ペプシコーラは、コカ・コーラとペプシコーラのブラインドテストを過去に行ったことがあります。いわゆるペプシチャレンジです。品質面で選ばれたのはペプシにも関わらず、ブランドラベルを見せた後、消費者はどんな反応を見せたのか?その時、脳でどんなことが起こっていたのか?ブランド力が如何に人の選択を左右するかを理解することができます。
ペプシチャレンジで争われたコーラ2社の品質
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
先日の記事では、ストラディバリウスを含む新旧のバイオリンの名器について「ブラインドテスト」を行った結果をご紹介しました。
「ブラインドテスト」とは、同じカテゴリーに属するライバル商品について、それぞれどこのメーカーのものなのかをわからないようにして比較してもらい、その優劣や好みの度合いを評価してもらうものでした。
今回は、より身近な商品「コーラ」のブラインドテストに関連した、興味深い検証結果と、そこから学べることをご紹介したいと思います。
読者の皆さんは、「ペプシチャレンジ」をご存知でしょうか?
これは、米国では1970年代、日本では1980年代に実施された「飲み比べキャンペーン」です。40代以上の方であれば「ああ、そういえばそんなTVマーシャルやってたな!」と思い出す方もいらっしゃることでしょう。
ペプシチャレンジは、一般消費者を対象に、ペプシコーラともう一つ別のコーラ(もちろん、「コカ・コーラ」でしたが)をブランド名称を隠した形で飲み比べしてもらい、どちらが好きかを言ってもらうものでした。
その結果、当テストに参加した方の多くが「ペプシコーラ」を選びました。自称「コカ・コーラ愛好家」でさえ「ペプシのほうが好き」と答えた方が多かったのです。
ペプシではなくコカ・コーラが選ばれてたワケ
ペプシキャンペーンのおかげで、当時、ペプシの売り上げは大きく伸びましたが、そもそもなぜ「ペプシチャレンジ」が行われたのでしょうか。
それは、純粋な味の評価ではペプシに軍配が上がるにも関わらず、「ペプシコーラかコカ・コーラのどちらを選ぶか」とブランド名称が示された場合には、多くの人が「コカ・コーラ」を選んでしまうという現実があったからです。
これは「ペプシパラドクス」として知られています。
ペプシの人に言わせると、「味はペプシのほうが好きなんですよね?なのに、なぜコカ・コーラを選ぶのですか。矛盾してませんか?」というわけです。
消費者としては、このように聞かれても、おそらく明確な回答はできないでしょう。なんとなく「コカ・コーラ」を選んでしまう。それだけです。
しかし、近年の脳科学の進展により、ペプシパラドックスが生じる要因が明らかになっています。
米・ベイラー医科大学のモンタギュー博士らが行った脳科学の実験によれば、ペプシコーラ、コカ・コーラのどちらを飲んでも、被験者の脳内の「腹側被殻」と呼ばれる部位が反応していました。
腹側被殻とは「満足感」に関わる部位です。わかりやすく言うと、「おいしいなあ」と感じていたということです。
しかし、コカ・コーラの場合はちょっと違いがありました。
それは、「腹側被殻」だけでなく、「内側前頭前皮質」も同時に反応していたことです。
「内側前頭前皮質」は、複雑な評価や思考、イメージを司る部位です。これは、コカ・コーラを人が飲むとき、コカ・コーラに関わる様々な記憶やイメージが呼び起されているということを意味します。
米国だけでなく、多くの国においてコカ・コーラが本家本元。
「コーラといえばコカ・コーラ」という評価が強いでしょう。また米国においては文化との強い結びつきもあります。こうした記憶やイメージが最終的な好き嫌いに、大きな影響を与えていたのです。
品質が良くてブランド力がない日本企業の製品
今回の例であげたように、私たちは、コーラの品質だけで好き嫌いを決めていないということが、脳科学から明らかになっています。
すなわちコカ・コーラには、「味」という品質を超えた「プラスアルファの価値」があると言えるでしょう。
これが「ブランド価値」です。ストラディバリウスに対する評価が高いのも、おそらく同じ理由でしょう。
残念ながら、日本企業の製品は品質という点では優れている一方、ブランド力では他国の製品に負けている場合が多いという現実があります。
ですから、前回の記事同様、改めて強調したいのは、品質だけでなく、ブランド力を高めることにもぜひ注力していただきたいのです。
Photo credit: matsudon,giraffe via VisualHunt / CC BY-SA