殆どのパンが1個100円でもアクアベーカリーが利益伸ばす理由

企業分析

 個店主義は、販売する商品の選定や、提供するまでの業務を各店でやるわけですから、時間と手間がかかるため、一見非効率のように感じるものです。従って、これまで多くの小売店がチェーンストア理論を採用してきました。しかし時代は変わり、個店主義で顧客ニーズを的確に捉えた店舗が利益を拡大し始めています。その代表例として、1個100円のパンで利益を拡大するアクアベーカリーをご紹介します。

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チェーンストア理論より一見不効率な個店主義

 スーパーやファミリーレストランなどの一般消費者向けの小売店・飲食店で、多店舗展開をしている場合、通常は「チェーンストア理論」にのっとった事業運営を行っていますね。

 「チェーンストア理論」とは、商品開発、調達、人事、財務管理等を本部が一括で行い、各店舗は現場業務に専念する手法です。各店舗で共通する業務を本部がまとめてやることで効率化が図れ、コストダウンが可能になります。

 一方で「個店主義」を採用している企業も存在します。

 もちろん、すべてを個店の裁量に委ねるわけではなく、小売店の場合であれば、品ぞろえ、仕入れる商品の選定や発注量、飲食店であればメニュー決め、食材等の仕入れ量、調理などを各店舗が自由に行うことができます。

 個店主義は一見非効率のように感じます。販売する商品の選定や、提供するまでの業務を各店でやるわけですから、時間と手間がかかるからです。

 しかし、その店舗に来てくださる顧客のニーズを肌で感じている担当者が、品ぞろえや仕入れ量を決めるため、販売数が伸びると同時に売れ残りが減り、結果として売上・利益ともアップするのです。

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1個100円の高品質なパンで利益拡大するアクア

 では「個店主義」で大きく売り上げを伸ばしている企業のひとつをご紹介しましょう。

 スーパーなどの店内の一角で展開するパン屋、すなわち「インストアベーカリー」の新興チェーン、「アクアベーカリー(以下、アクア)」は、“100種類100円パン”を掲げるお店です。

 そうです、パンが全品100円で購入できるのです。

 普通のパン屋は安くても1個150円前後、高いものは200円、300円以上しますから、1個100円というのはとても魅力的ですね。

 しかも、アクアは単に安いだけでなく、店内で粉をこねてパン生地を作り、売れ行きを見ながら営業時間中なんども焼き上げるため、おいしい焼き立てパンが手に入ります。(同店では、各店で粉からパンをつくり焼き上げることを「スクラッチ製法」と呼んでいます)

 こうして、安くておいしいアクアのパンは人気が高く、スーパーの全来店客のうちアクアでパンを購入する割合は3割強。

 つまり来店客の10人に3人はアクアでパンを購入します。一般のインストアベーカリーにおいては同1割程度ですから、3倍ものスーパー来店客がアクアにも立ち寄っているということです。

 また、アクアでのお客様1人あたりの購入点数は6点に上ります。通常は3点ほどです。おそらく顧客単価はどちらにせよ500~600円程度であり、アクアだと6個くらいは買えてしまうということでしょう。

 100種類ものパンを販売していますから、「さぞ売れ残りが出るのでは?」と思いますが、前述したように、各店で販売するパンの種類を決め、パン生地から作り、売れ行きを見ながら随時焼いていくのでほとんど売れ残らない。

 廃棄ロスが生じにくいのが個店主義の強みです。

 通常、チェーン展開するパン屋は、自社、あるいは委託先メーカーの工場であらかじめまとめて製造した冷凍パン生地を各店に配送し、店舗では焼くだけです。

 工場での生産性向上のため、パンの種類はある程度絞り込まれています。消費者としては、選ぶ楽しさが減ってしまいますね。しかも、目先の効率を重視し、朝のうちに焼き上げてしまうため、夕方には鮮度が落ちておいしさが損なわれてしまう。

 このように、通常のインストアベーカリーでは、個店ごとの顧客のニーズが反映されにくい品ぞろえ、かつあまりおいしくないため大量の売れ残りが発生しがち。

 パンの値段があまり安くないのは、廃棄ロス分が上乗せされているからなのです。だから購入する人が増えず、結果的に多くのインストアベーカリーは赤字の状態です。

 しかし、アクアは一日平均3千個を売り、しっかりと利益を出しています。

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本質的な顧客ニーズを掴むことは効率化に勝る

 思うに、「チェーンストア理論」は「企業本位の理論」なのです。原価を下げることが最優先、製造・販売段階での効率が勝ちすぎていて顧客ニーズを軽視しています。

 なんでも「出せば売れた」高度成長期の理論でしょう。

 せっかく原価を下げても、顧客に支持されないがゆえの「廃棄ロス」分を売価に反映させるためにさらに顧客が離れていく、という悪循環に陥っている企業が多いのではないでしょうか。

 ニーズが多様化した現在は、「多品種少量生産」が可能な事業運営が求められています。

 アクアの場合、顧客ニーズを反映した品ぞろえ、質(おいしさ)を重視した店内調理が、廃棄ロスを抑え、100円で売っても利益が残る経営を実現しています。

 アクアから学ぶことは多いのではないでしょうか?

節約社長
アクアベーカリー
http://www.aqua-ltd.co.jp/business/bakery-aqua.html

企業分析
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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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