あれほど時間をかけて情報を精査し、様々なシチュエーションを想定して練り上げたトップ肝いりの計画。しかし、当初「完璧」と思えたはずの入念な計画は、いざ始めてみると大半が上手く行かず頓挫します。トップの仕事は、最重要目標やトップの意図を単純明快な一言で伝えて、部下の腑に落とし、自ら考え行動させることに尽きます。サウスウェスト航空の例をご紹介しましょう。
トップの作った入念な計画は大抵が頓挫する
あれほど時間をかけて情報を精査し、様々なシチュエーションを想定して練り上げたトップ肝いりの計画。
しかし、当初「完璧」と思えたはずの入念な計画は、いざ始めてみると大半が上手く行かず頓挫します。
なぜなら、現場では思ってもいなかったところでライバルに攻撃され、雨が降ると想定していたのに槍が降り、あげく攻め入った戦場に果実が実っていないことさえあるからです。
全てを把握しきれないトップは、最前線に立つソルジャーこと従業員たちから、次々と戦況が膠着し、苦境に陥っているという報告を受けますが、最初の計画が複雑に組み立てられすぎて柔軟な変更に耐えられるものではないため、現場は更に混乱していきます。
トップはあれこれと指示を出しますが、最後の詰まった時になって、こういうのが精一杯です。
「何をやっているんだ。計画通りちゃんと進めろ」
サウスウェスト航空のトップが伝える方針はたった一言だけ
なぜトップが入念な計画を立てて、あれこれ指示出しをしても上手くいかないのか?
その理由は、テレビ・映画の大ヒット作『踊る大捜査線』で青島巡査が上層部に言い放った、「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」という言葉が伝える通りです。
状況は刻々と移り変わるため、現場の人間たちがぶれない核となる行動指針を共有しながらも、自らその状況に応じて考え行動しなければ、何一つ目標など達成できないのです。
従って、トップの仕事は、最重要目標や自らの意図を単純明快な一言で伝えて、部下の腑に落とすことに尽きます。
アメリカのサウスウェスト航空で長年CEOの座にいたハーブ・ケレハーは、自社の繁栄を持続させるために重要な核となる考えを示す上で、「最格安航空会社」というシンプルでわかりやすいキーワードを選択し、これを社内に浸透させる一方、現場の人間たちに多くの判断を委ねました。
たとえば、飛行中にピーナッツしかおつまみを出していないヒューストン・ラスベガス路線で、チキンシーザーサラダの需要があると営業部門の社員が打診してきたら、ケレハーはこのように答えます。※
「チキンシーザーサラダを追加すれば、当社はヒューストン・ラスベガス間で、最格安航空会社になれるのかな?無敵の格安航空会社になれないなら、チキンサラダなんて出さないよ。」
このように、経営の秘訣(方針)を、ケレハーは「最格安航空会社」というたった一言で部下の腑に落としているため、いちいち指示出しをしなくとも現場の人間たちは腑に落ちた方針の元に自ら考え行動します。
結果、サウスウェスト航空はLCCの先駆けとして、徹底したコスト削減を実現し、圧倒的なコストパフォーマンスで顧客の支持を得ており、更には黒字経営を30年以上に渡って継続しています。
単純明快な方針の範囲内であれば従業員は大いに、そして自由に楽しんで良い
ちなみに、サウスウェスト航空がLCCの一社であると聞くと、「給料が安そう」「過酷な環境で働いていて辛そう」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
事実は反対であり、サウスウェスト航空は全米就職人気企業ランキングでも、長年50番以内にランクインし続ける人気企業です。
なぜか?
「最格安航空会社」という方針さえ守っていれば、従業員は現場で自由に働くことを許されているからです。
機内放送で仲間の退職や誕生日を祝いたいと思ったら、紙吹雪を散らすのはダメでも、機内アナウンスで乗客と一緒に祝ってあげるのはOKとなります。
前者の行動は紙吹雪を片付けるコストがかかるため、「最格安航空会社」という方針に反しますが、後者の行動は「最格安航空会社」という方針の範囲内で、コストをかけずに行えるイベントだからです。
最重要方針に反してなければ、委ねられた現場の実行権の下、従業員たちは自ら考え動き、これを楽しみます。
1日で5便目のフライトとなったキャビンアテンダントは、とっさの判断で搭乗案内をラップでアナウンスし、顧客と共に普通ならウンザリする5便目のフライト業務を楽しみます。
しかも、アメリカの航空業界でトップレベルの給料がもらえるとなれば…優秀な人材が集まるのは言うまでもありません。
あなたの会社ではトップの方針が単純明快な一言で伝えられ、現場のスタッフはその方針を腑に落とし、自由に楽しみ、そして稼いでいますか?
※参照
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