アサヒビールが、青島ビールの売却を検討していると報道されています。
長い協業期間を経て深い関係にある青島ビールを売却する理由は、欧州市場への積極展開が第一義にあると言われてます。
一方で、財務諸表を見るともう一つ「売却せざるを得ない理由」が見つかります。
これをきちんと経営陣が理解し、迅速に売却判断を下した点は、良い撤退のお手本と言えます。
アサヒビールが売却先未定で異例の青島ビール売却を表明
アサヒビールが、現時点で全体の20%程度の株を保有する、青島(チンタオ)ビールの売却を検討していることを発表しました。
プレスリリースの詳細を見ると、「売却先については今後決定します。」と述べるに留まり、交渉相手はいるであろうが、まだ具体的に決まっていないようです。
参考リンク:持分法適用関連会社の株式譲渡検討開始に関するお知らせ:アサヒグループホールディングス株式会社
今回のように大手企業が、何も具体的な話がまとまってない中で事業売却を発表するのは異例の出来事です。
今年1月のブルームバーグの記事では、すでにアドバイザーとしてモルガン・スタンレーを起用するといったリーク記事もあるため、実際には相手先も絞れている状況なのかもしれません。
だとしても、早期の声明発表は異例です。
青島ビールを売却する理由は、欧州への積極展開以外にもう一つある
青島ビールといえば巨大中国市場でビールシェアNO1であり、戦前の大日本麦酒の時代まで遡るとアサヒビールとの関係は100年近くあります。
これまで青島ビール自ら、米国企業を始めとした他社との協業を進めたこともありますが、最後はアサヒビールとくっつくということを、ここ数十年やってきました。
それほど関係の深い青島ビールの株式を、アサヒビールはなぜ今の段階で手放すことにしたのでしょうか?
その目的について報道各社の記事は「欧州事業に注力」としていますが、私はアサヒビールの直近の決算短信を見て、もう一つ“手放さざるを得ない要因”があると見ています。
というのも、アサヒビールはここ1年で、イタリアの「ペローニ」など4つのビール会社買収に3,000億円、東欧5カ国のビール事業買収に8,000億円を超える資金を使っており、この1年間で有利子負債が1兆円ほど増えています。
参考リンク:平成29年12月期 第2四半期決算短信:アサヒグループホールディングス株式会社
対して、純資産は7,000億円強です。
このように有利子負債が増えた1兆円相当はのれんが占めており、財務基盤がかなり厳しくなっています。
純資産が1兆円ない会社で、有利子負債が1兆円増えるだけでもかなりの負担ですが、買収した企業の業績がもし予定どおりいかないとなると1兆円ののれんの価値が毀損するわけです。
サンクコストを振り切る姿は良い撤退のお手本
これらを踏まえると、アサヒビールによる青島ビールの売却表明は、最悪の事態に備え、財務基盤を整備するためにも価値のある資産を売却している、というのが実状なのではないでしょうか。
問題が顕在化する前にこのような準備ができていることは、非常によいことです。
これまで青島ビールと長い協業期間を元に得たノウハウなどはサンクコストとなる可能性もありますが、同社が巨大中国市場のNO1メーカーである以上、今なら買いたい相手も少なくはないはずです。
現経営陣は、サンクコストがあろうとも明確な優先順位の元に売却を決断し、社の活路を拓くための方針を強く示し、最悪の事態を踏まえながらチャレンジすることを決めたのでしょう。
現時点では、「さすがアサヒビール」という評価をしてよいと思います。
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