海外への輸出量が増加している一方で、国内市場の総消費量が落ち続けている日本酒。ヘビーユーザーに支えられているものの、市場の維持・拡大を実現するには、若い世代の消費が必須です。この課題を克服し、若いファンを増やしている日本酒があります。宝酒造が販売するスパークリング清酒、「澪(みお)」です。
獺祭は流行れど…縮小続ける国内の日本酒市場
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
唐突な質問ですが、あなたは日本酒が好きですか?
私自身は日本酒が大好きです。子供のころ、九州の実家に訪ねてくるお客さんがお土産として手にしていたのは、たいてい日本酒一升瓶でした。お座敷で開かれる宴会でも、ビールの後はたいてい日本酒。ウイスキーや焼酎はほとんど目にしたことがありません。
こうして、小さい頃から慣れ親しんだ日本酒も、大人になってからはあまり飲んでいませんでしたが、最近は吟醸酒のようなおいしいお酒が比較的手ごろな値段で買えるようになったこともあり、このところ飲酒量が増えています。
さて、日本酒は海外でも人気が高まりつつあり、日本酒の需要が回復しているような印象を受けます。
しかし、輸出量は増加している一方で、国内市場は縮小傾向が止まりません。統計数字を見ると、ピーク時には170万リットルもあった総消費量が、ここ数年は60万リットルを切り、その減少は依然として続いているのです。
「獺祭」に代表される高品質のお酒(吟醸酒、純米酒)の消費量は、数年前から増加に転じているものの微増に過ぎず、日本酒市場全体の縮小を食い止めるまでには至っていないのです。
結局のところ、日本酒を支えているのは中高年層であって、おいしい日本酒が手に入りやすくなったことで消費量を増やしてはいるものの、日本酒の消費人口はたいして増えていないことがうかがえます。
ウィスキーはなぜ復活?ハイボールが解決した3つの課題
どんな市場においても同じことが言えますが、市場を維持・拡大するためには次世代、すなわち若い世代にも消費してもらうことが必須。しかし、若年層にとって日本酒はまだまだ身近な存在ではないのです。
ウィスキーも以前はそうでした。「以前は」と言ったのは、現在は「ハイボール」のおかげで復活したからです。
ウイスキーがハイボールの登場によって復活できた理由はおわかりでしょうか。
それは、サントリーの巧みなマーケティングも奏功して、ウイスキーが抱えていた以下の3つの課題を克服したからです。
- 課題1:アルコール度数が高くて飲みにくい
- 炭酸で割ることでビール並みのアルコール度数で飲みやすくした
- 課題2:食中酒として飲めない
- ハイボールのさっぱりとした特徴を強調し、料理に合う食中酒の消費を取り込んだ
- 課題3:おじんくさいイメージ
- 若年層にアピールする広告・プロモーションで洗練されたイメージを構築した
並行して、サントリーでは流通戦略にも力を入れ、居酒屋など若年層が好むお店の定番アルコールとして置いてもらうことに成功したのです。
最近は、「とりあえずビール」ではなく、「とりあえずハイボール」という人が増えているそうですし、「えっ、ハイボールってウイスキーなんすか?」と驚く若者もいて、そもそもウイスキーとは別のアルコール飲料として認知されつつあるようです。
日本酒が再び復活するために必要な6つの取組
さて、既にお分かりかとは思いますが、日本酒もウイスキーと同様の課題を抱えていますね。
私は2011年に書いたブログ記事で、ハイボールの成功事例に学び、日本酒も以下の取り組みを行うべきだと提言しました。
- 1)日本酒を飲まないマス(大衆)層を狙うこと
- 2)ビールと同じ程度のアルコール度数低め(5-7%)で飲みやすいこと
- 3)食中酒として食事に合うこと
- 4)おじんくさいイメージを払拭すること
- 5)グラス一杯当たり、酎ハイ並みの安さであること
- 6)居酒屋等での取り扱いを増やすこと
2011年当時、ハイボールをただ真似ただけの「日本酒ハイボール」がいくつか登場していましたが、ボトルデザインも野暮ったくほとんどが早々と消えてしまいました。
日本酒の概念を変えるスパークリング清酒「澪」の取組
そんな中、上記の課題を克服し、若いファンを増やしている日本酒があります。
清酒スパークリングワインの「澪(みお)」です。
宝酒造が販売する「澪」が登場したのは奇しくも2011年。それから6年余、宝酒造はじっくりとブランドづくりを行ってきました。
「澪」は、若い女性を中心とするお酒のライトユーザーがメインターゲット。酸味と甘みのバランスが良く、アルコール度数5%で飲みやすいお酒です。スパークリング、つまり泡酒ですからさっぱり感もあり、食事にも合います。
マーケティング展開においては、「澪」でおしゃれな女子会を開きましょう=「澪パ」という用途提案を行っており、コマーシャルも女性のハートをくすぐる仕上がりになっています。
こうして、「澪」は単なるハイボールの真似ではなく、むしろ「スパークリングワイン」的なブランド構築を行い、若年層の開拓に成功したのです。
居酒屋などでも「澪」が置いてあるところが増えてきました。これからの世代が日本酒に慣れ親しむエントリー商品として、「澪」は国内における日本酒市場復活の切り札と言えるかもしれません。
なお、私のような日本酒ヘビーユーザーにとって、「澪」はものたりないので飲みません。
サントリーが、ハイボールのマーケティングに力を入れようとしたとき、同社内には、「ウイスキーを炭酸で割ったハイボールなんて邪道だ、亜流だ」という異論が出たそうです。
スパークリング清酒の「澪」に対しても、同じような異論を持たれる日本酒ヘビーユーザーがいらっしゃるでしょう。
しかし、新たなユーザーの心をとらえる新商品は常に、亜流・傍流から生まれてくるのです。
世界に誇れる日本文化のひとつである「日本酒」の隆盛のため、自分の好みはさておき「澪」のようなネオ日本酒を応援しようではありませんか!
Photo credit: emiemihuimei via VisualHunt.com / CC BY-SA