近年、脳科学の観点に基づいた研究結果により、残業が如何に非効率なものか、ということが分かり始めています。社員が残業をした場合、経営者は割増賃金を含めた残業代を支払わなければなりません。これを変えるためには成果の基準を「時間=成果」から「時間×集中力=成果」へシフトし、きちんとした人事評価制度を整備する必要があります。
長時間労働は不効率・脳科学の世界では常識
ここ数年で、脳科学の観点から残業がいかに非効率な働き方であるか、ということが明らかになってきています。
「22:00時点での脳の状態は酒酔い運転をしているのと同じ」
「起床してから16時間後にはまともな集中力を発揮できない」
これらの労働に関する研究結果が本当だとすると、経営者にとってはとても恐ろしいことです。
わが国の労働基準法では、残業時間の労働に対して割増賃金を支払わなければなりませんが、時間単価が高くなるにも関わらず、仕事の効率は落ちているということになるからです。
つまり、残業させればさせるほど非効率な仕事をしていることになり、無駄な割増賃金を支払っていると言えます。
工場で製品を組み立てるような仕事の場合は、時間をかけるほど完成品をたくさん生み出せると思うかもしれませんが、こちらも長時間作業をすれば1時間あたりの作業数や品質が徐々に低下していきます。
結局、長時間作業は非効率であるということになります。
時代は「時間=成果」から「時間×集中力=成果」へ
日本人はどうしても「作業時間=成果」、という風に単純に考えてしまいがちですが、ここに集中力という観点を加えて、私は「作業時間×集中力=成果」という風に考えることを提唱しています。
集中力が低下すればするほど、仕事の能率・効率は下がり、作業時間あたりの成果は下がっていくという考え方です。
残業は非常にパフォーマンスの悪い働き方であり、経営者としては社員がいかに残業せずに、かつ、高い成果を上げるられるか、という仕組をつくることを考えなければなりません。
これを実現するためには、社内の色々な仕組や慣習を変えていかなければなりませんが、真っ先に手を付けるべきは人事評価制度の整備です。
中小企業はきちんとした評価制度がないというところも多いと思いますが、それが昇給・昇格の基準を曖昧にし、結局は分かりやすい「長時間働く」ということで自分のパフォーマンスを示そうとする、という状態をまねきます。
日本の大企業なども評価制度はあったとしても、それがほとんど機能していないので、「遅くまで残っている=あいつは頑張っている」というような評価になりがちです。
これではいくら「早く帰れ!」「残業するな!」とあなたが部下に言ったとしても、実行されるわけがありません。
残業を減らすには集中し短い時間で成果を上げることの価値を経営者が啓蒙する必要がある
経営学や組織論の分野では「人は評価基準に従って動く」という格言があります。
つまり、人の行動を縛っているのは評価基準であり、人の行動を変えるためには、まずは評価基準を変えなければいけません。
評価制度を変えるというと非常に大変かもしれませんが、大事なのは制度よりも、経営者として評価基準についてどういうメッセージを出すか、ということです。
- 「残業をいくらしても評価しない」
- 「残業が多い人間と残業が少ない人間の成果が同じであれば、少ない人間を評価する」
- 「長時間働かなくてすくむように、仕事の効率化に対する取り組みは特に高く評価する」
こういう形のメッセージを社内に伝え、そしてこの基準を厳格に適用して評価をしていけば、あなたが本気であると言うことが社員にも伝わり、だんだんと行動が変わってくるはずです。
評価基準を評価制度へ具体的に落とし込むべし
人は誰しも評価されたいと思っていますので、評価されないことをやる人はいないのです。
これを「承認欲求」といいますが、この点をしっかり押さえて、評価制度に落とし込み、しかもそれを厳格に運用することで、確実に残業は減っていくと思います。
多くの経営者、特にワンマン型の経営者が「残業代が多いから減らせ!」という号令を出すだけに留まりがちですが、それでは変わるはずもありません。
「残業をすることはいいことではない」「成果をきちんと出すことが重要だ」「効率化を常に考えよう」というメッセージとセットで出すことで、短期間で会社は変わるはずです。
人の集中力はそんなに長く持ちません。
この事実を前提条件として受けいれ、業務時間の中で最高のパフォーマンスを発揮できるような環境・仕組を整えていくことも、経営者にしか出来ない仕事なのです。