コーチング、セラピスト、プログラマーなどで起業する場合、一人で起業し、一人でサービスを展開するケースが多くなります。確かに自分一人の面倒を見れば良い点で、このビジネスモデルにはメリットがありますが、一方で変動費が限りなくゼロに近いため、価格競争にさらされるデメリットもあります。どのような価格設定がこのビジネスモデルでは必要となるのでしょうか?
一人きりのサービス業はリスクも少ないが儲けにくい!?
コーチング、セラピスト、デザイナー、プログラマーなどで起業する場合、従業員を雇わずに、一人で起業するケースが多いですね。
これらの業種には、一つの共通点があります。
費用の面において、材料費などの変動費はほぼゼロであり、パソコンやソフトウエア、家賃だけがコストとなり、固定費100%という共通点です。
これは自分一人の面倒を見れば良いという点ではメリットですが、このようなコスト構造の業種は、価格は限りなく下がっていくという特性があることにも注意しなければなりません。
特に競合の多い業界に属している時には、このことが問題となりやすいものです。
一人きりのサービス業は変動費がゼロである分、価格競争にも弱い
価格競争が激しくて、どうしても価格を下げざるを得ない場合、変動費が価格の最低ラインになるという法則があります。
例えば、テレビを販売する場合、テレビの仕入原価が変動費になります。
変動費が6万円の場合、これ以下の価格で販売したら赤字になるため、変動費が価格の最低ラインになります。
対して、一人きりのサービス業に代表される、固定費が100%で変動費がゼロの業種はどうかと言うと、売上げが100%自分の懐に入ります。
従って、値下げしようと思ったら限りなくゼロに近づきますので、価格競争になった場合に仕事を取ろうとすると、値下げをせざるを得ません。
安い価格で仕事をするから儲けが少ないために、数をこなすしかない。
毎日、毎日仕事に追われるけれど、ほとんど儲からず、肉体的にも精神的にも消耗するばかり。
変動費ゼロの一人起業の場合、コスト構造上、このようになりかねないリスクがありますし、実際にこのような状態にある人も多く見かけます。
実際に私のところに相談に来たwebデザイナーの方もいました。
どうすれば、この価格競争から抜け出すことができるのでしょうか?
まず、価格競争から抜け出すために、価格を決める4つの方法を知ることが肝要です。
価格を決める4つの方法で一人きりのサービス業が取るべきはどの方法?
自分は商品やサービスをどのくらいの価格で販売したら良いのだろうか?
高くすればお客様は買ってくれないだろうし、安くすれば儲からない
この値決め問題は、一人きりのサービス業を営む人なら誰でも大変悩むところです。
これを解決するためには、まず、世の中ではどんな考え方で価格が決められているのかを、基本的な知識として押さえておきたいところです。
代表的なものを4つご紹介していきます。
1)コストプラス法
これは一番わかりやすく、多くの小売店や飲食店などで採用されている考え方であり、仕入れ原価など掛かった費用に利益を上乗せして決める方法です。
以前、酒屋さんに行くと、「ディスカウントストアでは、俺たちが仕入れる値段より安く売っているから、やっちゃいられないよ!」と、こんな声をよく聞きました。
小麦粉があがった、そば粉があがった、となれば、値上げしなくてやっていくのは大変だ、という飲食店の声も良く聞きますね。
この値決め方法は、競合店が値下げしたり、仕入れ価格があがった場合に対応が大変な方法です。
変動費ゼロの業種の場合は、この方法を採用することはできませんよね。
2)市場価格基準法
「だいたいこの商品の値段の世間相場はこのくらいかな」と、標準的な他社の市場価格に基づいて、価格を決める方法が「市場価格基準法」です。
この値決め方法は、原材料費の比率が低い商品の場合に、よく使われる方法です。
ただし、同じような価値を持った商品が存在する場合、競合が常識破りの価格で参入してくると、たちまち苦境に陥ってしまいます。
3)戦略的価格決定法
戦略的価格決定法とは、価格を戦略的にとらえた方法で、既存業界の一般的な価格より、圧倒的な価格差をもって市場に参入する方法です。
競合を徹底的に叩いて、市場を支配してしまうという戦略的な方法です。
従って、この戦略を用いるプレイヤーは、損を承知の価格で参入してきます。
もちろん、変動費ゼロの業種の場合は、よっぽどの体力がない限り、この方法を使うメリットがありません。
4)価値対応価格決定法
価値対応価格決定法は、一般的な市場価格に関係なく、提供する商品やサービスの価値によって、価格を決める方法です。
この考え方の場合、お客様に提供する価値を理解・納得してもらうことが前提になります。
変動費ゼロの一人起業の場合、市場価格基準法や戦略的価格決定法を取ると、消耗戦になりかねません。
従って、一人きりのサービス業が値決め戦略として選択すべきは、この価値対応価格決定法です。
値決めの際はどのくらい高い価格が良いのか?
「値決めこそ経営」
これは、京セラの創業者である稲盛和夫さんの言葉です。
稲盛和夫さんがこのようにおっしゃるくらい、価格は経営にとって重要なものです。
先ほど、一人きりのサービス業を運営するときには、一般的な市場価格に関係なく、提供する商品やサービスの価値によって、価格を決める「価値対応価格決定法」によって、価格を決めるべきだと申し上げました。
では、具体的に価格の位置をどのくらい高いところで決めるべきか?ということについて、考えてみましょう。
ちなみに稲盛和夫さんは、「顧客が喜んで支払ってくれる最高の金額を付けるべき」とおっしゃっていますが、これを顧客心理面から考えると、価格は次の5段階に分かれます。
第一段階 原価
一般的に原価あるいは原価割れで販売することを私達はしません。
しかし、競合企業をたたく場合、あるいは、目玉商品として集客を図る場合は、原価あるいは原価割れで販売することもあり得ます。
第二段階 「大丈夫か?」と思われる安値
原価までいかなくても、この値段であの店やっていけるのかな?という値段を付けている店がありますね。
第三段階 類似商品の価格
「決して安くはないけど高くもないよね」という価格です。
第四段階 「高いから安心だ」という価格
例えば、情報商品のように、買ってみないと商品の中身がよく分からない商品だと、あまり安いと大丈夫かなと心配になりますね。
逆に、この価格ならば、それなりの価値を提供してくれるだろうと、思われるような価格設定が必要になります。
第五段階 数%の顧客しか買ってくれないという高価格
JR九州の高級旅客列車「ななつ星in 九州」では、一人当たりの価格は、1泊2日で28万円にもなります。
庶民の感覚からは、「うぇ、高けぇなぁ!」とのけぞってしまいますが、それでも凄い人気ですね。
たとえ数%の顧客であっても、高価格でも買っていきます。最近日本を訪れる中国からの富裕層もターゲットかも知れませんね。
独自の市場を作り商品やサービスの価値を予感させる値決めが一人きりのサービス業では重要
さて、私たちは、どの段階で具体的な価格を決めていくべきでしょうか?
それはズバリ、第四段階の「高いから安心だ」という価格です。間口が広く高単価を維持できるため、サービスが良ければ成り立ちやすいからです。
このように、一人きりのサービス業を展開する場合、
- 提供する商品やサービスの価値を見極めた上で、独自の価格決めを選択
- 商品やサービスの価値を予感させる、高価格帯で値決めをする
これらを徹底することが、利益を出す秘訣なのです。
Photo credit: COSCUP via Visual Hunt / CC BY-SA