ハプスブルク家は現在でもヨーロッパ随一の名門王家として知られる。その皇祖であるフリードリヒ3世という人物をご存知だろうか?逆タマでお金を手に入れたのにケチ、戦争からとことん逃げる、結婚と子作り推進で領土拡大、必ずしもカッコイイとは言えないが歴史の覇者となったフリードリヒ3世は企業経営の極意を実践した先駆者といえるかもしれない。
ヨーロッパNO1の名家 ハプスブルク家
オランダ、ベルギー、スペイン、ポルトガル、イタリア、ハンガリー、オーストリア、これらの国には歴史上、共通した事実がある。
それはハプスブルク家が支配していた歴史があるということだ。
1918年にオーストリア=ハンガリー帝国が崩壊するまで約700年もの期間、ハプスブルク家はヨーロッパのどこかしらで王を輩出する一家であり、今でもヨーロッパ随一の名門として挙げる人は多い。
そんなハプスブルク家も、もとはと言えばオーストリアの3州を支配する貧しい地方の一領主であった。
更に言うと、まさかフリードリヒ3世(1415〜1493年)が、ハプスブルク家の繁栄するきっかけとなったとは、当時の人が思いもしないことだろう。
なぜなら彼は、「歴史上最弱の皇帝」、「帝国第一の就寝帽」と呼ばれ、死後に「神聖ローマ帝国の大愚図」とまで蔑まれたからだ。
しかしフリードリヒ3世は、実際に覇者となったのだ。
フリードリヒ3世は効率的で優れた節約家
とことんイケてないのに、最終的にフリードリヒ3世はなぜ最終的に覇者となったのか?それは彼が節約家だったからだ。
以下エピソードを紹介する。
1)逆タマでお金を手に入れたのにケチ
当時海洋王国として栄えていたポルトガルの王女エレオノーレと結婚した。エレオノーレは、ポルトガルが海上貿易で儲けた莫大なお金をハプスブルク家に持参金として持ってきてくれた。このときフリードリヒは、輿入れの路銀を教皇に用立てさせたり、せっかくぼろい居城へ尾輿(おこし)入りしてくれたエレオノーレに、ワインをストレートで飲むとは何事だ!と怒ったという。
2)とにかく戦わないで逃げまくり、戦費を抑える
当時の神聖ローマ帝国は、オスマン・トルコ帝国やハンガリー、など強国に囲まれた貧乏国家だった。まともに戦っても勝てないのは何よりも明白だったため、ヨーロッパの象徴であったビザンツ帝国の首都コンスタンティノープル(現在のトルコ・イスタンブール)が、トルコの手に落ちた時も、挙兵せず「あぁそうか。」というだけだった。こうしてフリードリヒは、その治世中に世界最強と言われたトルコと戦うことがなかったため、ムダに戦費が浪費されなかった。ウィーンにハンガリー(当時は強大な帝国だった)が攻め込めば、とことん山に逃げ隠れ、相手が自滅したあと、しれっと帰ってきて戦後処理を行うといった具合だった。
3)戦争の代わりに結婚と子作りで領土拡大
戦争しない代わりに婚姻政策は積極的に行った。妻エレオノーレの親族で、ブルゴーニュ公国(現在のフランス領内)の跡取り一人娘であるマリーを自分の息子マクシミリアン(後のマクシミリアン大帝)と結婚させた。当時のブルゴーニュ公国は、ヨーロッパ随一の経済中心地であり、幾千もの死者を出さず、二人の結婚だけで効率的に神聖ローマ帝国(特にオーストリア)は莫大な富を手に入れた。その後、ハプスブルク家では代々婚姻政策が重視され、各皇帝は子供をたくさん作ってヨーロッパ中の国へ送った。「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ」という言葉さえ生まれる。
一見臆病で無能だが効率的に勝ちを収める
フリードリヒが後世に残したエピソードの一つ一つは、情けなく滑稽にも見える。
しかし彼はハプスブルク家の歴代皇帝で最長の53年間に渡り、帝位を保持し続けた。元来選挙によって決められていた神聖ローマ帝国皇帝の座が、ハプスブルク家による帝位世襲となったのも、フリードリヒの治世からである。
「お金持ち国家の王女と結婚し、しかも節約する=優れた資本家に出資してもらい、そのお金をムダに使わない」、「大国と戦わず逃げる=大企業と同じフィールドで消耗するビジネスをしない」、「結婚で恵まれた領土を手に入れる=優れた会社と業務提携して、てこの力を手に入れる」、とフリードリヒの行動をビジネスに置き換えれば、かなりイケている経営者に見えないだろうか?
彼の血は今でも脈々と受け継がれ、現在に残るヨーロッパ王室をたどれば祖先はフリードリヒにつながる。
他人からどう見られるかを気にせず、なりふり構わず節約し、効率的に動き、最終的な勝利を手に入れた皇帝から学べることは多い。
画像提供
“Frederick III and Eleanor of Portugal” by 不明 – http://www.tirolerportraits.it/de/Portraits-suchen.aspx. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.