新規事業を立ち上げる時や起業時に、「こんな商品を開発したけど、どこか販路はないですか?」という方がたまにいらっしゃいます。もし、商品やサービスを作ったは良いものの、思ったように売れないなら、「快楽と痛みの法則」を振り返るのが懸命かもしれません。人間は常に「快楽」を求め、「苦痛」を避けようとしており、これを解決することがビジネスです。
水売りから始まって一大財閥を作り上げた青年
明治初期のある頃、富山から東京へ裸一貫で飛び出してきた青年がいました。
どうしても金儲けをしたいと、足を棒にして東京中を駈けずり回りましたが、儲け話を紹介してくれる人などどこにもいません。
さて、ある日、彼がお茶の水を通りかかった時、彼はふと思いついて宿に帰り、手桶とお盆とギヤマン(ガラス細工)のグラスを5、6個買って戻ってきました。
お茶の水という地名は、将軍に献上した水をここから汲んだことに由来する名前で、明治のはじめ頃はきれいな水がこんこんと湧いていたのです。
その水を手桶に汲んで本郷の湯島切り通しの上に立っていると、大八車に材木、庭石、植木などを積んで通る人工が沢山います。
真夏の暑いときなど、皆、坂を上がってしまったら、かじ棒を下ろして、やれやれと汗を拭いています。
こんなときに冷たい水が飲めたらなと彼らが思っていると、ひゃっこい水、ひゃっこい水と、水を汲んできた青年が水を売り歩いています。
なんでもお茶の水で汲んできた水だというではないですか。水はたちまちのうちに売り切れます。
青年も休まず何遍も水を汲んでは売ります。
青年は、土手の下に行ったら“ただの水”が、坂の上に行ったら“1銭の値打ち”があるという、単純なニーズに気づいていたのです。
この青年こそ、後に日本のセメント王と言われ、一代で浅野財閥を築いた浅野総一郎です。
「快楽を求める欲求」と「苦痛を避ける欲求」ならどちらにニーズがある?
人間の行動は、私たちが思っているほど複雑なものではないと言われています。
フロイトは、人間の心の第一の要素は“イド”だと説きました。
“イド”は、快楽を求め、苦痛を避けようとする人間の傾向を表すもので、この作用を心理学では、「快楽と痛みの法則」と呼んでいます。
つまり、人間は常に「快楽」を求め、「苦痛」を避けようとしています。
浅野総一郎の話は、喉が渇いて堪らないという「苦痛」を避ける欲求に即していたから上手くいったのですね。
では、「快楽」を求める欲求と「苦痛」を避ける欲求のどちらの方が強いのでしょうか?
この間、歯医者に行ったら、ホワイトニングという歯を白くする方法があるのを知りました。
若い女性にとって真っ白な歯になることは、自らの美を高め異性に対して魅力をアピールするうえでもプラスの要素となるようです。
だから、ホワイトニングは「快楽」を求める欲求ということになりますね。
一方、虫歯が痛くて痛くて…すぐにでも直して欲しい。こんな欲求は、文字通り「苦痛」を避ける欲求です。
この例を考えれば、すぐに分かりますね。
「苦痛」を避ける欲求の方が、「快楽」を求める欲求の方が強いのです。
商品作ったけど販路が無いなら基本に立ち返れ
新規事業を立ち上げる時、起業時の経営相談を行っていると、「こんな商品を開発したけど、どこか販路はないですか?」という方とよくお会いします。
しかし、「快楽と痛みの法則」を踏まえると、販路開拓の前にもっと基本的なことを考えることの必要性に気付かされます。
それは、ビジネスとは何か?ということです。
なぜ、お客様は私たちにお金を支払うのか?
それは、提供された商品やサービスによって、自分たちの抱えている課題や悩みが解消したから、自分たちのニーズが満たされたからです。
もし新しいビジネスを始めるならば、お客様が困っていること、悩んでいることを必ずリストアップしてみましょう。
10個以内のリストアップでは不十分で、最低50個以上あげてください。
今度は、こうすれば、もっとお客様の悩んでいることが解決するだろう、ということをリストアップしてください。
困っていることや悩んでいることほど、多くリストアップできないかも知れません。
でも、一生懸命考えてくださいね。
「困っていること、悩んでいることのリストアップ=満足度が高まることのリストアップ」となるからです。
もちろん自分自身で考えると共に、想定しているターゲット層の何人かにインタビューしてみることも必要です。
お客様は商品やサービスを購入したのではなく、自分たちの課題や悩みの解消、ニーズの充足を購入しているのだ、ということを念頭に置いておきたいものですね。