GHQ(連合国軍総司令部)の軍人で母語が英語であるアメリカ軍人に「英語を練習してうまくなりなさい」と言った男、白洲次郎はキングスイングリッシュを習得しているのみならず、技術を修得する根幹にプリンシプル(主義・主張)を持っていた。企業のプリンシプルたる企業理念を持つことの重要性を白洲次郎は教えてくれる。
アメリカ人に英語上達しろと言い放った男
戦中戦後を通じて政治・経済界で活躍した官僚・政治家である白洲次郎(1902年 – 1985年)に、近年大きな注目が集まっている。
きっかけは白洲を主人公にしたNHKの連続ドラマが放映されたことや、彼を取り扱った書籍が多数出たことにある。
白洲次郎の人物像を描くエピソードは多数語り継がれているが、中でも有名なエピソードはあるGHQの軍人との会話から生まれた。
ある時GHQ(連合国軍総司令部)の軍人が、敗戦国の人間にも関わらず日本の国益を損なう主張を全て否定し、自らの主張をはっきり伝える白洲に「貴方の英語は上手ですね」と皮肉たっぷりな言葉を投げかけた。
時は1946年(昭和21年)焦土と化した日本を占領するGHQにとって白洲以外の日本人官僚は、首を縦に振り自分の言いなりになる人間にしか見えなかったのだ。
この軍人に対して白洲は「あなたも練習すれば英語がうまくなりますよ」と言い返し、軍人はあっけに取られたという。
精神と技術の両立が揺るぎない自信を作る
なぜ白洲次郎は母語を英語とするアメリカ軍人に、「英語を勉強しろ」と言い返せたのだろうか?
確かに白洲次郎は、若年時代にイギリスへ留学し、上流階級で「キングス・イングリッシュ」を学んだ技術的な強みがあったが、彼にそう言わしめた根幹には、更に別の強さがあった。
彼には揺るぎないプリンシプルがあったのだ。プリンシプル(英:principle)とは、日本語で「原理・原則・根本・ 主義・信条」と訳される。白洲次郎はそれを「筋(すじ)」とも訳した。
白洲の妻・正子は白洲がいつもプリンシプルについて言及するので、聞き飽きるほどだったと後に懐述している。
白洲次郎の一次資料は非常に少なく、実筆を集めた書籍も「プリンシプルのない日本」の一冊しか現存していない。
白洲はこの書籍に集約された文章の中でも、何度も日本人が「プリンシプル」を持つことの重要性を説く。
彼は日本人の能力を信じ、自らの技術を活かすことで日本を敗戦から立ち上がらせる、という確固たるプリンシプルを持っていたからこそ、英語を母語とするアメリカ軍人へ真っ向から反論することが出来たのである。
白洲はその後のサンフランシスコ講和条約では、講和条約にあたり演説を行う吉田茂総理大臣が英語で話すことに真っ向から反対し、日本語で演説させ、日本の戦後を世界に印象付けたりもした。
言葉は手段(技術)であることを理解していたからこその判断と言えよう。
理念と技術の両立が揺るぎない自信を作る
白洲次郎の言うプリンシプルを企業に当てはめると「企業理念」がそれにあたる。
技術の革新はもちろん重要な事だが、何のためにそれを行うか「企業理念」として共有する企業は更に強い。
世の中の潮流が主義なき功利主義に向かっている中で、主義主張を通すだけで商売ができるほど世の中は甘くない。
しかし白洲次郎が多くの人に対して魅力的であったように、主義主張を体現する手段として実業を行う企業は人を魅了する。
主義主張を持つ費用はタダでお金がかからない。ぜひこの機会に自社の企業理念を振り返ってみてはいかがだろうか?