NBAのドラフト制度は、個の力がチーム成績を大きく左右するバスケットボールの特性をうまく利用し、前シーズンに成績の悪かったチームから順番に指名していく方式が採用されています。従ってNBAで毎年のようにリーグ上位チームであり続けることは、非常に困難を極めることと言えます。その中で常に圧倒的な結果を出し続けているチーム、サンアントニオ・スパーズの強さから学べる経営の極意をご紹介します。
NBAで常に上位であり続けることは至難の業
北米のプロバスケットボールリーグNBA史上最強のチームといえば、皆さんはどのチームを思い浮かべられるでしょうか?
マイケル・ジョーダン率いる1990年代のシカゴ・ブルズや今年に入り引退を表明したコービー・ブライアントが全盛期のロサンゼルス・レイカーズなど、様々なチームを思い浮かべられるかと思います。
確かに一定の期間だけに目を向ければ、彼らが成し遂げた栄光ある軌跡は、これからも色褪せることはありませんが、いずれのチームもスター選手の引退や、スター選手の体力衰えと共に成績は下降し、今ではリーグ下位に沈んでいます。
なぜならバスケットボールは、個人の技術や才能が試合の結果を大きく左右するスポーツであり、スター選手が引退したりケガで欠場することで、チームの成績は大きく変わってしまうからです。
NBAのドラフト制度は、個の力がチーム成績を大きく左右するバスケットボールの特性をうまく利用し、リーグの強弱関係を常に入れ替えるため、前シーズンに成績の悪かったチームから順番に指名していく方式(ウェーバー制度)が採用されています。
従って、昨年まで驚くほど弱かったチームが、スター選手の獲得と共に翌シーズンに強豪となるのはよくある話で、逆に言えば、NBAで毎年のようにリーグ上位チームであり続けることは、非常に困難を極めることと言えます。
サンアントニオ・スパーズは脅威の常勝軍団
しかし、そのような中で、常勝軍団としてこの20年近くに渡り、リーグ上位に在位し続けているチームがあります。
テキサス州サンアントニオに本拠地を置く「サンアントニオ・スパーズ(以下:スパーズ)」です。
スパーズのビッグ・スリーは、ティム・ダンカン、トニー・パーカー、マヌ・ジノビリによって構成される。
スパーズは1997-1998シーズン以降、50勝以上(勝率60%以上)を17年連続(ロックアウトのあった98-99シーズンを除く)で達成しており、更にリーグ首位は17年で11回、NBAファイナル優勝5回という圧倒的な成績を残しています。
これだけ継続して結果を出し続けているNBAのチームは、歴史上唯一無二であり、スパーズはまさに、史上最強のバスケットボールチームと言えます。
どれだけ派手なチームかとおもいきや、このスパーズ、ユニフォームの色は地味な灰色、他のチームのように大スター選手は誰もいなく、一人ひとりは非常に地味で老獪な選手ばかり。日本でもその存在を知らない方が多いチームかもしれません。
なぜこんなにも地味なスパーズが常勝軍団であり続けられるのでしょうか?
彼らの4つの特徴を取り上げてみることにしましょう。
1)1に守り、2に守り、3、4で攻撃、5も守り
NBAのゲームルールは、得点が入り攻撃的なゲームが展開されるように、国際ルールとは異なったルール設定がされています。例えば、通常、国際ルールはポゼッションが1ターム30秒であるのに対して(現在は国際ルールでも24秒ルールが適用されている:2016年1月20日訂正)、NBAのポゼッション時間は24秒しかありません。多くのチームが1試合平均で100点以上の失点を喫するのに対し、スパーズは20年に渡り1試合あたりの平均失点が100点を下回り続けています。このようなチームは他に例を見ません。イヤらしいディフェンスに音を上げたライバルチームは多くの場合、不利な位置でシュートを打たざるを得ないため、ゴールを決めあぐねます。その後待っているのは、地味(スパーズはダンクやアリウープを不用意に打たない)でも成功率が高い、スパーズメンバー達のシュートです。
2)無理は決してさせないため、選手の故障が極めて少ない
NBAにおいてスタメン選手は特段の事情がなければ、試合当初から控えとなることがご法度とされていますが、スパーズではスタメンに少しでも疲労が溜まっていると見られれば、即座に休養を与えます。例え批判を浴びてもこの方針は貫かれています。結果として、平均年齢が高いスパーズは「おっさん集団」と呼ばれながらも、故障で長期離脱する選手がほとんどおらず、全く衰えることのないメンバーの集まりと評されています。
3)スター選手がドラフトで入らないため海外でオトクな試合巧者を発掘
強すぎるが故に、スパーズはドラフト会議でアメリカ国内の大学に在籍するスター選手を上位指名できません。前述のウェーバー制度によって、上位チームは意中の選手がいても、下位でしか指名しかできないのです。ところがこれを逆手にとってスパーズは、大胆な補強を行います。なんと彼らは海外の無名選手を安価で発掘し、自チームに迎え入れます。トニー・パーカー、ボリス・ディアウ(共にフランス)、マヌ・ジノビリ(アルゼンチン)、など外国籍を持つ主力メンバーは他チームがノーマークの中でスパーズ入りし、後にそのプレーで自分たちを指名しなかったチームを嘲笑うかのように、コンスタントな結果を出し続けています。
マヌ・ジノビリはアルゼンチン出身のトリックスター
4)名将ポポビッチのイズムがチームにとことん浸透している
この最強軍団を率いて足掛け24年目に突入する名将は、グレッグ・ポポビッチです。コーチとしてのポポヴィッチは非常に厳格な指導者であり、とにかく守りを重視した戦術を展開し、個の戦いよりも、チームとしての総合力による戦いを重視します。チームプレイを避けセルフィッシュ(自分勝手)なプレイを見せる選手がいれば、彼はそれが誰であってもコートから下げます。チームの精神的支柱であるティム・ダンカンから、まだ若く伸び盛りで才能あふれるクワイ・レナード、ラマーカス・オルドリッジに至るまで、全ての選手はポポビッチの戦術を納得して受け入れ、チームが勝つためなら攻守で自分が目立たなくとも泥臭いプレーを厭いません。
一見地味に見える堅実な努力こそが常勝の秘訣
スパーズは時にアメリカのNBAファンから「つまらないチーム」と評価されます。常に守りを固め、勝利を掴むためならば地味なプレーに徹するからです。それと同時に「つまらない」と評価するファンは、「どうせまたスパーズが勝つのだろう」と諦めの念を抱いているのも事実です。
堅実な努力の重要性をポポビッチはジャーナリスト・ジェイコブ・リースが述べた名言を繰り返し引用し、メンバーに浸透させています。
「救いがないと感じたときには、私は石切工が岩石を叩くのを見に行く。おそらく100回叩いても亀裂さえできないだろう。しかしそれでも100と1回目で真っ二つに割れることもある。私は知っている。その最後の一打により岩石は割れたのではなく、それ以前に叩いたすべてによることを。」
- 守りをまず徹底して、攻めは確立の高い方法を選ぶ。
- プレーヤーを乱用せず、サスティナブルなチームを作る。
- これまでの先例にとらわれず、あらゆる場所から才能あるプレーヤーを登用する。
- 組織の方針を全てのプレーヤーが理解し、チームとして一体感ある運営を行う。
言うは易く行うは難し、これらの戦略を実行し続けているスパーズのような会社組織を作り上げることができれば、企業経営においても圧倒的な結果が待っているかもしれません。
それでは最後にジノビリのスーパープレイを御覧ください。
Photo credit: RMTip21 via Visual hunt / CC BY-SA
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