なぜ男達は後の苦痛を知っていてラーメン二郎を目指すのか?

マーケティング

 ラーメン二郎にハマった人なら、グルタミン酸がもたらす快楽と引き換えに、何かを失ったり苦痛を感じた経験を一度はしているはずです。それでも人々がラーメン二郎に行列を成すのはなぜなのでしょうか?その答えをCRM( 顧客関係管理)の観点から考えてみました。

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二郎に快楽を感じる人は引き換えに何かを失う

 貴方がもし「ラーメン二郎」のラーメンを食べたことがあったら、どんな体験を思い出しますか?

  調子に乗って食べ過ぎ、痛みを伴ってパンパンに膨れたお腹。

  「ニンニクマシマシ」を唱えた翌日から、3日3晩ニンニク臭が取れず、彼女に振られた19の春。

 二郎にハマった人なら、グルタミン酸がもたらす快楽と引き換えに、何かを失ったり苦痛を感じた経験を一度はしているはずです。

 それでもジロリアン、ジロリエンヌ達が、二郎にハマるのは何故なのでしょうか?

 なぜ連日、二郎の行列は絶えないのでしょうか?

 麺やスープが特徴的なのはもちろん、ラーメン二郎のトッピング体験に、顧客満足を多いに高めるメカニズムがあるのです。解説していきましょう。

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表層機能を満たすことで顧客満足は生まれる

 CRM( 顧客関係管理)とは、顧客と良好な関係を作り出し、維持することを目的とする企業活動のことです。

 顧客満足度を高めるためには、サービスの「本質機能」と「表層機能」を充実させる必要があります。

本質機能

 本質機能とは、顧客が商品に対して「当たり前のように求めるサービス」を指します。二郎の場合であれば、こってり乳化スープだったり、ゴワゴワの太い麺は、顧客が二郎に対して当たり前に求める本質機能です。

 本質機能のスープや麺は、一定水準のレベルに到達すると、差別化を図ることが難しく、顧客も「二郎ならこれが当たり前」と考えるため、顧客満足も一定水準で止まります。

 本質機能のレベルが低い二郎の場合は、かえって顧客を遠ざけてしまいます。例えば、麺やスープのレベルが低いインスパイア系店舗や、スープの乳化度が低い二郎は、「こんなの二郎ではない」と言われ、比較サイトでもこれらの店舗を否定する、熱狂的ジロリアンが散見されます。

 このように本質機能は、一定レベルに到達すれば、顧客満足度を高める効果が限定されてしまいます。

表層機能

 対して、顧客満足度に大きな影響を与えるのが、表層機能です。

 表層機能とは、顧客が商品に対して「ここまでは期待していなかったと感じるサービス」を指します。表層機能が良ければ良いほど、顧客満足度は、急カーブで上昇を見せます。

 ラーメン二郎において、この表層機能の効果を高めているのが、トッピングの注文体験にあります。

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トッピングが想定外のサプライズを生み出す

 ラーメン二郎各店では、着席後に注文をした後、着丼寸前に店員さんから「ニンニク入れますか?」と聞かれます。

 顧客はそれに対して、

  • ニンニク・ヤサイ(野菜)マシマシ
  • アブラ・カラメ(醤油)マシマシ
  • ニンニクマシマシ・アブラスクナメ

 など、店員さんに無料トッピングのオーダー(コールと呼ばれている)をすることが出来ます。

 トッピング次第で、これくらいヘルシーに食べられる日もあれば、
節約社長

 もはや暴力的に、身体をいじめ抜くようなトッピングも、二郎は用意してくれます。
節約社長

 二郎が提供する表層機能は、トッピングという行為を通じて顧客の心を揺さぶることにあります。

 二郎の各店は大抵店が狭く、麺が太いため、店に入ってから実食するまでに、長い待ち時間が生じます。

 そこで多くの顧客がやっているのが、人間ウォッチングならぬ、トッピングウォッチングです。

 先に着丼したトッピング山盛りのラーメンを見て、「アイツまじかよ?」と考えたり、ちびちび野菜を食べる女性客を見て、「もっとガシガシ行けよ!こっちは座りたいんだよ!」と、たかが他者のトッピングごときで、まず最初に顧客たちは一喜一憂します。

 更に着席後は、着丼時間まで「今日は仕事だから、ニンニクは無しか…いや、やっぱり少なめでも入れてもらおう」「野菜マシマシにして、身体を気遣わないとなぁ」などと考え、たかがラーメン一杯のトッピングに思いを馳せます。

 この時、顧客は想定外のスリル感を感じます。なんせ、お残しは許されない暗黙のルールの中、お腹を満腹にしたい。腹八分目にしたい。ギリギリの戦いでトッピングを決めなければなりません。

 こんな「心が揺れる」体験を、普通のラーメン屋で得ることはできません。

 店員さんからいよいよ「ニンニク入れますか?」と1対1で自らのトッピングを聞かれた時、彼は覚悟を決めて言うのです。

  「全マシで(笑)」

 完食して店を出た時、「わかってはいたが、トッピングやり過ぎた。予想以上だ。」とお腹を抑えて歩くのですが、彼は決して苦痛も後悔も感じていないのです。彼が感じているのは、精神的に満たされた快感です。

 お腹が苦しい、ニンニク臭い、野菜の量多すぎ。わかってはいても、全てが予想以上のサプライズとして、激しい「生」を想起します。

 苦痛や落胆と表裏一体で成立するサプライズは、強烈な記憶として残り、「この場所に来なければこんな感情を揺さぶられる体験はできない」と彼は思考します。

 好きになったあの人は、地元でもワルでセクシーな先輩。触るとやけどしちゃうって知ってるけど、好きなんだもん。まるで初恋を知った中学生の女の子にも似た気持ちを、顧客たちは味わいます。

 こうして、1人、また1人とジロリアン、ジロリエンヌは増えていくのです。

 このように、顧客に嫌われるか嫌われないかが明確に別れる、薄氷を踏むようなギリギリの戦いの中で、サービスの表層機能は高まっていきます。

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