必見!カンパニー制のメリット・デメリットや導入する際のポイント

経営

ビジネスモデルが多様化している現代において、各企業では様々な取り組みがされています。

今回ご紹介するのは、カンパニー制という経営手法についてです。カンパニー制は近頃注目を集めている組織形態のひとつです。この記事では、カンパニー制の概要から、メリット・デメリット、導入する際のポイントについて解説していきます。

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カンパニー制とは

カンパニー制の意味

カンパニー制とは複数の事業を展開している企業が、それぞれの事業を独立した会社として扱う制度のことを指します。

具体的には経営資源(人材・物資・財源)と意思決定の権限委譲をおこない、それぞれの事業が責任を持って経営をします。

社内でありつつも事業の独立性を重視し、経営の権限を持っている組織を「社内カンパニー制」と呼びます。

またカンパニー制の場合、法的には同一の会社なので資本金や借入金などの資金調達は会計上、社内計上として処理されます。しかし実際現場では別会社として扱われるため、資金の使い道や借入、人事などの決定権はそれぞれの事業に完全に委譲します。

カンパニー制が注目される理由

なぜカンパニー制が注目されているのでしょうか?

それはカンパニー制が多様化する顧客ニーズに応えることが可能だからです。

従来日本は「高品質で低価格」というビジネスモデルが一般的で、少ない種類の商品を大量生産する事業を中心に、拡大し成長してきました。

しかし「モノ」を大量に消費する時代から、顧客は経験などの「コト」を求める機会が多くなりました。世間の価値観が大きく変わったのです。

価値のある「コト」を提供するというのは「モノ」を生産するよりも非常に複雑です。

それは顧客の価値観がそれぞれ違い、顧客の数だけニーズが存在するというのは想像に難くないと思います。

そこで企業は様々な対策を考えました。具体的には今回ご紹介するカンパニー制、事業部制、持株会社制(純粋持株会社)などが挙げられます。これらの中から、自社の事業形態や経営方針に適した制度を採用することで、より良い形でサービスを顧客に提供できるようになったのです。

事業部制との違い

法律上ではカンパニー制も事業部制も同一企業内という共通点があります。また事業部制でもある程度の権限移譲が行われています。

カンパニー制と事業部制の大きな違いとして事業部制は、カンパニー制のような独立型ではないということです。

事業部制の場合、上の経営陣が意思決定や意思疎通を常に行えるということがメリットとしてあります。ある程度の権限は事業部に譲渡しますが、大きな意思決定は本社で行いそれを事業に伝達します。このようにすることで企業として一貫したビジネスモデルの構築が可能になります。またそれぞれの事業がどう言った進捗なのか把握することも容易です。

しかし、独立型でないということは本社の承認が常に必要ということを意味します。重要な経営や人事に関する意思決定の判断が必要な場合において、その都度本社に確認を取る作業は非常に手間がかかります。事業部制はすぐに意思決定して行動に移したいと考えても難しい場合が多いです。

ですのでカンパニー制と比較すると、業務全体の進むスピードが遅くなるというデメリットがあります。

持株会社制(ホールディングカンパニー)との違い

先ほども軽く触れましたがカンパニー制と似た組織形態として、持株会社制(純粋持株会社)という制度があります。(ホールディングカンパニーとも呼ばれます。)

ホールディングスを作る5つのメリットと3つのデメリット
 ホールディングスとは、日本名でいうところの持ち株会社で、グループ会社の株式をホールド(Hold=保有、保持)するところから名付けられています。1997年の独占禁止法改訂により、持株会社を作ることが解禁されて以降、ホールディングスは増え続けていますが、そのメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。

持株会社制とは、自社は経済活動を行なわず、投資目的でない傘下企業や事業を支配する本部を中心に構えて、運営する組織形態のことを指します。

上記の説明だと少し難しいですが、イメージしやすいように簡単にいうと「他の会社の株を保有して、事業のオーナーとして経営をする」ということです。

1997年に改正された独占禁止法が改正されたことによって、可能となった組織形態でもあります。

持株会社制もカンパニー制と同様に、独立した複数の企業や事業から成り立ち、経営の意思決定から人事権などの権限を譲渡して、運営を任せる方針です。

また、最近では事業部制からカンパニー制に移行する企業が多いように、カンパニー制から持株会社制へと移行させる傾向も活発になっています。

その理由としてあげられるのは、持株会社制はカンパニー制よりも、M&A(企業の合併や買収)による法的手続きや、社内の権限の移譲の手続きがカンパニー制よりも容易であるという点です。

また組織を統合する際のコストが軽減されやすいメリットもあります。

将来的に持株会社制へと移行する前段階の準備としてカンパニー制を採用する企業も増えてきています。
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カンパニー制のメリット

ビジネスのスピードが上がる

冒頭にも説明したようにカンパニー制は、経営資源を事業部門に最適に分配し、責任者に経営の意思決定や人事権などの権限を譲渡します。そのため、経営において意思決定からの行動を早めることが可能になり、顧客のニーズが多様化する現代の市場において力を発揮します。

様々なサービスが登場しては消えるような、移り変わりの早い現代においてカンパニー制は迅速に経営を進めることができるという点で魅力的なのではないでしょうか。

また、カンパニー制は事業ごとに事業戦略を立て実行することが可能です。

カンパニーという小さい空間だからこそ「自分の業績がそのまま利益に直結する」と従業員に認識させやすいのもカンパニー制の特徴です。その結果、カンパニーを任された責任者や従業員は責任感を持ち、利益を追求しようとするので業績が伸びていくことが期待できます。

企業内競争力の強化

カンパニー制の場合、企業内でそれぞれの事業の責任者が存在します。同一の会社とはいえ、責任者は別の事業に負けたくないという競争原理が働きます。

企業内でありつつ別会社という意識を持たせ競争させることで、新しいアイデアやサービスの質の向上、利益率の上昇など多くの効果が期待できるでしょう。

ビジネスの意識を高める

カンパニー制は、ROE(株主資本)を経営資源として各会社は事業を運営していきます。結果として、事業の責任者から従業員まで株主を意識した業務への取り組みが期待できるでしょう。このように株主を意識させることで、「自分は株主の大切なお金を預かって働いている」という資本金の重要性を理解させることができます。

さらに業績悪化による対処なども迅速に行なえるため、経営資源を効率的に運用できるというメリットがあります。

次世代リーダーの育成が可能

カンパニー制を導入することで、次世代リーダーの育成にも効果が期待されます。従来の事業部制では組織された責任者のみが、業務の意思決定や人事権などの権限を有しており、リーダーとして育成するのが一般的でした。

しかし、カンパニー制は事業ごとの責任を明確化することが可能なので、事業部長のみならず従業員にも経営の一員として自覚を持つように促します。その結果、視野を広げて普段の業務に取り組むようになるなど、リーダーとして必要な要素を鍛えることができるのです。

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カンパニー制のデメリット

企業統治が困難

カンパニー制は独立性を高めることで、ビジネスのスピードを加速させることが可能です。その結果、市場の変化などに柔軟かつ迅速に対応することがメリットです。しかしその一方で、責任はすべてカンパニーに生じるので結果至上主義に陥りやすいというデメリットもあります。これは情報伝達がうまく機能しなくなり、企業の統治を困難にさせる恐れがあります。

例えばですが、業界の縮小の影響で赤字になってしまった事業部があったとします。カンパニー制は担当する事業に関してはすべて自分の責任であるので、上層部から業績悪化を責められるかもしれません。

そうなると事業部の責任者は、

「うちの事業部は今期業績が悪いな…このままだと責任者から外されて給料も下がるかもしれない。仕方がないから他の事業部には嘘の情報でごまかそう。」

と考える可能性もでてきます。

このように情報の隠匿や、粉飾決算などの不正会計にもつながりやすいのがカンパニー制のデメリットです。これらは重大な違反行為なので、株主からの信頼を失い、さらに業績が悪化して経営破綻に陥る可能性もあります。

カンパニー制を導入する際は、情報の伝達など企業統治を徹底的に実施する必要があります。 

カンパニー間の交流の希薄化

カンパニー制の場合、それぞれの事業が独立しているため事業同士で連携をとることは非常に少なくなります。他部門との交流が少なくなるということは、情報交換や新技術の共有などの機会も減るということです。

この場合、カンパニーという閉鎖的な空間でのみ業務が進められるので、新しい価値あるサービス開発のためのアイデアや、他部門から刺激を受けて成長する機会というのは得られにくくなるでしょう。

またカンパニーに経営を任せているので本社との交流も減少します。このことでカンパニーの進捗状況を把握しづらくなるというデメリットがあります。

事業の重複によるコストの増加

カンパニー制は、それぞれを別の会社として扱うためそれに伴うコストが増加してしまう傾向があります。会社の設備を事業部の数だけ用意する必要が出てくることもあるでしょう。事業部制ならかからない不要なコストが、カンパニー制だと必要になるのです。

そのためカンパニー制で経営を圧迫しないために、アウトソーシングサービスなどを活用した、コスト削減に努める必要があります。

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カンパニー制を導入する際のポイント

目標を明確にする

カンパニー制は事業部門をそれぞれ独立させ、成長させるための経営手法です。その目的はカンパニー間での競争力の強化、柔軟かつ迅速な意思決定、企業全体の売り上げや利益の向上などです。そのため、カンパニー制を導入する際は独立の対象となる事業部門の目標を明確化する必要があります。

事前に具体的な事業ごとの営業利益の数値や売り上げ、人材の育成などに関して目標を明確に決めておきましょう。また顧客の満足度(リピート率など)の目標も数値で立てるとより効果的なのではないでしょうか。

目標を明確化することで、経営戦略としてカンパニー制導入のメリットの恩恵を受けられます。

監視機能の強化

分社化された事業部門において監査役や社外取締役、会計監査人が協力し、監視機能を強化しなければいけません。取締役会で監督機能を果たしているか確認することで不正防止につながります。

分社化された事業部門は投資権や人事権を決定する強力な権限の行使が認められています。さらに会計上も完全な独立した事業体として扱われます。そのため、本部からはカンパニーごとの経営資源の把握などが困難なのです。また、カンパニー制は成果主義を前提とした高い目標設定を行う傾向が強いです。そのため粉飾決算や虚偽報告などの不正会計を引き起こす可能性があります。

ですので各カンパニーの管理や不正防止のために監督機能の強化に努める必要があります。

シナジー効果が失われる可能性を理解

事業部制では事業部間の情報交換や交流機会が多くありますが、カンパニー制は他事業との交流が減少する傾向があります。そのため、事業部間のシナジー効果(相乗効果)を失うことになり、新しいアイデアやイノベーションが生まれにくい環境になります。このように失われるシナジー効果の影響理解した上でカンパニー制の導入を検討しなければいけません。

またカンパニー制を導入しているにも関わらず、カンパニー同士のシナジー効果を期待している企業が多いです。しかしカンパニー制はこれまで説明したように、シナジー効果を生み出すという点で考えると得策ではありません。たしかにカンパニー制によるメリットとシナジー効果を両方望む気持ちはわかりますが、組織形態にはそれぞれウィークポイントがあります。カンパニー制の場合、シナジー効果を得るには不向きということです。

この事実を受け入れた上でカンパニー制の導入を検討しましょう。

企業価値の最大化

分社化したそれぞれの事業部門の独立性を確立するし、各会社の個別事業価値を高めることで、企業全体の価値の最大化を目指せるというのがカンパニー制のメリットです。

しかし分社化したカンパニーが大きくなればなるほど、本部の監督機能は低下していきます。その結果、企業価値の最大化に影響を及ぼします。

そのため、本部がカンパニーに対して行なう、企業またはグループ全体として大切な経営資源の提供・経営ノウハウなどを的確に伝授するといったカンパニー自体の育成が重要となってきます。

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企業のカンパニー制導入事例

楽天株式会社

大手通販サイトで有名な楽天株式会社は、顧客満足度の最大化を図るため社内カンパニー制の導入を発表しました。

60以上のビジネスを13のカンパニーに集約することで、ユーザーの視点に基づき、高品質で迅速なサービスの提供を可能にしています。

さらにカンパニー制のデメリットをしっかり考慮し、カンパニー制導入後もグループ横断的な組織を継続しており組織の連携力を高めているのも素晴らしい点です。

トヨタ自動車株式会社 

日本を代表するトヨタ自動車株式会社も、カンパニー制を新体制として導入した企業の一例です。カンパニーは7つに分社化され、それぞれに独立権限を持たせています。「もっといいクルマ作り」や「人材育成」を中心として、意思決定の迅速化、将来を見据えた中長期ビジョン・経緯戦略策定機能を目的としたトヨタはカンパニー制を導入しました。

その結果、自動車の生産台数は年々上昇し、企業は急成長を遂げています。

これぞカンパニー制導入の成功事例として見習うべきではないでしょうか。

ソニー株式会社

1994年、日本で初めてカンパニー制を導入した企業がこのソニーです。当時の社長の大賀典雄氏は「株主の目線で経営をチェックする」という方針でカンパニー制の導入に至りました。

赤字になった対策としてカンパニー制を導入したと考えられますが、カンパニー制によって経営を持ち直しました。

また次期社長の出井氏に変わり、修正を加えさらに良い第2のカンパニー制を実現させることに成功。業績は右肩上がりで、1997年には過去最高の業績を達成しました。

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まとめ

ここまでカンパニー制について解説してきましたが、理解していただけたでしょうか?

カンパニー制は独立性を高め、市場の急激な変化にも柔軟かつ迅速に対応することができる優秀な組織体制です。

しかし独立しているが故に起こる、不正会計や虚偽報告、失われるシナジー効果などのデメリットもしっかり理解しましょう。デメリットを理解しておけば導入した後も、カンパニー制をうまく利用できるのではないでしょうか。

楽天やトヨタといった世界的に有名な企業も採用しているカンパニー制。メリットを感じるようでしたら導入を検討してみることをおすすめします。

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