地域通貨の魅力とは?ヴェルグルの奇跡に学ぶその存在意義

経済
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法定通貨以外の選択肢〜地域に浸透し始めている地域通貨

近年、ブロックチェーン技術の発達により、地域通貨の導入が各自治体で進んでいる。

地域通貨とは、法定通貨(円やドルなど法律により強制通用力が付与された貨幣)ではないが、ある地域、またはコミュニティ内においてだけ、法定通貨と同じか、または独自の価値を付与されて発行される通貨のことである。

直近の事例をあげると、昨年9月から大阪府ではあべのハルカスや近鉄沿線で使用できる「近鉄ハルカスコイン」が住民向け使用を狙い試験的に導入され、岐阜県の飛騨信用組合もインバウンド需要を狙った「さるぼぼコイン」の実験を同年5月に始めた。

いずれもブロックチェーンの仕組みが活用されている。

また、相模原市の藤野地区では、「萬(よろづ)」という地域通貨で経済だけでなく、人の絆を循環させようとしている。仕組みは住民に通帳を発行して、何かをしてもらった時には「萬」をやってくれた人に与え、何かをしてあげた時には、「萬」をもらえるというものだ。

経済だけではなく、地域住民の縁を回そうとするユニークな取組の下、これに賛同する人々の移住が増えている。

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地域通貨の存在意義を立証するヴェルグルの奇跡

地域通貨の概念は、ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルが著書「自然的経済秩序自由地と自由貨幣による自然的経済秩序」で提唱した「自由貨幣理論」に端を発する。
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ゲゼルは自著で、一定期間で減価するスタンプ貨幣という仕組みを提案した。

スタンプ貨幣とは、一定期間内にスタンプが押された紙幣しか利用できない状況を作り、お金がグルグルと市中で回ることにより、金利の低下を狙う仕組みである。

ただ、ゲゼルは地域通貨には反対であり、金利だけで利益を貪った資産家の存在を問題視してスタンプ貨幣を提唱したのだが、あるオーストラリアの町は世界恐慌の真っ只中にあって、この仕組を地域通貨に転用し地域経済を潤わせた。

1932年、オーストラリアの人口5,000人弱の小さな町ヴェルグルでの出来事だ。

1929年のニューヨーク市場大暴落に始まった世界恐慌は、この当時ヴェルグルをも襲い、町は人口5,000人弱に対して、失業者500人、失業者予備軍1,000人を抱えるまでになった。

このままではまずい、そう思って立ち上がったのが当時の町長ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーである。

彼はゲゼルの自由貨幣理論について詳しい人物であった。

ウンターグッゲンベルガーはまず、地方銀行からオーストリア・シリングを自ら借入れ、「労働証明書」という名前のついた公債に転換し、役所に務める者たちの給与として支払った。

この労働証明書には実は仕掛けがあり、月初に額面の1%に相当するスタンプを貼らないと使えない仕組みとなっていた。

ヴェルグルの労働証明書:The Wörgl Experiment: Austria (1932-1933)

つまり、労働証明書は毎月1%ずつ減価される地域通貨の役割を果たしていたのである。

1年間持ち続けていれば12%減価するわけだから、労働証明書をもらった人は、すぐにこの地域通貨を使える町の中で消費活動に費やした。

ヴェルグルの労働証明書の流通回数は週に8回まで到達し、その流通回数は当時のオーストリア・シリングと比較し10倍を超えた。

結果として、巨額の資金がヴェルグル内だけで流通することになり、ヴェルグルはオーストリアで世界恐慌後に完全雇用を果たした初めての自治体となった。

上下水道も整備され、税金も速やかに支払われたという。

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地域に根づく人にとって地域通貨を使う意義は高まっている

ヴェルグルで起きた活動は後に、「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれるようになったが、オーストリア政府は法定通貨シリングへの影響を恐れ、翌年にはこれを廃止させている。

しかし、ヴェルグルの奇跡を見ていただければわかるように、小さな地域で通貨がグルグルと回ることは、その地域の経済活動に好循環をもたらす。

グルグルと地域通貨が回るほど、信用も高まり、その地域に暮らす住民にとってはスタンダードな価値交換手段となり得る。

もっとも弊害がないわけではない。

たとえば、流通する地域通貨に流動性が無い場合、法定通貨との交換が困難になる可能性がある。

また、地域通貨に減価性がある場合、お金を貯蓄しようとする性向が薄れるのではないか?と危惧する声があるのも事実だ。

ただ、独自の経済圏やコミュニティを作ったほうが、自らのライフスタイルや地域の特性を活かした地域発展を見込めると考える人々にとって、ブロックチェーン技術の進化や国内に置けるインバウンドの増加、ライフスタイルの多様化を追い風に、中央集権的な法定通貨以外の選択肢として、地域通貨を流通させる選択肢の魅力が高まっているのは間違えない。

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