透明衣装ケースで有名なアイリスオーヤマが、ここ数年で家電分野においてもその売上を大きく伸ばしています。大手メーカーのような過剰機能を敢えて外し、「これは欲しい・便利」といった勘所を抑えることで、高品質と低価格を実現。家電分野で独自のポジションを手に入れつつあります。これを支えるのはコンセプトとジャッジの早さ。まさに巧みなマーケティングの勝利です。
アイリスオーヤマ成長のきっかけは透明衣装ケースから
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
今週も、業績好調なメーカーをご紹介しましょう。
読者の皆様も「アイリスオーヤマ」はご存知ですよね?
資本金1億円、従業員数2900人の中堅メーカーながら、消費者の大半が認知しているメーカーでしょう。
おそらく多くの方は、「ああ、ホームセンターに置いてある製品はアイリスオーヤマが多いよね」という反応が返ってくると思います。
さて、アイリスオーヤマの設立年は、家業であった「大山ブロー工業」を1964年に父親から引き継いだ大山健太郎社長(以下、大山社長)が、同社を株式会社化した1971年です。
同社にとって最初の成長のきっかけは、透明の衣装ケースを開発したことでした。
不透明なため、中に何が入っているのかがすぐにわからなかった従来の衣装ケースと異なり、アイリスオーヤマの透明衣装ケースは中のものがすぐに探し出せる利便性で大ヒット。ホームセンターを中心に飛ぶように売れたのでした。
大手を脅かし存在感増すアイリスオーヤマの家電製品
その後も、主にプラスチック製品で数々のヒットを世に出し、過去35年間にわたって平均10%の成長を維持してきたアイリスオーヤマですが、近年存在感が大きくなっているのが「家電」分野。
私の家も気がつくと、大手家電メーカーではなく、アイリスオーヤマ製品がどんどん増えています。
例えば、ふとん乾燥機の「カラリエ」。カラリエは、乾燥マットが要らないのが特徴です。
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ふとん乾燥機はダニ退治に有効ですし、冬季はぽかぽかとあったかい布団に入れるので重宝しますが、なにより「乾燥マット」を出したりしまったりするのが面倒ですね。あれが面倒であまり使わなくなってしまった方もいるのでは・・・
カラリオなら、ホースを布団に入れたらセット完了という手軽さ。乾燥マットよりもひょっとしたら若干乾燥力が劣るのかもしれませんが、利用の手軽さのおかげでこの冬も毎晩カラリオを利用していました。
それ以外にも、フレッシュジュースを作るための「ミキサー」や、「ヨーグルトメーカー」、「加湿器」など、我が家はアイリスオーヤマ製品だらけになってきています。
なぜ同社製品を選ぶのか、一消費者として考えてみると、消費者ニーズを上手に把握した上で、低価格を実現できていることだと言えます。
大手メーカー製品のように過剰な機能はなく、「これは欲しい」「これは便利」といった勘所を抑えてあるのです。
結果として、価格も手頃になり、競合製品と比較したとき、有名家電メーカーブランドや高機能・多機能にこだわらなければ、「アイリスオーヤマ製品がいいな」となることが多い。
例えば、同社の「加湿器」は必要十分な機能を備えていますが、なんといっても掃除がしやすいように設計されている点が特徴です。
加湿器は掃除を怠ると細菌の温床となりがちで、こまめな手入れが欠かせないのです。そこで、同社の加湿器は部品が取り外しやすく、洗いやすくなっていることが利用してみるとわかります。
大山社長によれば、家電製品で革新的な機能はもう出ない。したがって、「コンセプト」が大事とのこと。商品開発時には「なるほどがないとダメ」と口酸っぱくして言っているそうです。
確かに、布団乾燥機は「なるほど、乾燥マットがいらないのか、それは手軽だ」ですし、加湿器は「なるほど、手入れがしやすいのか、それは便利だ」と消費者は思う。
結果として、価格.comでは「布団乾燥機」の満足度ランキングにおいて、シャープやパナソニック、日立などを押しのけて堂々の1位です。
さらに、アイリスオーヤマの場合、値段の手頃感を追求しています。同社は基本的に自社生産であり、金型も自前で作っているので製造原価が抑えられるからです。
一方、大手メーカーは、知名度や企画力はあるものの、下請けの中小企業メーカーに製造を委託している部分が多く、同等のスペックではアイリスオーヤマに対抗できないのが現実です。
優れたコンセプトとスピード感あるジャッジ〜巧みなマーケティングの勝利
というわけで、消費者ニーズの勘所を抑え、かつ手頃な値段な同社家電製品の売上構成比は2010年には10%足らずであったのが、2016年には40%を突破し、大きな成長を果たしています。
今後、アイリスオーヤマではエアコン、冷蔵庫、洗濯機などの大型家電分野にも進出。家電の売上構成比が全体の50%を超えるのも間違いないでしょう。
同社では、毎週月曜日に1日かけて新商品開発会議が行われています。
この会議には大山社長も同席しており、優れたコンセプトで「なるほど」があれば、即OKが出て開発がスタートします。
大山社長は、「他社よりも開発スピードが速いのではなく、(開発OKがでる)ジャッジのスピードが速い」とおっしゃっていますが、アイリスオーヤマのマーケティングの取り組みには学ぶべきところがたくさんありますね。