たとえ1%でも株式を第三者が保有しているなら、株主総会を開催する手間が余計にかかりますし、保有比率以上に第三者が会社へ影響力を及ぼすことになります。株主の少ない中小企業なら、なおさらのことです。もしこのような状況に陥っているなら、少数株主排除の手続きとして、「特別支配株主による株式売渡請求制度」を活用するのが1つの手です。
少数でも第三者が株を持つとコストが高く付く
上場企業は株主の数が多いので、経営者は株式を少数保有している株主に対して、そこまで過敏に対応しなくて済みます。
一方で非上場の中小企業の場合、そもそもの株主の数が少ないのが現実です。
たとえ1%でも株式を第三者が保有しているなら、株主総会を開催する手間が余計にかかりますし、保有比率以上に第三者が会社へ影響力を及ぼすことになります。
従って、あまり事業にプラスの影響が無い少数株主は排除したい、と考えている経営者の方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回ご紹介したいのが、平成27年に施行された「特別支配株主による株式売渡請求制度」です。
少数株主排除の手続きが、従来よりスムーズに行えるようになっていますので、詳しく見ていきましょう。
特別支配株主による株式売渡請求制度の概要
「特別支配株主による株式売渡請求制度」とは、90%以上の議決権を有する支配株主が「適切な価格」を提示して、少数株主の株式を買い取ることを「通知」した場合、一方的に株式を買い取ることができる、という制度です。
同制度の特徴は、
- 1)少数株主の同意がなくても強制的に株式を買い取ることができる
- 2)株主総会決議がなくても買い取ることができる
というものです。
手続きは、以下4つの手順を経て行われます。
- 1)特別支配株主が「取得日」「買い取り金額」を決めて、少数株主へ売り渡すように「通知」する
- 2)会社の承認を得る(取締役もしくは代表取締役の承認)
- 3)少数株主に対して、株式の取得日の20日前までに通知する
- 4)通知日に株式が自動的に少数株主から支配株主へ移転する
これまでも少数株主を排除する方法としては、「全部取得条項付種類株式」という制度が存在しました。
ただ、同制度を活用するには、株主総会の特別決議で承認を得る必要があり、種類株式を発行しなければならない、など手間とコストがかかるため、一般的にはあまり広まってきませんでした。
この点、「特別支配株主による株式売渡請求制度」は手続きが簡単で、確実に少数株主から株式を買い取ることが可能となります。
「特別支配株主による株式売渡請求制度」を活用する際に踏まえる4つの注意点
一方で、「特別支配株主による株式売渡請求制度」を活用する際の注意点は以下の通りです。
1)公正な価格を専門家に査定してもらう
株式の買い取り価格は「公正な価格」でなければならず、これについては税理士・会計士などの専門家へ算定を依頼する必要があります。
2)通知・広告・事前備置違反はNG
手続きが法令に違反する場合、通知又は公告もしくは事前備置の義務に違反した場合は、差し止め請求を受ける場合があります。
3)価格に対する申し立てが行われるケースもある
少数株主は価格について不服がある場合、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し売渡株式の売買価格の決定の申立てをすることができます。
取得無効の訴えは、取得日から6ヶ月以内にする必要があります。
4)一部ではなく少数株主の全員から株を買い取る
特別支配株主(議決権90%以上)は少数株主(残りの株主)の全員から買い取らなければなりません。
一部の少数株主だけから買い取れない点には注意が必要です。
以上を踏まえて、今回ご紹介した制度を活用していただければと思います。