ハーバード大学教授・マイケル・ポーターの「競争戦略論」は、日本国内でも非常に有名で先進的な論文とされていますが、入山章栄氏の著書「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」で、米国の最新式経営学とされるのは「超競争戦略論」です。両者は両立できるものとされますが、日本でこれを体現している事例は稀有です。その1つの例として、超絶美人な自衛官歌手・三宅由佳莉氏の取り組みを紹介したいと思います。
マイケル・ポーターの競争戦略論はもう古い?
ハーバード大学教授・マイケル・ポーターの「競争戦略論」は、日本国内でも非常に有名な論文です。
ポーターの主張は、 「持続可能な競争優位性を手に入れるためには、他者(競合)と戦わないことが大事」 という言葉に集約できます。
新規参入時は競合が少ない業界を選び、選んだ業界内でユニークなポジショニングを取り差別化を図ることが、継続して安定した収益を得るコツだと、我々は学びました。
いわば「守りの重要性」を、ポーターの競争戦略論は教えてくれます。
しかし、筆者も知らなかったのですが、米国で経営学を学ぶ学生や研究者の間では既に、マイケル・ポーターの「企業戦略論」は、過去の学問とされているのだそうです。
この事実を教えてくれたのは、現・早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄さんが執筆された、「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」という本でした。
米国の経営学における主流思想は「超競争戦略」
上記の書籍で、競争戦略論にとって代わる最新の経営学思想として紹介されているのが、”ハイパー・コンペティション理論”、つまり「超競争戦略論」です。
テューレン大学のロバート・ウィギンスと、テキサス大学オースティン校のティモシー・ルエフリは、2000年代前半に発表した複数の論文で、「持続的な競争優位は本当に存在するのか?」という疑問に対して、大規模なデータ分析の結果を踏まえ、3つの発見を世に出しました。
- 発見1】持続的な競争優位性を確保する企業は、アメリカの産業全体で2〜5%しか存在しない。
- 発見2】企業が競争優位性を確保できる時間は短くなり、確保すること自体がどんどん難しくなっている。
- 発見3】現代優れていると評される企業は、一時的な成功を鎖のようにつなぎ、結果として長期的に高い業績を上げているように見えているだけである。
という3つの発見です。
これは、マイケル・ポーターの競争戦略論が、完全では無いことを暗に提示するものとして、大きな衝撃を与えたそうです。
現在では、この論文を踏まえて、米国における経営学の主流思想は、「超競争戦略論(ハイパーコンペティション)」となっています。
超競争戦略論の趣旨は、
・現代の企業間競争は以前に増して激化(ハイパー・コンペティション)しており、「持続可能な競争優位性」を保つことは難しい。
・一時的に競争優位性を失っても、もう一度、競争優位性を取り戻す「競争優位の連鎖」が必要である。
・「競争優位の連鎖」を起こすために、積極的な競争行動を仕掛けられる企業ほど、好業績を実現し、一定の評価を得ている。
という、いわば「攻め重視」の考え方です。
詳しくは、「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」に説明されています。まだお読みになっていない方には、一読を積極的にお勧めする次第です。
著書の中で入山さんは、「競争戦略論」と「超競争戦略論」は両立できる部分があるとしつつも、ユニーク(差別化された)な守りのポジショニングは、攻めの姿勢をとりやすくするための手段に過ぎないと、暗に提示しています。
非常に長くなりましたが、ここから本日の本旨に入ります。(お時間を取らせ大変申し訳ございません。)
私がこの本に書いてあることが、日本でも実際に起こっているのを見てびっくりしたのは、つい先日のことでした。
初の歌手採用自衛官・三宅由佳莉さんとマイケル・ポーターの競争戦略
先週末、筆者はテレビで「美人過ぎる海上自衛官がハニーフラッシュを熱唱」、というニュースが流れるのを偶然目にしました。
よくよく見てみると、好感を持てる愛らしくて美人な女性が、海上自衛隊のセーラー服を身にまとい、色っぽく「ハニーフラッシュ」を歌っているではありませんか。
彼女の名前は「三宅由佳莉(みやけ ゆかり)」さんとおっしゃいます。
大変失礼な話ですが、私はこの前のニュースで彼女のことを初めて知りましたので、最初は芸能人がコスプレでもしているのかと思いました。
しかし、YouTubeで彼女の名前の検索をかけて出てくる動画のどれを見ても、彼女は海上自衛隊の制服を着てステージに出演しています。
興味が湧き、ウィキペディアを調べたところ、彼女はなんと、2009年に自衛隊で初となる声楽採用枠(1人)に合格し、海上自衛隊に入隊した本物の女性自衛官だそうです。
小さな頃から歌うことが大好きで、日大芸術学部の声楽科でも学ばれています。
そもそもミュージカル女優になりたかったとのことですが、通常は思いつく限り、以下がミュージカル女優になる方法です。
- 1:国内のミュージカル劇団に入団する(劇団四季や宝塚)
- 2:芸能事務所に所属しオーディションを受けて合格を目指す
- 3:自らミュージカル劇団を立ち上げる
しかし、いずれの方法も、
- 1、2:競争が激しく、差別化も難しい。
- 3:イニシャルコストがかかり、他劇団との競争が激しく、差別化も難しい
といった困難が待ち受けます。
対して、自衛官としてミュージカルと同じく、オーケストラ(楽団)をバックに歌う歌手となれば、
- 付加価値・ネームバリュー:自衛官「初」の歌手という付加価値、その特異性に付随するネームバリューを手にする
- ブランド化:海上自衛隊という、日本人なら誰もが知るブランドを手に入れられる
- 付加価値サービス:興業ではなく公務であるため、価格競争を気にせず国民の求めに応じたサービスが提供できる
といった、競争戦略論に基づく、差別化戦略を取ることが可能になります。
これによって三宅さんは、「オーケストラ(楽団)をバックに歌う歌手」という競合が多い市場にありながら、「自衛官というポジションを取ることで公務という市場を1人で請け負う」、稀有な競争優位性を手に入れたのです。
知ってか知らずか、三宅さんはポーターの競争戦略論を見事に実践したわけです。
三宅由佳莉さんは既にハイパー・コンペティション戦略を実践している
彼女は、その類まれなる歌声、努力、責任感の強さ、それに持って生まれた「愛らしさ」を、公務へ惜しみなく注ぎ込みました。(すいません。この一文には個人的な感情が、多分に入っています)
彼女が公務を通して、自衛隊の同僚、そして多くの国民へ届けるその歌声は、瞬く間に受け入れられます。
特に被災地の人々への積極的な慰問活動の中で出来上がった「祈り~a prayer 」という歌が大きな反響を得た結果、彼女はこの曲を主題としたアルバムで、2013年にCDデビューを果たします。
このアルバム『祈り〜未来への歌声』は、新人として異例の、オリコンチャート・クラシック部門で2週連続1位を獲得します。
更に、第55回日本レコード大賞企画賞、第28回日本ゴールドディスク大賞クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー、第6回CDショップ大賞クラシック賞を受賞するなど、多くの賞を総なめしました。
これにより、彼女の「オーケストラ(楽団)をバックに歌う歌手」という市場における競争優位性は、揺るぎないものとなります。
ところが、三宅さんの採用が成功したことを受け、2014年に海上自衛隊と陸上自衛隊が合わせて3人の女性を、歌手として自衛官採用します。
確かに三宅さんの歌声も素晴らしいのですが、他の3人も音楽大学出身で声楽の専門課程を経てきた方々です。
陸上自衛隊・中部方面音楽隊所属、鶫真衣(つぐみ まい)さんの歌声の完成度は非常に高い
言い方は少し意地悪かもしれませんが(ファンの方々本当に申し訳ございません。)、三宅さんと彼女たちの歌う能力に大きな差はありません。というか、三宅さんを含めた4人共、国内で上位0.1%に入るレベルで歌が旨いのです。
素晴らしい歌声を持っている競合が、「公務」市場に算入することで、三宅さんの圧倒的な競争優位性はなくなります。
しかし彼女は、現段階で圧倒的な女性自衛官の歌手として、一際立った存在であり続けています。
彼女が、ユニークで差別化された守りのポジショニングを取ることに安住せず、攻めの姿勢をとりやすくするための手段として活かし、新たな「競争優位の連鎖」を仕掛け続けているからです。
海外進出に成功して絶賛される
2014年5月に海上自衛隊東京音楽隊の一員としてオスロを訪問。「ミリタリー・タトゥー2014」で、日本の軍楽隊としては初出演。海上自衛隊東京音楽隊としては、ヨーロッパで初演奏の舞台へ参加し、三宅さんは和服を着て「ふるさと」を歌唱して絶賛される。
セカンド・アルバムも大ヒットさせる
2015年3月発売のセカンド・アルバム『希望~Songs for Tomorrow』が、オリコン週間アルバムランキングのクラシック部門で初登場1位を獲得。2013年8月に発売されたファースト・アルバム「祈り〜未来への歌声」以来2作連続で、クラシック・チャート初登場1位の獲得となった。
「おかやま晴れの国大使」に選出
三宅さんの地元である、岡山県の情報発信や県のイメージアップ、魅力ある岡山県づくりについてアドバイスを行うべく、公務員としては前例がほぼないに等しい、観光大使に任命された。
彼女は、攻めに攻め続けているのです。
遂に自衛官として異例のハニーフラッシュ披露
そして、今年3月のサードアルバム発売に合わせて、三宅さんが挿入歌の1つである「ハニーフラッシュ」を歌い上げる姿が、お茶の間を駆け巡る日がやってきたのです。
以下、動画を御覧ください。
ご存知、ちょっぴりセクシーな名作アニメ「キューティハニー」の、これまたちょっぴりセクシーな歌詞の主題歌を、自衛官歌手が歌い上げるのです。
これは、衝撃としか言いようがありません。見事な攻めの姿勢です。
テレビはもちろん、インターネットニュースでも、彼女がハニーフラッシュを歌う姿が大きな話題となりました。
「公務であの歌詞は良いのか?」「いや、めちゃくちゃありだろ」と、賛否両論を巻き起こし、「競争優位の連鎖」を更に繋いだのです。
彼女は公的機関にあって、自ら新たな企画を提案しています。アニソンを歌うことに飽きたらず、演歌を歌う、ロックを歌う等、今後の構想を彼女は各所でコメントしています。
攻めの姿勢を実際に行動へ移すことで、彼女は成功の鎖をつなぐことを決して辞めようとしません。
美人過ぎる超競争戦略の体現者
彼女自身はもちろん、彼女が有名になることで、海上自衛隊東京音楽隊の知名度はあがり、音楽隊の広報業務(士気高揚、国内外における広報活動)も成功。
彼女の取り組みを通じて、今後更に、海上自衛隊の活動は脚光を浴びることになるでしょう。
私達は彼女から、
- 最初にユニークなポジションを取ることの重要性
- ユニークなポジションに安住せず新たに攻め続ける(競争をしかける)ことの重要性
ということを学べます。
彼女は間違えなく、マイケル・ポーターの競争戦略論を実行し、今まさにアメリカで広く学ばれている最新の経営学「超競争戦略論」を体現し始めているのです。
ここで最後のオチになりますが、本人は、こんな競争戦略うんぬんなぞ考えること無く、純粋に自分の歌声によって、勇気づけられる人々のために、求められる場所あらば、どんな所でも全力で歌っているのだろうと、YouTube動画を見て確信しています。
競合と私が勝手に仮定した後輩の方々に対しても、自分が歩いてならした道を伝え教えるため、存分に共有することでしょう。
現在成功しているかに見える企業の多くも意識せずに、多くの成功(失敗も同じだけある)の連続を鎖のようにつなげて、今に至っているのだと思います。
くどいですが、個人的には、これからもYouTubeで彼女の歌声を欠かさず聞いていく所存です。