クラウド会計の概念が定着したことにより、経理業務に大きな変革が起こり始めています。記帳業務など職人的な技や手早さが必要とされた業務の価値が下がり、今後の経理業務には、業務フローの構築や業務の割り振りといった、高度な知的労働が求められるようになりました。最低限でも今から理解しておくべきことも含め、解説いたします。
クラウド会計は一体何が凄いと騒がれてるの?
クラウドという概念がすっかり定着し、Money ForwardやFreeeを中心に、法人の会計分野でも「クラウド会計」を採用する中小企業が増えてきています。
これまでの会計ソフトはインストールしたパソコンでしか使えなかったり、SaaS版でもサーバーを立てたり、初期費用がかなりかかるという課題がありました。
また、なによりもWindowsにしか対応しておらず、社内にはMacしかないことも多い、最近のベンチャー企業には不満だったところに登場したのが、前述のクラウド会計です。
クラウド会計は文字通りクラウド上で会計ソフトの機能を提供するもので、ソフトをインストールする必要はありません。
インターネットに繋がっていれば、どこにいても、どの端末からでも利用することができるため、最近の時間や場所を選ばない働き方を推奨する企業にも受け入れられています。
また、特にMoney ForwardやFreeeが力を入れているのが、「経理自動化」「会計自動化」などと言われる分野です。
細かい定義は色々あるようですが、一般的には銀行口座の取引明細やクレジットカードの利用明細はもちろんのこと、Amazonやアスクルの注文明細までも取り込み、自動的に会計ソフトに仕訳として取り込んでくれるサービスのことを指します。
このクラウド会計が、会計にもたらした「自動化」が、経理業務に大きな変革をもたらしているのです。
クラウド会計の進化により経理の業務は「作業」から「業務」に変わっていく
従来の経理の仕事では、銀行の取引明細を1件ずつ会計ソフトに打ち込んだり、請求したものが入金されているかをチェックしたり、経費精算の処理をしたりというものがかなり業務ボリュームを占めていました。
クラウド会計ソフトを使えば、これらの作業の大半が自動化されるのです。これによって、そう遠くない未来には経理という仕事そのものが再定義されることでしょう。
このような考え方は割と昔から「Accounting Automation」などと呼ばれて提唱されてきましたが、経理という専門性が高い分野における自動化はハードルが高くなかなか現場で使えるレベルにはなりませんでした。
しかし、昨今のAIやビッグデータ活用の盛り上がりでも分かるように、システムのパターン認識能力・学習能力や柔軟性が格段に上がってきており、経理の仕事そのものを大きく変えるレベルになってきているのです。
さて、これまで経理担当者が多くの時間をかけてきた「記帳」という業務がシステムに取って代わられた場合、経理担当者の仕事はどうなってしまうのでしょうか。
AIの台頭によってなくなってしまう仕事の筆頭にもあげられる経理ですが、私はだからといって専門知識や経験のある経理担当者の仕事が必要なくなるとは思いません。
処理が自動化されるとはいっても、それは「記帳」という部分の話。
それ以前の、
- 社内の業務フローの設計や事務処理の効率化
- システムがやるべきところと人がやるべきところの役割分担割り振り
など、高度な判断を要する処理をどうするかといった分野では、まだまだ経験や知識のある人の能力が必要になってきます。
作業ではなく仕事をしたい経理が活きる時代
これまで経理のベテランや会計事務所の職員はテンキーが素早く打てるとか、ショートカットを全部覚えているなど、職人芸的な能力が求められる部分もありました。
しかし、それらの単純作業はどんどんシステムに代替され、より高度な専門知識を発揮する分野へのシフトを求められるでしょう。
作業こそが自分の仕事だと思っていた人たちにとっては、ものすごいパラダイムシフトですが、逆に専門知識で勝負がしたいのに目の前の作業に追われてしまっていた人たちにとっては、これから大きなチャンスが待ち受けます。
経理に必要な大量の事務処理作業がボトルネックになって、専門知識を十分に活かすことができなかった人たちが、作業から解放され本当に価値のある仕事に集中できるようになるのです。
また、経理処理が自動化されるといっても、ただシステムを導入するだけでは絶対にうまくいきません。
これまで人の作業を前提に組み立てられてきた、業務の運用ルールを根底から見直していき、記帳の自動化に最適化された業務フローを組み立てなければ、システムのポテンシャルを十分に引き出すことができません。
経理の人間には、高度な判断能力が求められるようになっていくことでしょう。
これからの経理人材は最低でもクラウド会計の設計思想や構成を頭に入れる必要がある
日本の企業は新しいシステムを入れても、すぐに「いまでやっていた業務」をベースに考え、新しいシステムを従来のやり方に合わせようとしてしまいますが、それは大きな無駄を生んでいるのです。
これまでのやり方がどんなによく出来ていたとしても、それは「人間が処理すること」をベースに作られたやり方です。
システム上のデータを読み込むのであれば、二重チェックも検印も必要ありません。
これまでのやり方を単に踏襲するのではなく、この業務を何を達成するためにやっているのか、どういう成果物がだせればいいのか、というところから業務をすべて再構築する必要があるのです。
この工程は経理全般の専門知識と、会計に関わってきた経験がなければできません。
また、システムの概要もある程度は理解しておく必要があります。
もちろん、プログラムを書いたりする必要はありませんが、システムがどういう思想で作られていて、どういう処理をしていて、どういう構成になっているのかは、最低でも頭に入れておかなければなりません。
未来の経理に求められる人材は、経理の知識はもちろんのこと、自動処理するシステムについても理解している人材なのです。