製造業や卸売業、それから小売業をやっていらっしゃるような、いわゆる「モノを販売する会社では」、伝票処理が膨大で煩雑になりやすいゆえに、商品の製造・仕入れ・販売の会計処理で、損をしやすい状況となります。そこで本稿は、商品の製造・卸・販売いずれか、もしくはいずれもやっている会社さま向けに、決算書を改善する4つの対策をご紹介します。
モノを販売する会社向け4つの決算書改善対策
先週、「社長、損してOKです!特別損失を出して決算改善ってどういうこと?」という記事で、決算書の内容をよくする方法についてご紹介しました。
今日は、製造業や卸売業、それから小売業をやっていらっしゃるような、いわゆる「モノを販売する会社さま」向けに、決算書の内容を改善する対策をご紹介しようと思います。
税理士の方でも、あまりやらない(ケアしていない)ことが多いので、もしご自分の会社が「これやっていないわ〜」という対策があれば、ぜひこの機会にやってみませんか??
対策1:サンプル原価は売上原価から外そう
さて、モノを販売される会社さまは、大抵商品のうち、一定の割合を消費者へのPR活動や商談会の試供に使用していることでしょう。
たとえば化粧品の会社さんであれば、新製品をサンプルとして消費者の方に配られますし、食品メーカーさんならスーパーマーケットの試食に一定の割合で商品を提供されるのでは?
このように販促活動を行う際は、会社さん側が意図して、サンプル使用した商品と販売した商品を区別しない限り、そのサンプル品も仕入れ(売上原価)として計上され、粗利益(売上総利益)が実態よりも悪くなるという現象が起きます。
売上原価とは、あくまで売れたものの原価の金額ですので、売れてないものが売上原価になってしまうと、その分粗利益が悪くなってしまうわけです。
どのように行うか?
では、どうすればよいかという話ですが、商品をどのような用途で使ったかは、決算書を作成する税理士には把握できません。
従って、会社さまで
- 何を
- いくつ
- いくら
- 何につかったのか
を把握して、税理士事務所にお伝えいただく必要があります。
そうすると、税理士は販売以外で利用した商品の金額を、売上原価ではなく「販売費及び一般管理費」で処理します。
ちなみに、このような処理をするか否かは、本来なら税理士事務所からお聞きすればよいのですが、おそらく聞いてくれない方が多数だろうと思います。
これらの仕訳処理を聞いてくれる税理士さんもいらっしゃいますし、私もお聞きするよう努めていますが、大量に商品をサンプルで消費しているなら、会社さまの側からヒアリングするのが得策かもしれません。
どんな効果があるのか
では、販売した商品とサンプルやPRに利用した商品を違う項目で処理することには、どんなメリットがあるのでしょうか?
商品の中に、見本品や消耗品として使ったものがそれなりにある会社さんで、今までに商品とこれらを分けたことがない場合、実態よりも粗利益は悪くなっているはずでしょう。
従って、特に経営努力をすることなく、
- 粗利益率が改善する
- 実態に合った正しい粗利益率が計算できるため、経営判断の役に立つ
という効果が得られます。
経営は何よりもまず「現状を正しく認識すること」が大切ですよね。
対策2:商品がなくなった場合や廃棄した場合は売上原価からはずそう
商品がなくなってしまったり、腐ったり壊れたりして捨てたような場合には、その分の売上原価を、
- 販売費及び一般管理費
- 特別損失
などに計上することができます。
どのようなケースでこの処理ができるかは、 「社長、損してOKです!特別損失を出して決算改善ってどういうこと?」の中でご紹介してますので、ぜひ御覧ください!
対策3:仕入れの値引き・割戻し・返品は仕入原価に反映させる
商品を大量に仕入れた場合、仕入先から値引きや割戻しを受けることがありますよね。
また、商品に瑕疵があった場合など、商品を仕入先に返品して、お金を返してもらうこともあります。
この時のお金をどう処理するかで、決算書が良くなることがあります。
どのように処理すれば良いの?
値引き・割戻し・返品があり、別途お金が入金される場合、その値引き等の金額が、他の仕入れと相殺されることもよくありますが、そのときは会計処理として特に気にする必要はありません。
これは税理士事務所にもよりますが、まれに入金された金額をそのまま「雑収入」などで計上しまう税理士さんもいるのです。
この処理は間違いで、本当は「仕入れ(売上原価)の金額をマイナスする」のが正しい処理となります。
勘定科目は「仕入高」をそのままマイナスしても大丈夫ですし、「仕入値引」など別の勘定科目を使っておいて、決算のときに「仕入高」と「仕入値引」をぶつけるような処理をしても大丈夫です。
仕入れ金額をマイナスすると何が変わるのか?
入金された金額を雑収入に含めるのと、仕入れ(売上原価)の金額をマイナスするのでは、
- 雑収入:営業外収益が増える
- 仕入れのマイナス:売上原価が減る
という違いが生じます。
雑収入に、値引き・割戻し・返品の金額を含めてしまうと「粗利益(売上総利益)」と「営業利益」が実態よりも悪くなってしまう、ということが起きてしまいます。(ちなみに経常利益は変わりません)
しかし、営業利益が悪くなってしまうのは、金融機関などが決算書を評価する上で大きなマイナスとなってしまいます。
該当する会社さんがいらっしゃったら、今すぐに見直すことをおすすめします。
ただし、似たようなものとして、本来の支払日より早く支払った場合に受けられる「仕入割引」というものもあります。
これはほとんど利息のようなものと考えられているため、この「仕入割引」だけは営業外収益となります。ご注意を。
対策4:売上割引は営業外費用に入れてしまう
対策3では「仕入れ」について説明しましたが、逆に販売先に対して、大量に買ってもらうなどして値引きや割戻しを行うこともあります。
これは残念ながら「売上高」からマイナスする処理をしなければなりませんが、やはり仕入れと同様、本来の入金日より早く入金してもらった場合に「売上割引」を支払うこともあります。
この「売上割引」は、ほとんど利息のようなものと考えられているため「営業外費用」となります。
営業外費用にする効果
この「売上割引」も誤って売上高からマイナスしてしまうと、仕入れのときと同じ結果ですが「粗利益(売上総利益)」と「営業利益」が実態よりも悪くなってしまいます。(こちらも経常利益は変わりません)
なので、もし該当する会社さんがいらっしゃったら、顧問税理士さんに売上割引の処理を確認してみましょう。
消費税に注意
なお、以下はおまけとなりますが、利息と同じようなものとは言っても、
- 利息:消費税がかからない
- 売上割引:消費税がかかる(消費税がマイナスできる)
という違いがあります。
売上割引は納付する消費税を減らせますので、処理にはくれぐれも気をつけましょう。
まとめ:対策を打つことの最大の効果とは?
以上、製造業や卸売業、それから小売業をやっていらっしゃるような、いわゆる「モノを販売する会社さま」向けに、決算書の内容をよくする方法をお伝えいたしました。
もう一度振り返ると、
- 対策1:サンプル原価を売上原価から外そう
- 対策2:商品がなくなった場合や廃棄した場合は売上原価からはずそう
- 対策3:仕入れの値引き・割戻し・返品は仕入原価に反映させる
- 対策4:売上割引は営業外費用に入れてしまう
という4つの決算書対策です。
銀行が格付けをするときは基本的に「営業利益」「経常利益」を使いますので、今回の対策を打っても、格付けが劇的に改善するわけではありません。
しかし、粗利益率がよくなることで、
- 担当者から見た評価は高くなる
- 正しく売上原価が計算できる
といった形で経営に対するプラスの効果がありますから、ぜひ一度会計処理の方法を見直してみてはいかがでしょうか?
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