人が一見不合理かつ非論理的な消費行動を選択する例の1つに、ディズニーランドでの乗り物待ち時間が挙げられます。ディズニーランドはピークエンドの法則を応用し、乗り物のフィナーレを鮮烈で印象深いものとすることで、顧客に満足感を与えてリピーターとしています。ビジネスの様々な場面でピークエンドの法則を思い出すことは賢明です。
ディズニーランドの乗り物待ち時間は不合理
我々はビジネスの現場で、一見不合理かつ非論理的な消費行動を選択する消費者をよく目にします。
最たる例としてあげられるのが、ディズニーランドでの乗り物待ちに時間を費やすことです。
普段、電車が止まって駅の構内で10分程度待たされることにすらイライラするにも関わらず、ディズニーランドでは3時間の乗り物待ち時間に耐えて整然と待つことができます。
特に女性にその傾向が顕著に現れるのを、多くの男性は目にしてきたことでしょう。
彼女たちは文句も言わずファストパスチケットを入手し、待ち時間を有効に使いおみやげを買うなど、ディズニーランドへ更なるお金を落としてくれます。
ディズニーランドのリピート率は、実に90%を超えます。
ディズニーが応用するピークエンドの法則
なぜディズニーランドに行くと多くの女性は、乗り物3時間待ち・乗車体験5分という不合理で非論理的な行動を選択するのでしょうか?
しかも極端な場合に彼女達は、もう一回並んででも同じジェットコースターに乗ろうとします。
彼女たちにそう感じさせるためにディズニーランドが行う仕掛けの1つが、ジェットコースターのフィナーレを鮮烈で印象深いものとすることです。
例えばスプラッシュ・マウンテンに乗車すると、最初はのらりくらりと「うさぎどん(ブレアラビット)が知恵で、きつねどん(ブレアフォックス)とくまどん(ブレアベアー)をやっつけ、笑いの国を見つける」というストーリーを、映像と機械仕掛けの人形による活劇で見せながら、ジェットコースターは進んでいきます。
話の状況はどんどん悪くなって行き、うさぎどんはピンチに立たされ、ついには滝壺に向かってジェットコースターが真っ逆さまに落ちていきます。
恐怖のどん底に落ちて終わりとおもいきや、ここで一番華々しく幸せなシーンをディズニーランドは用意します。
ハッピーなうさぎどんが、今までで一番賑やかな「笑いの国」で楽しそうに踊っている場面をくぐって、ジェットコースターは終着するのです。
このフィナーレは行動経済学の法則として紹介される「ピークエンドの法則」を応用した、ディズニーの巧みな戦略のアウトプットと言えます。
ピーク・エンドの法則(英語:peak–end rule)とは、「人間はあらゆる過去の経験の良し悪しを、ほぼ完全にピーク時と終了時の感情がどうだったかで決める」という法則で、アメリカの心理学者・行動経済学者であるダニエル・カーネマンによって発表されました。
ジェットコースターが終着した後、横に座っている女性達がどんな顔をしているかといえば、大抵の場合は満面の笑みとなっていることでしょう。
彼女たちは「しぶきがかかったぁ〜」「落ちるの怖かったぁ〜」「最後の場面凄く楽しかったね」と思いおもいに、ピークとエンドについてしか話をしないはずです。
並ぶのに費やした不合理かつ非論理的な時間など、彼女たちの記憶にはありません。
まさに日本の諺が伝える「終わり良ければ全て良し」という体験をディズニーランドは彼女たちに提供し、満足を勝ち取っているのです。
終わりの感動は顧客を愛することで生まれる
「人は不合理で、非論理的で、利己的です。気にすることなく、人を愛しなさい。」
マザー・テレサが伝えたこの格言は、人間の取る行動の本質と、それにどうビジネスで対応すればよいかを的確に教えてくれます。
「提案→交渉→入金・販売→消費」という手順を通じて、多くの商品は消費されていきます。
販売に至るまでのテクニックがどんなに優れていようと、顧客や消費者が最終の「消費」段階で満足しなければ、彼らは二度とリピーターになってくれることはありません。
一度や二度は帰ってきてくれるかもしれませんが、最後には騙されたと思い「合理的な判断」の元、商品を購入してくれなくなるでしょう。
対して販売に至るまでの過程で紆余曲折があったとしても、顧客や消費者が「消費」段階つまりピークとフィナーレで200%の満足度や感動を味わえば、彼らは不合理で非論理的であったとしても、リピーターとして何回でも帰ってきてくれるようになります。
ではどうすれば「消費」段階で満足できる商品を提供できるようになるのでしょうか?
その答えは先程のマザー・テレサの文章内にあります。
「気にすることなく、人を愛しなさい。」
まずは顧客・消費者を愛し、彼らが求めているものについて熱心に考えることから、フィナーレで感動を与える商品は生まれていきます。