五輪エンブレムの最終選考が、4月25日(月)の午後に行われ、2020年東京オリンピックのエンブレムとして『組市松紋』の「A案」が選ばれました。しかしこの選考に出来レースとの批判が集まっています。心理学の視点から見た時に選考で仕組まれた2つの効果を、ご紹介します。果たして出来レースの批判は妥当なのでしょうか?
オリンピックエンブレム選考は出来レース評価
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
五輪エンブレムの選考を行う組織委員会の有識者会議「エンブレム委員会」は、4月25日(月)の午後に最終選考を行い、2020年東京オリンピックのエンブレムとして『組市松紋』の「A案」が選ばれましたね。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HPより
事前に発表されていた4つの案のうち、
- 「A案が選ばれるのでは・・・」
- 「そもそも出来レースでは・・・」
という推測がネットではずいぶん流れていましたが、予想通りの結果となりました。
今回は、上記のような推測がなされた理由について、心理学の視点で考えたいと思います。
選考に当たって仕組まれた2つの心理効果とは
さて、今回選考の対象となったA~Dまでの4案の評価について、日経デザインが行った一般の方対象のアンケート調査結果によると、B案を評価した人が最も多く32.4%であり、A案はその約半分の17.4%しか評価が集まっていませんでした。
つまり、大衆にとってA案の『組市松紋』は、最も魅力を感じない案だったということです。
私も正直、A案のシンプルな図柄は、他の色合い豊富な案と比較するとパッとしないなあという印象を持っています。(プロに言わせると違うようですが・・・)
今回の最終選考は、限られた人数の有識者会議において行われるという方式であり、大衆のいわば「人気投票」を参考にする必要はない。
それでも、「A案が選ばれるように仕組まれた出来レース」ではないか、と指摘されたことには理由があります。
それは、4つの案のうち、『組市松紋』が「A案」として筆頭に置かれていた点です。
言うまでもなく、アルファベットはAから始まって、B→C→Dと進んでいきます。数字ではないけれど、1、2、3、4という順番性が明らかに感じられるのがアルファベット。
ですから、「A案」だと「1番」という印象を与えやすいのです。
人は、最初に示されるものに対する印象が、より強く残りやすいことがわかっています。
「初頭効果」です。
さらに、複数の事項が順番に示された場合、番号が若いものに対する反応が良いこともわかっています。
これは「順序効果」です。
実はアンケート調査においても、選択肢がたくさん示されている場合、最初の方に回答が集中しやすいのです。
おそらく、選択肢の後ろのほうにはあまり目がいかず、前のほうを中心に見て選択してしまうからなのでしょう。
アンケート調査設計においては、この「順序効果」が回答結果にバイアスを与えてしまうことから、選択肢はなるべく少なくしたり、オンライン調査の場合には、選択肢の順番を回答者ごとにランダムに入れ替え、バイアスを減らすように図るのです。
出来レースの評価を否定することはできない
2020東京五輪エンブレムに話を戻しましょう。
4つの候補案に対し、A、B、C、Dという項目名を与えられたことは、A案の『組市松紋』が「一押し」であることを意識的に感じさせることを狙ったのではないか、と考えざるを得ません。(厳密な選考においては、順序性を感じさせない記号が用いられます)
これが「出来レースでは」という巷(ちまた)の推測につながったというわけです。
なにはともあれ、五輪エンブレムが決定した今となっては、2020年を心待ちにしましょう。
なお、「初頭効果」「順序効果」については広告・販促にうまく応用することが可能です。
別の形でご紹介しますね。