アメリカの大統領に就任して1ヶ月が経ったトランプ大統領。良いか悪いかは別として、彼の交渉には、ビジネスの実践を通じて培われた、巧みな心理テクニックがふんだんに盛り込まれています。今日はこのうち代表的な3つのテクニックをご紹介したいと思います。活かし方次第では貴方のビジネスに有効活用できる?!
トランプ大統領の交渉術1:ドア・イン・ザ・フェイス
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
米国トランプ大統領が就任して1カ月が経過しました。相変わらず暴言ぶりは健在で、側近たちが火消しにおおわらわ、というところですね。
「トランプ氏はいったい何を考えているのか」といぶかられている方も多いと思いますが、彼は良くも悪くも、ずる賢いビジネスパーソンです。
意識的か無意識的かはさておき、「ふっかける」癖が抜けないのでしょう。
「ふっかける」、つまり極端な提案をして、場合によっては相手を怒らせることもいとわないのは交渉の常套手段です。これは、「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれるテクニックです。
例えば、ある商品の適正価格が5万円だったとして、最初に「20万円で売りますよ」とふっかける。
言われた側は、「そんなに高いわけないだろう」と怒るかもしれません。
「じゃあ、値引きましょう。15万円でいかが?」
「まだ高いな」
「しょうがない、今回だけ特別ですよ。10万円で」
「10万円か、最初の半額だし、これで手を打っておくか」
とまあ、こんな展開になったとします。
売り手としては、本来5万円で売れればOKのところ、10万円で売れたわけですから、大儲けです。
トランプ大統領の交渉術2:プライミング効果
こうして「ふっかける」ことで有利な条件を引き出すのが「ドア・イン・ザ・フェイス」。このテクニックに効果があるのは、心理学でも様々な実験を通じて検証が行われています。
「ふっかけ」に効果がある理由として、以前の記事「ドナルド・トランプ氏が顧客や支持者に仕掛ける心理トラップ」でもご紹介した「プライミング効果」があります。
「PRIME」というのは「第一の」といった意味もありますが、「プライミング効果」は、先に提示された情報によってその後に続く情報に対する認識が影響を受ける、ということです。
前述の会話では、最初に提示された数字:20万円に対して、10万円は半額であり、たとえ適正価格が5万円だったとしても、割安に感じざるをえない。
このため、妥当な金額だと思い違いをしてしまったというわけですね。
トランプ大統領の傍若無人な発言の多くは、このプライミング効果を狙ったものでしょう。
彼の非現実的な発言に対し、側近たちが実際の外交交渉などで探る落としどころは、より現実的なものにならざるを得ませんが、それでも多かれ少なかれ米国側に有利に働くはずです。
トランプ大統領の交渉術3:返報性の原理
実は、かれの「ふっかけ」にはもうひとつの心理学で検証済のテクニックが隠れています。それは「返報性の原理」と呼ばれるもの。
「返報性」とは、「受けた恩は返さないと気が済まない」という、人間の本能ともいえる心理のこと。これは、集団で暮らし、お互いに助け合いながら生きる人間にとって不可欠な心理です。
もし、受けた恩を返さなくても平気、という人間がいたとしたら、その人は誰からも相手にされなくなり、仲間はずれにされてしまうでしょう。
社会から疎外され一人で生きていくことはとても難しくつらいことです。従って、人間にとって、「返報性」の心理はなくてはならないものなのです。
では、トランプ氏の「ふっかけ」のどこに返報性があるのでしょうか。
トランプ氏は、いろいろととんでもない要求や提案をしてますが、それに相手が異議を示したら、多少とも譲歩することになるでしょう。
相手としては「譲歩して当然」ではあるものの、同時に「譲歩してくれて悪いな」という気持ちがどうしても生まれてしまうのです。
仮にとんでもない要求だったとしても、譲歩してくれたら「借り」ができたと無意識に思ってしまうのが返報性。
だから、その譲歩してくれた要求を受け入れる、という形で「借りを返す」ということになってしまうわけです。
トランプ氏としては、米国至上主義、米国にとって有利であることが重要と考えているわけですから、今後も暴言が収まることはまずないでしょう。
もちろん、今はビジネスパーソンではなく、大国の指導者であり、政治家としての資質にはまったく欠けていると言わざるを得ないのですが。