イカロスが空に飛び立つことを決意し飛行に成功する姿は、経営者がサラリーマン時代を経て起業を決意し、経営者としての成功体験を積み重ねる様と重なるものがあります。太陽に近づくにつれて蝋で固めた翼は溶け、最後にはイカロスは墜落死しました。同じことが多くの経営者に起こっています。成功が経営者に目眩ましするのです。
イカロスの話と経営者の起業は状況が似ている
昔ギリシャのイカロスは
ロウでかためた鳥の羽根(はね)
両手に持って飛びたった
雲より高くまだ遠く
勇気一つを友にして
これは、皆さんもよくご存知の民謡「勇気一つを友にして」1番の歌詞です。主人公は、ギリシャ神話に登場する若者・イカロスです。
ある日、イカロスは王の怒りを買い、父・ダイダロスと共に、ラビリンス(迷宮)へ閉じ込められてしまいました。
何とかしてラビリンスを飛び出すために、イカロスは父親と一緒に鳥の羽を蝋で固めた翼を作り、飛び立つことを決意。
イカロスはラビリンスから、空高く飛ぶことに成功します。
イカロスの姿は、ある意味、経営者がサラリーマン時代を経て起業し、成功体験を積み重ねる姿に重ねることができます。
最初はビクビクと経営を始めたことも、かわいい昔の話。
成功体験(ここでは稼げると定義)を積み重ねることにより、やがて経営者は確固たる自信を得て、自分なりのメソッドで物事を進め始めます。
イカロスと似たようなジレンマに陥る経営者達
イカロスが高く飛ぼうとしたように、経営者も「更により高い目標」を追いかけることを目指します。
会社が成長すること、より経済的に成功することは、経営者にとっての至上命題であり、成長と成功なくば、後に残るのは衰退の道だからです。
ところがある特定の分野で成功すると、経営者の多くが「ある罠」にハマり始めます。
自分の成功体験や業界のメソッドから逸れた意見や知恵を、容易に受け入れ難くなるのです。
イカロスもそうでした。空高く飛ぶことに成功した時、父・ダイダロスはイカロスに何度も「高く飛びすぎるな」と言いましたが、彼はその声を無視しました。
父・ダイダロスのアドバイスが、「飛んだこともないのに意見するな」というくらいにしか聞けなかったのでしょう。
それもそのはず、人間が空を飛ぶことなど、夢のまた夢の時代に、イカロスはそれを成し遂げたのです。現代で例えるなら彼は、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズのような偉業を成し遂げた人物と言って構いません。
丘は遠くなり、雲を軽々と超えた後、イカロスは太陽を目指して飛び始めます。勇気一つを友にして。
その後、イカロスはどうなったでしょうか?答えは歌詞にあります。
赤く燃(も)えたつ太陽に
ロウでかためた鳥の羽根
みるみるとけて舞い散った
翼(つばさ)奪(うば)われイカロスは
墜(お)ちて生命(いのち)を失った
皆さん御存知の通り、イカロスは墜落死しました。
成功体験をかなぐり捨てる覚悟は出来てるか?
- 翼を短期間で作ることに成功した
- 高く飛び立つことに成功した
という2つの成功体験は、イカロスの判断を鈍らせました。
イカロスのチャレンジする姿勢は、それだけで賞賛に値するものであり、チャレンジしたことに価値があるという意見もあるかもしれません。
ひねくれているかもしれませんが、蝋の融点70度に対して、太陽の表面温度は7,000度。これを知る機会があったとしたら、イカロスはどう行動したでしょうか?
同じような現象が、ビジネスの世界では今も日々起こり続けており、経営者が過去の成功体験に囚われ、新たなイノベーションを生み出せなくなる様は、「イカロスのパラドックス」と呼ばれています。※
業界の慣習や思考方法、自分の成功体験をかなぐり捨てる覚悟がなければ、新しい道を創り出すことができないことを、イカロスの話は思い出させてくれます。