売れば終わりは昔の話?ソニーが一眼レフカメラ購入者に対して「購入後のサービスやフォローが命」と考えるワケ

マーケティング

 従来、メーカーは「売ってしまえば、あとは消費者がどう使おうが知ったことではない。」という考えを持つのが一般的でした。しかし現在では、優れたアフターサービスの提供を通じて、顧客満足度を高めようとする動きが高まっています。その一例として、ソニーが一眼レフカメラ購入者に対して行う、購入後の優れたサービスやフォローをご紹介します。

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「売ってしまえば終わり」は過去の古い発想

 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

  「すべての企業はサービス業である。」

 あなたはこの主張に対してどのような感想や意見をお持ちになりますか?

 「すべての企業」ということですから、この文言の対象範囲は、いわゆる「製造業(以下、メーカー)」まで含まれています。

 従来、メーカーは消費者のニーズを充たす優れた製品を作って売るまでが勝負、という考え方が一般的でした。

 極論を言えば、「売ってしまえば、あとは消費者がどう使おうがメーカーの知ったことではない。」という考え方です。

 さすがに今、この古い発想に固執する人は少ないでしょう。

 たとえば、購入後の使用者からの様々な問い合わせに対するアフターサービスが不十分だと、悪い評判がたちまちSNSなどを通じて広まり、リピート率が低下したり、新規客の獲得が難しくなったりします。

 したがって、消費者からの問い合わせに対応するコンタクトセンター(コールセンター)の重要性は極めて高くなっています。

 従来、企業にとってコンタクトセンターは、やむを得ず運営するものであり、相応の費用がかかるやっかいな存在、すなわち「コストセンター」という認識が強いものでした。

 しかし、現在は、優れたアフターサービスの提供を通じて顧客満足度を高め、リピート率向上や口コミ等による新規顧客獲得による売上増を狙う「プロフィットセンター」として位置づけている企業も増えています。

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ソニーのデジタル一眼レフカメラ、“α(アルファ)”シリーズ。悩みは「購入者がカメラを使わなくなること」

 さて、アフターサービスだけではなく、製品購入後の「使用」に関して、メーカーによる適切なサービス提供を行うことが重要な製品カテゴリーがあります。

 例えば、趣味として楽しむカメラです。

 日常生活でちょっと食事の写真を撮るとか、観光地で記念写真を撮る場合などは、もはやデジタルカメラではなくスマートフォンのカメラで十分ですね。

 しかし、背景を上手にぼかしたり、花びらをクロースアップで綺麗に撮影するなど、芸術性の高い写真に仕上げようと思ったら、それなりに高性能なカメラや交換レンズ、撮影テクニックが必要となりますね。

 カメラの使用に関する様々なサービスは、カメラメーカー各社ともそれなりに力を入れてますが、製品の機能性能に大きな差がなくなった今、趣味としての写真撮影という「顧客経験」を、より楽しくするためのサービスを提供する必要性や価値が高まってきているのです。

 デジタル一眼レフカメラ、“α(アルファ)”シリーズを展開しているソニーも、購入者向けの様々なサービスを提供しています。

節約社長
ソニーのデジタル一眼レフカメラブランド“α(アルファ)”シリーズ

 先日、同社ご担当者の話を聞く機会があったのですが、カメラ本体を購入すると、装着できる交換レンズも決まってしまうことから、本体購入者が写真撮影に本格的に取り組んでくれれば、交換レンズを追加購入してくれることによる利益が上乗せできるとのこと。

 しかし、同社の調べによると、初めて1眼レフカメラを購入した方で1年後も使用している割合は7割程度。

 つまり3割はせっかく高いお金を出したのに使わなくなってしまうのです。

 カメラを使わなくなってしまう理由としては、「重い」、「大きい」といった一眼レフカメラならではの課題に加えて、「難しい」という理由が挙げられるそうです。

 なぜでしょうか。

 実は一眼レフカメラを始めて買うとき、購入者は期待に大きく胸を膨らませているのです。

 プロの写真家の写真集や、Instagramなどで見かけるセンスの良い写真のように、美しい写真を自分でも撮れるようになりたいと夢見ているわけですね。

 ところが、実際に自分で撮影してみると、なかなか良い写真が撮れない現実に愕然とするのです。いざやってみるとかなりの知識と経験が必要であり、そんなに簡単なものでないことがわかるのですね。

 そうすると当初の夢がたちまちしぼんでしまい、重いし、大きいので持ち歩くのが面倒になり、どこかに閉まったままになってしまう。

 結果的に、レンズの追加購入も発生せず、上乗せ利益が発生しないというわけです。

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ソニーが一眼レフカメラ購入者にカメラを利用してもらうために講じた施策

 そこでソニーがソリューションとして考案したのが、購入者向けのギャラリー&コミュニティサイト「α cafe」を開設するとともに、「α 体験会」を開催することでした。

節約社長
参考:ソニーが開設した購入者向けギャラリー&コミュニティサイト「α cafe」

 体験会では、一眼レフの基本的な操作方法から、美しい写真を撮影するコツなどを丁寧に教えています。

 習熟度に合わせてより高度なテクニックを教える「αセミナー」や「α cafe カレッジ」も開講。プロカメラマンやソニーの社員講師による指導を受けることができます。

 さらに、プロカメラマンが同行して様々な場所に出向き、アドバイスをもらいながら撮影を楽しむツアー等も開催することで、購入者の「カメラライフ」を充実したものとするサービスを提供しているのです。

 「α cafe」は前述したようにコミュニティ機能を有していますので、αユーザー同士がつながり「サークル」活動を行うことできます。

 ユーザー同士がつながることで何が起きているかというと、上級者が初心者に撮影のポイントを教えるなど、本来、企業が果たすべきサービスをユーザー自らがお互いに提供してくれるようになっているのです。

 こうして、一眼レフカメラの楽しさに目覚めたユーザーは、仲間との交流を深めながら、交換レンズの購入を重ねていくというわけです。

 一眼レフカメラの場合、以上のように使用をサポートするサービスの重要性が明白ですが、あなたの業界はどうでしょうか?

 本来、売りっぱなしではダメな製品ではないですか・・・?

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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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