかし、企業が一方的にゴールやノルマを設定してしまうと、従業員は結果的に勉強を疎かにしたり、家族をおざなりにして、結果ばかりを追い求めて、全体がやがて行き詰ってしまいます。
短い目で見たら、確かに瞬間の利益はぐんと上がりますけど、長い目で見たら、勉強してきた人が集まっている組織のほうが上回っちゃうんですね。
他には、企業の結果のみを追い求めて、社員がズルをして売上目標を100%達成して、褒められたとします。
一方で売上目標は達成出来なかったけど、大体その90%までは行けた人がいたとします。
そして、100%のほうが褒められて、90%のほうは一切褒められないとなると、今度は90%まで達成した人間がどんな手を使ってでも、100%を目指そうとすることもわかっています。
それが、たとえ倫理的にまずいような方法であったとしても。結果を出そうとするような傾向が高まるという事がわかっています。
優秀な人が去るチームは大体、マネージャーが微妙
このような事態を防ぐためには、結果ばかり褒めるのではなく、プロセスもある程度しっかりと褒める必要があります。
「凄い!君は90%まで行けたのか!前回は80%だったけど90%まで行けた!この10%の伸び素晴らしいじゃないか!」と言えるようなマインドが企業に求められます。
「なんだよお前は!100%もいけないようなクズなのか!?」と怒り散らすようマインドを持つ企業からは、抑圧的で風通しも悪いので、結果的には優秀な社員がバンバン去っていきます。
実際、その論文でも言及されていますが、優秀な社員が去っていく理由として最も多い意見は、マネージャーとのぶつかり合いが圧倒的に多かったんですね。
マネージャーからすれば「なんであんな優秀なやつが去っていくんだろう?」みたいに不思議に思うみたいなんですけど、その論文では結論として、「鏡を見ろ」と「その鏡に映っているやつが原因や」とバッサリ言い切っています。
結局、マネージャーが微妙だったら、微妙な人しか残りません。
優秀な人はさっさとどこかいっちゃって、本当に価値観の合うマネージャーの元に、ぎゅっと集まっちゃいます。
だから、社員の育成をするんじゃなくて、マネージャーの育成をするというところから始めるのも大事です。
※Adaptation of Teams in Response to Unforeseen Change: Effects of Goal Difficulty and Team Composition in Terms of Cognitive Ability and Goal Orientation Jeffery A. LePine University of Florida
※2 Quitting the Boss? The Role of Manager Influence Tactics and Employee Emotional Engagement in Voluntary Turnover」