一般的にコンタクトセンターのオペレーターは、入電1件あたりの平均処理時間をできるだけ短くするよう指導されますが、同業務を請け負う情報工房は、セオリーに反し、顧客との対話時間を伸ばす「ワンモアトーク」という施策を実施。これにより、定期客の離反は、未実施の顧客層よりも20%ダウンしました。顧客の心理に沿った好施策として学ぶ点が多い事例です。
効率的な会話を求められるコールセンターのオペレーター
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
前回、マーケティング&セールス活動における「電話」の有効活用方法についてお話ししました。今回も、電話を通じた効果的な営業トークについて事例をご紹介したいと思います。
コールセンター業界の専門誌「Call Center Japan(2016.11)」の記事によれば、CRM実践に取り組むメーカーのお客様部門を請け負うことを主事業とする「情報工房株式会社」では、コンタクトセンターで受けた顧客からの電話での対話時間をできるだけ伸ばすことで、売上増を実現しているとのこと。
主に顧客からの問い合わせなどを受け付けるのコンタクトセンターは、基本的に「コストセンター」という位置づけであり、いかに効率的に運営するかが重要視されます。
したがって、オペレーターには、入電1件当たりの平均処理時間(AHT:Average Handling Timeと言います)をできるだけ短くするように指導されます。
しかし、情報工房では、クライアントの一社である某健康食品の通信販売会社の定期顧客(毎月一定の商品が定期的に届けられる契約を結んでいる客)の解約防止のため、顧客との対話時間を伸ばす「ワンモアトーク」という施策を展開しました。
この施策は、同社と顧客との関係にどのような効果をもたらしたのでしょうか?
情報工房のワンモアトークが生み出した顧客との良好な関係
ワンモアトークは、「問い合わせ」などの顧客の目的のための会話を行った完了後に「意図的に新しい会話を作り出す」施策です。
コールセンターの対応完了の締めの文句は、
「ほかにご不明な点はございませんか」
といったものですね。
これに対し情報工房は、電話をかけてきた顧客が、
「いえ、大丈夫です」
と返してきた後に、
「ところでお客様、当社の商品を購入されたきっかけはなんでしたか」
「当社製品を使い続けていただけている理由はなんでしょうか」
といった質問を投げかけて、顧客との会話を継続させます。
これが「ワンモアトーク」です。
ワンモアトーク施策が発案された背景には、過去データの分析を行い、継続顧客と離反顧客の平均通話時間を比較したところ、継続顧客のほうが、離反顧客よりも1.5倍も長く話していたことがわかったことがあります。
顧客とオペレーターがより長く対話することで、両者の間にある種の親近感が生まれ、それが定期継続に貢献しているのではないか、という仮説が立てられるわけです。
ワンモアトーク施策は、上記仮説の正しさを実証しました。
顧客の応対完了後の「新たな質問」によって対話時間を延長できた成功率は65%に達し、実施していない場合と比較して平均通話時間(AHT)は1.4倍に伸びました。
そして、定期客の離反は、未実施の顧客層よりも20%ダウンしたのです。
定期客は毎月安定した収益をもたらしてくれる大切なリピーターであり、彼らの離反を少しでも抑えることができれば、収益維持への効果はとても大きいのです。
同様の施策を実施しアメリカで好反響を生み出したザッポス
また、顧客にとってもワンモアトークがうれしい施策でした。
問い合わせに事務的に対応され、さっさと電話を切り上げたいようなニュアンスが感じられると「なんだかなー」と思うもの。
それが、新たな質問で会話が弾み楽しい電話となれば、顧客満足の向上に寄与するのは間違いないでしょう。
米国の靴・アパレルのネット販売会社「ザッポス」では、顧客からの電話を何時間でも続けてよいという方針を掲げています。
さすがに、ザッポスほどの思い切った方針を打ち出すことは難しいかもしれませんが、情報工房の「ワンモアトーク」の試みから学べることは多いのではないでしょうか?
情報工房株式会社:Webサイト