バイオリンの名器・ストラディバリウスの品質は果して最高か?

経営

 プロが名器・ストラディバリウスと新しいバイオリンを弾き比べた時に品質で選んだのは、新しいバイオリンでした。とはいえ、この結果によってストラディバリウスの価値が下がるかと言えば、それはありえません。ストラディバリウスの伝統・歴史・開発秘話は新しいバイオリンに真似できないからです。以下、解説します。

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ストラディバリウスを使ったブラインドテスト

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 今回は、おそらくほとんどの方が知らないであろう、衝撃の事実をお知らせしましょう。

 それは、2014年に行われた科学者によるバイオリンの名器についての実験結果です。

 この実験では、1本数億円もすることでご存知の名器「ストラディバリウス」を含むイタリアのヴィンテージ・バイオリン6挺(ちょう)と、近年製作された新しいバイオリン6挺について「ブラインドテスト」が行われました。

 ブラインドテストとは、商品の良し悪しを商品名に惑わされず、純粋に判定できるよう、どれがどれかわからないようにして行うものです。今回は、バイオリンですから、文字通り「目隠し」をして行われました。

 当実験に参加したのは、国際コンクールの優勝者などトップクラスのソリストたち10人。

 彼らは「ゴーグル」をして新旧12挺のバイオリンの試し弾きを行い、「次の自分の愛機を選ぶ」という判断基準でランク付けを行ったのです。(なお、新しいバイオリンには念のためエージング処理が行われ、手触りでの新旧の区別ができないようにしてありました)

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プロは誰もストラディバリウスを選ばなかった

 実験の結果、10人が最も高い評価を与えたバイオリンは、実は最近作られた新しいバイオリンでした。

 全体でみても、10人のソリストたちが1位を与えたもの、すなわち「次の愛機に最もしたい」と考えたバイオリンの3/4が新しいバイオリンでした。

 300年前に作られたと言われる名器、「ストラディヴァリウス」を含むヴィンテージバイオリンが、ランキング上位にくることはほとんどなかったのです。

 さて、この実験によって、「ストラディバリウス」の神話は崩れ去るのでしょうか?

 私はそうは思いません。

 おそらく、現代の名工たちのつくるバイオリンは、純粋な品質という点では、ストラディヴァリウス」とそん色のない、あるいは凌駕しているのかもしれません。

 しかし、「ストラディバリウス」は、バイオリンにおける「プレミアムブランド」です。

 超一流のバイオリニストだけが手にすることのできる稀少価値の高いバイオリンであり、ストラディバリウスを弾くということは「超一流であることの証」だとも言えます。

 ソリストがストラディバリウスを手にしたとき、世界的に知られた名器を演奏できる誇りや喜びを感じていることでしょう。

 その高揚感が、ソリストの演奏を一段と素晴らしいものにしてくれるのではないかと思います。

 単に楽器が優れているからといって、名演奏ができるとは限らないのです。(もちろん、優れた演奏家は、どんな楽器でもそれなりに弾きこなせますけど)

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日本企業に今求められるブランドを創造する力

 私は、このブラインドテストの結果から、ブランドの本質を見ることができると考えています。

 ブランドとは、品質を超えたところにある特別な価値を与えるもの。その商品ならではの独自の出自や伝統、歴史、開発秘話など、様々な固有のストーリーによって生み出される価値であり、簡単には真似できないものです。

 フランスやイタリアの有名服飾ブランドの製品を作っているのが、実は日本の地方の名も知らぬ服飾工場であるのをご存知でしょうか?

 もし、日本の服飾工場で作られた服を工場から直接買うことができるとしたら、品質と比較して格安で手に入ることでしょう。しかし、いったん欧州の高級なブランドのマークが入ると、その価格は数十倍へと跳ね上がるのです。

 そうしたブランドは単に品質やデザインが優れているだけではないのです。「一流品」を身に着けているという気分を与えてくれるからこそ、ブランドにプラスアルファのお金を出すのです。

 近年、ブランドを創造すること、すなわち「ブランディング」に対する関心が高まってきていますが、その背景には、日本企業が得意としてきた多機能化競争、高品質化競争は、結局のところ製品の同質化を招き、最後には価格競争へと陥ってしまうといいう現実があります。

 せっかくのいいものが安売りされ、全く儲からないというわけです。

 日本企業は今こそ、自社製品のブランドをどうやって作っていくかに知恵を絞るときです。

 画像:ウィキペディア・コモンズ

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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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