かつての消費財のマーケティング手法では、ある商品についてブランディングを行うにはマス広告が不可欠という常識がありました。しかし、この考え方は陳腐化したものとなりつつあります。大手メーカーが君臨するヘアケア製品のカテゴリーで台頭してきた「ボタニスト」が1つの良い例です。彼らのブランド確立を成し得た主要因、それはデジタルマーケティングです。
従来のマーケティング手法が通用しない時代
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
インターネットは、その登場以来、私たちの社会・産業・生活を大きく変えてきました。
私の専門とするマーケティングの世界にも多大なる影響と変化をもたらし、従来のマーケティング手法の大きな見直しが必要になってきています。
例えば、「ブランディング」です。ブランディングを簡単に説明すると、商品の認知度や理解度、好意度を向上させ、購買意欲を喚起するためのコミュニケーション活動のことです。どんな商品であれ、そもそもその商品名が知られていなければ誰も買ってくれません。
もちろん、商品名が知られているだけでなく、さらにその商品の特長などを消費者が理解しており、かつ「良い」「優れている」「デザインがいい」といったなんらかの好意が形成されて初めて、「欲しい」「買いたい」という気持ちが生まれます。
売れたいならマス広告が不可欠という常識は過去の話
ブランディングを通じて、広く名前が知られ、商品理解や好意度が高くなった商品は「ブランド力のある商品」であり、端的に「ブランド」と呼ばれるようになりますね。
たとえば、ルイ・ヴィトンやグッチなどが、「高級ブランド」と形容されているのは皆さんもご存知のとおり。
さて、このブランディング、一般消費者向けの商品においてはテレビや新聞、雑誌などのマス媒体をメインとするマス広告を大量に投じる必要があるというのがこれまでの常識でした。
例えば、資生堂のメガブランド、「マキアージュ」や「TSUBAKI」が誕生した年には、複数の有名女優を同時起用し、数十億円の広告費が使われています。だからこそ、短期間で「マキアージュ」、「TSUBAKI」はよく売れる人気のブランドとなったわけです。
ところが近年、消費財のブランディングにはマス広告が不可欠という常識が崩れつつあります。
短期間でシャンプー・リンス市場を席巻した「ボタニスト」のマーケティング手法
その実例が、資生堂を始めとする大手メーカーが君臨するヘアケア製品(シャンプー・リンスなど)のカテゴリーで台頭してきた「ボタニスト(BOTANIST)」という製品。07年設立のベンチャー企業「イーネ」が開発・販売しています。
ボタニストは、特定個人の色がつくことを嫌って有名女優を起用しておらず、マス広告も一切打ちません。活用しているのは、「インスタグラム(Instagram)」などのソーシャルメディアです。
ボタニストの成分の90%は植物由来であり、消費者のナチュラル志向にマッチしていることもありますが、透明なボトルにロゴを配したシンプルなデザインが人気。ボタニストを置くと、それだけでお風呂場がおしゃれな雰囲気になると評価されており、インスタグラムに投稿された「ボタニスト」のハッシュタグ付き写真は、2万件を超えています。
こうしてマス広告に頼らず、ソーシャルメディア主体のコミュニケーションを展開してきたボタニストは、過去2年半の累計出荷本数が2500万本を突破し、2016年のシャンプー・リンス市場のメーカー別シェアにおいてなんと5%を獲得。
ランキングでは、シェア約1割を占め、トップの資生堂にも迫る5-6位につける勢いとなっています。
無名のベンチャー企業の無名のブランドがわずか10年ほどで大手メーカーに対抗できるほどのブランドを確立するというのは、前述したように一般消費者向け製品カテゴリーではとんでもない成果です。インターネット以前には起りえなかったことだと思います。
どの業界・職種であれデジタルテクノロジーの進化から置き去りとなるなかれ
他のカテゴリーでも、同じくソーシャルメディアを巧みに使い、インフルエンサー(影響者)を通じた口コミによって大手ブランドを凌ぐような人気を獲得したブランドが次々と生まれつつあります。
一方、大手メーカーも、新興勢力に負けじとソーシャルメディアを活用したマーケティングに積極的に取り組んでいます。その背景には、油断していると、短期間でのし上がってきた新しいブランドに足元をすくわれてしまうという危機感が高まっていることがあります。
冒頭に述べたように、インターネットは私たちの生活を大きく変え、また過去のアプローチを陳腐化させています。
どんな業界、どんな職種の方であれ、最先端のデジタルテクノロジーのチェックを怠らないようにしておくことをお勧めします。
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