フロイトは、人間の心の第一の要素は“イド”だと説きました。“イド”とはラテン語であり、人間が快楽を求め、苦痛を避けようとする様を表す言葉で、“イド”に基づき起こる心理的作用を心理学では、「快楽と痛みの法則」と呼んでいます。快楽と痛み、どちらの欲求を満たすことがビジネスになりやすいか考えてみましょう。
日本のセメント王浅野総一郎が最初に始めた商売は「水売り」
日本のセメント王と言われ、一代で浅野財閥を築いた浅野総一郎は若い時、裸一貫で富山から東京に飛び出しました。
どうしても金儲けをしなければならないと、足を棒にして東京中を駈けずり回ったは良いものの、儲け話などちっともありません。
ある時、お茶の水を通りかかった総一郎は、ふと思いついて宿に帰り、手桶と盆とギヤマンのグラスを5,6個買って御茶の水へ舞い戻ります。
お茶の水という地名は、将軍に献上した水をここから汲んだというので付いた名前であり、明治のはじめ頃はきれいな水がこんこんと湧いていたのです。
その水を手桶に汲んで本郷の湯島切り通しの上に立っていると、ここを大八車に材木、庭石、植木などを積んで通ります。
真夏の暑いときなど、皆、坂を上がってしまったら、かじ棒を下ろして、やれやれと汗を拭いているのです。
こんなときに冷たい水が飲めたらなと思っていると、「ひゃっこい水、ひゃっこい水」とお茶の水の水を汲んできた少年が、水を売り歩いています。
水は、たちまちのうちに売り切れて、少年は何遍も水を汲んでは売ります。
土手の下に行ったら“ただ”の水が、坂の上に行ったら1銭の値打ちがある。
少年とは総一郎のことであり、浅野財閥は、こうして産声をあげました。
人間の行動は、私たちが思っているほど複雑なものではないと言われています。
フロイトは、人間の心の第一の要素は“イド”だと説きました。
“イド”とはラテン語であり、人間が快楽を求め、苦痛を避けようとする様を表す言葉で、“イド”に基づき起こる心理的作用を心理学では、「快楽と痛みの法則」と呼んでいます。
つまり、人間は常に「快楽」を求め「苦痛」を避けようとしています。
浅野総一郎が最初に始めた商売「水売り」は、喉が渇いて堪らないという「苦痛」を避ける欲求に即していたからうまくいったのですね。
「快楽を求める」欲求と「苦痛を避ける」欲求はどちらが強い?
では「快楽」を求める欲求と「苦痛」を避ける欲求では、どちらの方が強い欲求なのでしょうか?
歯医者という「快楽」を求める欲求と「苦痛」を避けようとする欲求を、同時に満たせる舞台を例に考えてみましょう。
歯医者に行ったとき、ある若い女性は“ホワイトニング”という歯を白くする方法があるのを知りました。
若い女性にとって真っ白な歯になることは、男性にモテるきっかけとなるやもしれません。
だから、ホワイトニングは「快楽」を求める欲求ということになりますね。
一方、もう1人のある女性は、虫歯が痛くて痛くて…こんな場合は、すぐにでも直して欲しいものです。
「虫歯を治したい」というのは、文字通り「苦痛」を避ける欲求です。
さて、どちらの女性の持つ欲求が強いと、読者の皆様は思われますか?
もうおわかりだと思いますが、「苦痛」を避ける欲求の方が、「快楽」を求める欲求の方が強いのです。
お客様が困っていること、悩んでいることをリストアップしてみよう
あなたが立ち上げようとしている事業があるなら、まずはお客様が困っていること、悩んでいることをリストアップしてみましょう。
10個以内のリストアップでは不十分です。最低50個以上あげてください。
次に、「こうすればもっとお客様の満足度が高まるだろう」ということをリストアップしてください。
あなた自身が考えるとともに、想定しているターゲット層の何人かにインタビューしてみることもお勧めします。
大事なのは、ターゲットとているお客様を幸せにするという、強い気持ちで取り組むことです。
化粧品や健康食品・サプリメントで知られているある企業では、お客様が感じている「不満、不便、不信、不平、不備、不透明、不快」という7つの“不”をリストアップし、その“不”を解消する方向で商品開発に取組んでいるという話を聞いたことがあります。
人の苦痛を避けるビジネスには、多くのチャンスが眠っているのです。