次々と生まれては消えていく新商品・新サービスは、数を数え上げれば天文学的なものとなるでしょう。時として人に伝えてあげたくなるほど、消費者から熱烈に求められる大ヒット商品は、マーケティングの視点から「ゲインを増幅するもの」「ペインを減少させるもの」の2つに分類することが可能です。フリマアプリ・メルカリは現代に受け入れられやすい「ペインの解決」で大ヒットとなりました。ショーンが解説します。
世の中から消える商品やサービスの共通項とは
世の中には日々色々な商品・サービスが登場してきますが、その多くは数ヶ月後には何事もなかったかのように消えていきます。
数ヶ月というのは少し言い過ぎなのかもしれませんが、3年後に残っている商品・サービスの確率は、まさに天文学的なものになるはずです。
それだけ私たちの周囲には「新商品!」や「NEW!」という言葉が溢れ、供給する企業側も「とにかく新しい商品を作り続けなければいけない」というプレッシャーに常にさらされています。
では、残るものと消えていくものの差異はなんなのでしょうか。
身も蓋もない言い方をしてしまうのであれば、消えていくものはやはり顧客から「求められていない」のです。
そう言ってしまうと対処の仕方も何もないので、今回はこの顧客から「求められている」ということについて、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
“ペインとゲイン”2つの観点でヒット要因を分析
人々が「こんなものが欲しかったんだよ!」と、思わず言ってしまう商品が、時として世に現れて大ヒットします。
このように、 「現代風に言えば、フェイスブックやツイッターで思わず絶賛のコメントをシェアしてまう商品」 は、マーケティングの観点で分析すると、
- 「ゲインを増幅するもの」
- 「ペインを減少させるもの」
のいずれかに分類されます。
ゲイン?ペイン?ご存じない方もいると思いますので、少しばかりこの概念を説明したいと思います。
「ゲインを増幅するもの」とは?
ゲインとは直訳すると「利得」のことですが、マーケティング用語として一般的に「効用や効果」のことを指します。
つまり、ゲインが増幅するものとは、その商品・サービスを使うことによって、既存のものを大きく上回る効果を得られるもののことです。
理論上はこうなるのですが、あらゆるものが溢れる現代において、ゲインを増幅する商品は、そう簡単に出てきません。
電球や電話の発明に匹敵するような、既存の価値観をすべて覆すようなものが、「ゲインを増幅するもの」に当たると説明すれば、イメージしやすいでしょうか。
「ペインを減少させるもの」とは?
一方でペインは直訳すると「痛み」のことですが、マーケティング用語としては「不便に感じる」状態のことを指し、それが潜在化したものも含みます。
ここ最近で大きな話題を呼んでいる新商品・サービスは、例外なく、この「ペインを解決する」という観点から考え出されたものばかりです。
つまり、世の中からペインを見つけ出し、それを解決する方法を提示することが、大ヒットと呼ばれるものを生み出す上では必須なのです。
逆に言えば、この観点が欠けた状態で、それらしい市場分析や競合分析をしたとしても、そのうち消えてしまう程度のものしか生み出せないでしょう。
メルカリはヤフオク!のペインを減らし大ヒット
分かりやすい例を1つあげましょう。
日本唯一のユニコーン※と言われているスマートフォンのフリマアプリ”メルカリ”は、ご存知の通りサービス開始からあっという間に市場を席巻し、フリマアプリの代名詞にまでなりました。
いわゆるCtoC(個人対個人)マーケットのプラットフォームであるメルカリですが、そのマーケットには既に”ヤフオク!”という圧倒的な強者が存在しました。
個人間のWeb上でのやり取りと言えばヤフオク!であり、個人がWeb上で不要品を売る場合、真っ先に選択肢として上がってくるのがヤフオク!だったのです。
そのような環境下である日本において、「フリマアプリ」というコンセプトは絶対にうまくいくはずがないと誰もが思っていました。
ところが、メルカリは飛ぶ鳥を落とす勢いでシェアを拡大し、今ではアメリカ市場でも、フリマアプリというコンセプトを根付かせようとしています。
なぜメルカリは成功できたのでしょうか?
それは、ヤフオク!の利用者が感じているペインを、徹底的に解決したからです。
ヤフオク!の利用者たちのペインが顕在化していたかどうかは別にして、利用者達はヤフオク!に対して、商品の登録から落札者とのやりとり、商品の発送、代金の受け取り(決済の簡便性)まで、様々な場面で何らかの不便さを感じていたのです。
そこを徹底的に解決することに挑み、また解決したのがメルカリでした。
単純にCtoCマーケットのスマートフォン用プラットフォームと言ってしまえば、ヤフオク!との差は分かりにくいです。
しかしUI(ユーザーインターフェイス:使用感)や、コミュニケーション設計、商品の発送に至るまでありとあらゆる部分で、メルカリはヤフオク!利用者たちが、スマートフォンで抱えていたペインを解決していたため、多くの利用者たちがメルカリを支持したのです。
「ペインの解決」視点はヒットの確率を上げる
私はここで、決してヤフオク!が最初からダメだったと言っているわけではありません。
ヤフオク!が始まった当初はペインですらなかった商品やサービスも、これだけスマートフォンが普及してくると、ペインに変わってしまったものが多数あると言いたいのです。
スマホをはじめ、10年あれば世の中の常識は、あっという間に変わってしまいます。
そのマーケットで圧倒的な強者であったとしても、その時代の変化への対応が遅れてしまうと、後発のサービスにあっという間にシェアを取られてしまう、ということが起こるのです。
メルカリの成功要因は決してこれだけではないのですが、ペインを解決することの重要性はご理解していただけたかと思います。
ただ単に新商品・サービスを出すことを目標にしてしまうと、結局は「数打ちゃ当たる」という状態になってしまいます。
そうではなく、「その商品・サービスでどういうペインを解決するか?」という観点で世の中を眺めるだけで、グッと良い切り口の商品コンセプトが浮かんでくるのではないでしょうか。
商品開発は確かに当たるかどうかは分からない部分はあります。
しかし、そこにペインが確かに存在し、それを解決するようなものが提供できたとしたならば、きっとその商品・サービスが残っていく確率は遙かに高いと言えるでしょうか。
※ユニコーン(企業)
企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で、非上場のベンチャー企業を指す。