「お前は橋の下で拾った子供だからか、本当に言うことを聴かない!」ほとんどの場合、この捨て台詞は親の冗談ですが、相続手続きの中では、出生した子を実の親の戸籍ではなく、別の人の戸籍に 「直接」その人の実子として届け出られる「藁(ワラ)の上からの養子」問題として知られています。トラブルが起こる理由、トラブルを未然に防ぐ方法についてご説明します。
橋の下で拾った子供だから…がマジになる「藁(ワラ)の上からの養子」の相続問題
子供の頃に悪さを働いて親から、「お前は橋の下で拾った子供だからか、本当に言うことを聴かない!」と叱られたことはありませんか?
ほとんどの場合、これって冗談なのですが、相続手続きの実務に携わっていると「あれ、マジだったんだ…」という場面に遭遇することがよくあります。
いわゆる、「藁(ワラ)の上からの養子」問題と呼ばれるものです。
「藁の上からの養子」というのは、出生した子を実の親の戸籍ではなく、別の人の戸籍に 「直接」その人の実子として届け出られた状態を言います。
藁を敷き、そこで出産し、そのまま他の夫婦へ養子に出す(実子として届出する)ことから付いた呼び名のようです。
人生にも色々あります。
末娘が結婚していないのに妊娠してしまったので、世間様からの目を気にして末娘の親が実子として届け出る。
子供ができない兄夫婦のために弟夫婦が自分の子を兄夫婦の実子として届け出る。
昔だと、お手伝い(夫のお妾さん)に息子が手を出して、息子がまだ学生なのでその母親が戸籍上は子供として実の孫を育てる、なんてこともありました。
もちろん、これらは虚偽の届出ですし、「養子縁組届として有効に取り扱うこともできない!」と裁判所は判断しています。
ただしこの状態は、相続の場面でややこしい問題をよく引き起こします。
「藁(ワラ)の上からの養子」が相続で問題となるのはなぜか?
たとえば、ある親の娘が妊娠し子供が生まれ、家族(女性)の誰かがその子の母親として出生届を出したとしましょう。
出産した女性の実母の子として届け出れば、母子関係が姉妹・姉弟になりますし、出産した女性の実姉の子として届け出れば、母子関係は叔母姪・叔母甥の関係になってしまいます。
仮に、本人は知っていたとしても、関係者のほとんどが亡くなり、そこに相続される財産があった場合には、戸籍上の相続人になるかならないか、また相続分が大きく違ってくる場合が多々生じます。
戸籍上の親や実の親が自分との間で、兄弟姉妹なのか、親なのか、祖父母なのか、叔父叔母なのか?で財産分与の条件が大きく変わるからです。
通常この問題は裁判で、「親子関係不存在確認」などで争われるのですが、
- 戸籍上の両親と戸籍上の子との間に、実の親子と見れるだけの生活実態があったのか?
- またその期間は長期間か?
などが問われます。
また判決を下すにあたっては、親子関係が不存在だと確定させることが戸籍では子として暮らして来た人へ、どれくらい精神的・経済的不利益を与えてしまうのか、なども検討されることになります。
関係者の協力を得て、また外堀を埋めて行ったDNA鑑定の結果を基に、家庭裁判所で戸籍の訂正を認めてもらえる、といった単純な話になることはほぼありません。
戸籍上の親が存命のうちに戸籍を改めるべき
私の経験では当事者は出生の秘密を知っていた(と関係者が主張する)場合が多いですが、相続に当たって不利となる側は事実を認めたがらない傾向にあります。
親は違うって聞いたかも知れないが・・・ホントかどうかはわからない?
そんなこと知らないよ、今さら証拠なんかないだろ?
こんな具合に、お金が人を変えるのか、それ以外の人間関係の要因があるのか、スンナリと話し合いができるケースの方が珍しいでしょうね。
おまけに繊細な問題なので、墓場まで秘密にして持って行かれる戸籍上の親がいらっしゃるのも、この問題が深刻化することを助長します。
いずれにしても、そういった戸籍上の問題がある場合は、事実を知る戸籍上の親が率先して、ご存命のうちに戸籍を改めておかれるべきです。
遺言書を活用することで、争い(被害)を最小限に抑えることができる場合もありますので、「藁の上からの養子」問題を抱えているなら、まずは未然の争族対策を本当にお勧めします。