「誰も旅行なんかに行きたくないのに、なぜか皆が空気を読んで行きたくない旅行に行き、最終的には誰も幸せにならない」という喩えは、アビリーンのパラドックスと呼ばれています。個の時代と言われながら、企業内ではなぜか同調作用が働きやすい現代。どうすればアビリーンのパラドックスを解消することができるのでしょうか?
家族皆が行きたくない場所に行ってしまう矛盾
ゴールデンウィークも終盤戦となりました。
最後の週末は家族で、近場へ外出という方もいらっしゃることでしょう。
外出時のあるあるネタですが、週末に奥さんや子供たちへ「どこに行く?」と聞いても、「どこも行きたくない」「どこでも良いよ」と返答されることはないでしょうか?
こんな場合、父親が仕方がなく行き先を決めます。例えば、郊外の大型商業施設です。
しかし、父親本人も大してそこに行きたいわけではなく、行ったところで家族は皆つまらなそうな素振りをしてブラつくだけ。
結果として、最後に行ったファミリーレストランで、子供が「つまんないし疲れた」とクリティカルワードを繰り出し、全員しらけて家路に着くことになります。
読者の皆様の家庭では、断じて今週末そんなことは起こらないはずですが!実際、目に浮かべることが容易な光景だと思いませんか?
いわゆるアビリーンのパラドックスです。
多くの企業が抱えるアビリーンのパラドックス
アビリーンのパラドックスは、先ほどの喩え(たとえ)の舞台を、アメリカのテキサスに置き換えた話です。
家族4人が誰も旅行に行くことを望んでいなかったのに、皆が「他の家族は旅行をしたがっている」と勝手に考え、誰もその提案に反対せず、旅行に出かけます。
ところが道中は暑く、埃っぽく、とても快適なものではないため、皆が疲弊します。旅の終わりに、家族全員が誰もアビリーンへ行きたくなかったと知るのです。
家族の中ならまだしも、会社組織では、頻繁に同じようなことが起こっています。
例えば、発言力がある人間が発言した意見に対して、本当は違う意見があるにも関わらず、それを表明しない(できない)人のほうが多いというのは、日常茶飯事の出来事です。
ところが、会社組織が慢性的にこのような状態を抱えていることは、最終的にはヒューマンエラーに繋がります。1人の発言力ある人間が、正しい判断を行い続けることは非常に困難なことだからです。
東芝の粉飾会計事件は、私達の記憶にもあたらしいところですが、これは実績ある経営陣による「手段を選ばぬ利益必達」というプレッシャーの元、無言の同調圧力により、組織ぐるみの不正が行われた事件でした。
昨今であれば、三菱自動車の軽自動車部門において、スズキやダイハツとの熾烈な競争化で予算が少ない中、部門ぐるみの燃費表示不正操作が行われました。
まずいと感じている社員もいたことでしょうが、なぜ彼らはそれを表明できなかったのでしょうか?
それは、マズイと思っていてもそこにある空気に同調してしまう、アビリーンのパラドックスが働いていたからです。
最初から異論があることを前提とした組織作り
人は基本的に1人で生きることはなく、社会という集団の中で群れを成して生きる動物です。
従って同調作用が、組織内で起きることは必然の条理とも言えます。
これを防ぐにはどうすれば良いかと言えば、最初から異論があることを前提とした組織作りをする必要があります。
つまり、
- 批判的な意見を推奨し、意見するものを賞賛する組織作り
- トップが先に結論を提示しない
- 少人数のグループを編成し、グループに1議決権を与える
- 会議において異議申立を最低一人設定する
- 全会一致の場合、議論を振り出しに戻す
などの施策を、経営者は自社の事業形態や会社の状態に合わせて、用意しなければなりません。
効率的に物事を意思決定することに偏りすぎず、多くの意見に耳を傾けることに手間をかけることも、最善な意思決定をする近道の一つなのです。