日本を代表する重電メーカー・東芝が、7,000億円を超える巨額の損失を計上し、危機的な経営状況に陥っていることが先週判明しました。今回の事件を初めとして、日本企業で不正経理が頻発する原因はどこにあるのでしょうか?現役で上場企業の税務顧問を務めている山田さんが、現場の状況を踏まえてズバッと斬ります。
東芝が巨額の減損損失による債務超過で企業存亡の危機
日本を代表する重電メーカー・東芝が、7,000億円を超える巨額の損失を計上し、危機的な経営状況に陥っていることが先週判明しました。
米国の原発事業買収による大規模な損失は、自社の資本でカバーできないものであり、単体では文字通り「債務超過」となってしまってます。
古くはカネボウ、数年前にはオリンパスが、粉飾決算を行ったことにより、企業存亡の憂き目をさまよい、それを東芝幹部のメンバーも見ているはずであろうにも、なぜ同じようなことが、更に大きな規模で起こってしまったのでしょうか?
本稿では、日本の上場企業に見られる体質、監査法人の姿勢という2つの観点から、考察していきたいと思います。
上場企業の税務顧問が見た上場企業の現場における現実
私は、今回の事件を初めとして、日本企業の不正経理が頻発する原因としては、日本企業のトップダウン型の経営と予算(コミットメント)至上主義が大きな原因であると考えています。
私自身も、大手税理士法人への勤務時代より現在まで、上場企業の税務顧問も担当させて頂き、企業経理の現場から様々な相談を受け、生の声を聴いてきました。
立場上、監査実務を経験してきたわけではありませんが、逆に企業側の実態を伺うことが出来る立場にあったと思います。
そこで良く話に上がっていたのは「予算達成のための施策」です。
経営陣は予算達成のためにあらゆる手段を講じます。
組織再編等にて“のれん”を実体化したり、不採算事業の減損を阻止するために、実態とはかけ離れた事業計画を推し進めたります。
その中でも、トップダウン型の企業では現場の実態を捉えずに、何とか予算を達成するように現場にプレッシャーを掛け、結果として現場はプレッシャーに負けて不正に手を染めたりします。
コミットメント経営が日本に浸透した背景には、K・ゴーン氏(以下、ゴーン氏)による日産復活劇が大きな影響を及ぼしています。
しかし、ゴーン氏は、現場のモニタリングをつぶさに行い、自らが立てる予算の蓋然性と整合性をしっかりと見極めた上で、なおかつ、そこで起きる結果は、全て自らが引き受けることを明言していました。
東芝のやり方は全くその逆であり、現場の状況などお構いなしに、「チャレンジ」という強制的な会議の元で、現場にムリな予算を立てさせ、それが未達な場合は、不適切であったり不合理な処理を現場に強制的に行わせて、最終的な責任をリーダーが背負わないという最悪なものです。
2年前に行われた、東芝における工事進行基準の不正経理はその典型であると考えています。
以下の第三者委員会資料は、それを裏付けるに足りるものでしょう。
参考資料:東芝:第三者委員会調査報告書
この度の7,000億円を超える巨額の損失計上についても、そのような企業風土が根源にあったのではないかと考えます。
なぜ監査法人は疑惑が持ち上がっても突っ込みきれないのか?
さて、次に、なぜ監査法人は疑惑が持ち上がっても突っ込みきれないのか?という点についても、触れてみたいと思います。
日本の会計基準では、1990年代後半のいわゆる金融ビッグバン以降、まずは金融資産について時価主義が導入されました。
その後も、更に国際会計基準であるIFRSに寄せていき、時価基準とする資産の適用範囲を広げてきています。
資産の時価算定に当たっては、割引現在価値基準を採用しており、資産の評価にあたっては、その事業の将来利益に基づいた評価を行います。
つまり、会社の事業計画に基づいて資産の評価が行なわれることになります。
監査法人は、企業会計を過去や現在の客観的な事実に基づき監査するのみならず、将来の事業計画という客観性が担保し難い不確実な内容についてまでも、数値の確実性・正当性を監査する必要が出てきました。
まさに、東芝が今回計上することとなった減損損失がその代表例です。
監査の現場では将来の事業計画についての正当性を評価する必要があり、結果として今回のような巨額の減損損失を計上するか否かの判断を迫られています。
また、監査法人は上場企業を監査する立場であると同時に、その企業から報酬を貰う立場でもあります。
監査法人ではリーマンショック以降、報酬の値引き交渉が横行したため、会計士の高い給料を払う原資、つまり売上を維持することが難しくなっています。
結果として監査法人も企業に対しては、強気に出ることが出来ないケースもあると聞きます。
2000年代に多発した巨額の粉飾決算事件を契機に、企業と会計士の癒着は厳しく取り締まられるようになりましたが、第三者機関が関与すること等で企業と監査法人の関係性をさらに変えていくことも、不正経理を抑止する一つの方法であると考えます。
東芝で粉飾決算が行われていた期間、監査を勤めた新日本有限責任監査法人では、既に昨年理事長が引責辞任すると共に、東芝の監査法人を降りています。
しかし、今回の事件を防ぎきれなかった責任は重く、今後、東芝の動向如何によっては、企業からの訴訟、株主代表訴訟の対象となる可能性は拭えません。
これほど社会が発達しても、結局のところ組織は人が動かす共同体です。企業運営には更に高度なモラルが求められます。